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あの顔は見返りに何を要求しようか悩んでいる顔です

ちょっと遅れちゃいましたすいません

 なぜ師里もろさとレイが唐突に現れたのか。

 それを知るためには時刻を夕方にまで遡る必要がある。


 ☆★☆


「全く、私を置いて真夜中に珍しい特災と戦っていただなんて、レイも所長たちもヒドすぎです。

 そのくせ学校を公欠しておいて事務所で綺麗なお姉さんとイチャイチャしているだなんて……」


「だーかーら! それは誤解だって言ってるじゃん!」


 夕日の差し込む事務所の中で、私は1人の少女へと声を荒げる。


 私と写楽しゃらくさんが事務所で休んでいた時に現れた少女。

 私の親友でもあり、この事務所のアルバイトでもある東堂とうどうヒトミは現れるなり騒ぎ出した。

 昨晩黙って置いてかれた不満と、私へのあらぬ誤解で、だ。

 何とかそれを宥めて落ち着かせたのだが、落ち着いた今でも不満と先程の誤解は解けていないようだ。


「そうですよ、私はちゃんと好きな人がいますからね~」


 そんな私たちの不毛な言い合いに呆れたのか、助け舟を出してくれた1人の女性。

 茶色い髪を後ろで三つ編みにし、若草色のゆったりとしたデザインのワンピースの胸元では巨大な双丘が激しく自己主張をしている。


 ……別に何も思ってないし。私はまだこれから成長するし。


 とにかく、雰囲気的にも肉体的にも柔らかそうな女性。

 だが、唯一その額に巻かれた金属製の額当てだけが異彩を放っている。

 探索専門の能力者ウェイカー事務所『サードアイ』の社長にして、数少ないSSランク能力者ウェイカーである写楽しゃらくアイさんだ。


「え? 写楽さん好きな人いるんですか!? ど、どなたです!?」


 その写楽さんの言葉に思った以上の食い付きを見せるヒトミ。

 あれ、でも――


「私、アンタに写楽さんのこと紹介したっけ?」


「ううん、してないよ」


「んじゃ何で知ってるの?」


「……え?」


 なんだその信じられないものを見るような目つきは。


「当然知ってるに決まってるじゃない!」


「何よその〝当然〟って?」


 私はこの人のこと全く知らなかったんだけど。


「世界に7人しかいないSSランクの能力者ウェイカーで、あの『サードアイ』の社長の写楽アイさんだよ? 知ってて当然じゃない」


「あらあら、照れるわ~。でも好きな人は秘密」


 ウフフ と頬に手を当てながら柔らかく笑う写楽さん。


「でも、私も〝あの〟東堂ヒトミさんに会えて光栄だわ~」


「わ、私の名前を知っていてくれたんですか?」


 唐突に写楽さんから名前を呼ばれ、焦ったように声が上ずるヒトミ。


「それは勿論。〝暴走特急〟の異名は有名だし、貴女のお(うち)はお得意様だもの」


「なるほど、そういうことですか! 嬉しいです!」


 なんだか2人で盛り上がるヒトミと写楽さん。

 ヒトミは怒っていたことなど忘れ、楽しそうにしてるし。


「……とりあえず、自己紹介は必要ないみたいね」


 何だか ドッ と疲れながらも私は呟いた。



 ☆★☆



「これからのことなんだけど、さっきアイツから電話がありましたよ」


 写楽さんとヒトミの話が一段落した頃、私はそう切り出した。


「え、師里君から? なんて言ってました?」


 それに写楽さんが素早く反応してくる。


「『特究』を使う許可は降りたようです」


「さすが師里君ですね、では今から向かえばいいのでしょうか?」


「いえ、来る前にある所に寄ってきて欲しいって」


「ある所?」


 疑問の表情を浮かべる写楽さん。


「ハイ、そこでちょっとしたものを受け取ってくれって」


「ちょっとしたもの?」


「大したものじゃないとか言ってましたが……」


「ふむ、では言われたようにそこへ行ってから『特究』に向かいましょうか。それで、そことは一体どこなんですか?」


「あぁ、それはですね――」


 その質問に答える。




「神社です」




 ☆★☆




「ところでレイ」


「どうしたのよヒトミ?」


「所長は、私のことは何か言っていました?」


「いや、全然」


「……もしかして忘れられてたりとかしないかしら?」


「それは……どうだろう」


「…………とりあえず私も着いていくわね」




 ☆★☆




「あれ~、レイちゃん達だ~。どうしたの~?」


「こ、こんにちわサクヤ様」


「アハハ、こんにちわ~」


 私達3人は、杜宮市の外れに位置する杜宮神社へとやってきた。

 するとそこでは探すまでもなく、この神社の神様が(やしろ)の縁側で酒盛りをしていた。

 赤ら顔のその神様――サクヤ様が陽気に挨拶をしてくれる。


「お久しぶりですサクヤ様、変わらずお元気そうですね」


