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武器ならあるぜ、この2つの拳が

遅くなってすいません

 激突は一瞬だった。


「『血爪刃(ブラッディスラッシュ)』!」


「『勇者流星拳ブレイバーメテオナックル!』」


 伯爵の振るった両の手から、血のような赤黒い刃が爪の数と同じ10条放たれる。

 それに対して俺の放ったいくつもの金色の拳が空中でぶつかりあって爆発した。


 ビリビリビリッ


 と空気が激しく震え、広々とした屋上に煙が立ち込める。

 その煙が俺の視界を覆い、伯爵の姿を隠した。


「ッ!?」


 ほんの数秒。

 屋上に風が吹いたことですぐに煙は晴れたというのに、伯爵の姿はどこにもなかった。

 慌てて辺りを見回す。

 次の瞬間――


「シッ!」


 真後ろに不自然な空気の流れを感じて床に伏せたのと、寸前まで俺の頭があった場所を鉤爪(かぎづめ)の様な鋭い爪が赤い軌跡を残して通過したのはほぼ同時だった。

 地に伏せた体勢のまま強引に振り返ると、空中で爪を振るった伯爵の姿。

 夜闇に舞い、マントをはためかせているその姿はまさに吸血鬼そのもの。


「『霧化(むか)』か!? 卑怯くせぇ!」


「吾輩の力を自由に使って何が悪い? ほら、そろそろ本気で行くぞ」


 そういうと伯爵は、空中で高々と右足を振り上げた。


「『紅断頭台(スカーレットギロチン)』!」


 技名と共に振り下ろされる足。

 そこから巨大な血色の刃が、伏せた俺に向かって放たれた。

 最初は足の軌跡程度だった大きさの刃が