「あ~! アイちゃんだひっさしぶり! この前送ってくれたお酒めっちゃおいしかったよ~!」


「それは良かったです」


 写楽さんとサクヤさんが親しげに挨拶を交わす。

 やはりSSランクの能力者ウェイカーとなると神様とも仲がいいのかな――。


「今度はぜぇーたいに負けないからね!」


「あら、いいですけど私はザルですよ? サクヤ様はすぐに潰れてしまうので張り合いが無くて――」


「むきー! 絶対勝つって言ったら勝つんだもん!」


 そんなことを考えていたら耳に入ってきた会話。

 前言撤回。

 この人達飲み友達なだけかもしれない。


「しゃ、写楽さん。そろそろ本題に――」


「あ、そうでしたね」


「うん? 何々、本題って?」


「実は――」


 ~・~・~


「なるほどね~、アキラちゃんがアレを貸してほしいって言ってるわけだ?」


「ダメ、でしょうか?」


「……うーん」


 そこで思案顔になるサクヤ様。

 私達は「〝アレ〟っていえばわかる」としか聞かされてないから、アレが一体何なのかわかっていない。

 もしかしたらとんでもなく高価なものだったりして。

 神様の持ち物だもの、すごくありそう。


「写楽さん、大丈夫ですかね?」


 隣の写楽さんに小声で問うてみる。


「大丈夫でしょう。あの顔は見返りに何を要求しようか悩んでいる顔です」


 しかし、返ってきたのはそんなしょうもない説明。

 ……本当に神様なのかなこの人。

 でも、そんなこと考えるくらいなら大したものじゃないのかも。

 少しホッとする。


「サクヤ様サクヤ様、見返りは後から何でも持ってきますから早く貸してくれませんか?」


「え、ほんと? 何でもだよ! 絶対だからね!」


「SSランク能力者ウェイカー写楽アイの名前にかけて約束しますよ」


「うっひょー! 太っ腹! すぐ持ってくるね!」


 その言葉にすぐさま社の中に駆けていくサクヤ様。


「……現金だな~」


「日本の神は昔から現金なものよ、レイ。古代の神話でも――」


「あぁ、ハイハイわかったわかった」


 私の呟きを耳ざとく聞きとめたヒトミが薀蓄(うんちく)を語りだしたが、おざなりに聞き流す。

 そうしている間に――


「お待たせ~!」


 ほんのわずかな時間で戻ってきたサクヤ様。

 その手には1本の刀が握られていた。


「〝アレ〟って刀だったんですか」


「ううん、違うよ。これは(つるぎ)


「え、(つるぎ)?」


 私の言葉を否定するサクヤ様。

 でもその手にあるのは、剣というよりも刀に近い反りの入ったものだ。


「大昔はこういう反りの入った片刃のものを(つるぎ)って呼んでたの。多分、これも大昔のものなんじゃないかしら」


「せいかーい! さっすがヒトミちゃん」


「あ、ありがとうございます」


 説明してくれたヒトミの頭をなでるサクヤ様。

 ふーん、(つるぎ)ね~。

 違いはよくわからないけどそう言うんならそうなんだろう。

 もう一度まじまじと見つめてみる。


 長さは1メートル弱かな。思ったよりも長い印象を受ける。

 材質はなんだかよくわからないけど金属っぽい柄と鞘。

 鞘にはなんだろう、龍かな?

 蛇なのか竜なのかわからないが、それっぽい意匠が彫られている。

 でもなんだろう、なんだか何個も頭があるように見えるんだけど……。

 柄と鞘の間には鍔の様なものは見えない、鍔は無いタイプなんだろう。

 全体的に白色に近い銀色をしている。

 唯一、柄頭には銀ではなく赤い水晶のようなものがはめ込まれていた。


 こんなとこ、私にわかるのなんて。

 詳しいことなんてわかんない。


「では、これをお貸し頂けるんですか?」


「アキラちゃんの頼みだからね~。あ、でもくれぐれも壊さないようにね。旦那のだから」


「アハハ、なるほど。ちゃんと伝えておきます」


 サクヤ様もこんな風な冗談を言うんだな。

 そんな風に思い、つられて笑いながらそのつるぎを受け取る。


 しかし、受け取ってから私の両隣にいる2人が全く笑っていないことに気付いた。


「え? あれ、2人ともどうしたの?」


「いや、だってレイちゃん……」


「コノハナノサクヤヒメの旦那さんの持っている剣って言ったら……」


 どこか恐ろしいものでも見るかのような目で私の手の中の剣と、サクヤ様へと視線を動かす2人。

 その様子を見て笑いながらサクヤ様が口を開く。



「だいせいかーい! そう私の旦那ニニギノミコトが高天原(たかまがはら)から持ってきた三種の神器のうちの一つ、天叢雲剣あめのむらくものつるぎでーす!」



 途端、手の中の剣から物質的な重さ以上の重さを感じ始めた。

 プレッシャーとかそういった類の奴。


 ていうか国宝じゃないのぉぉぉ! これぇぇぇ!?

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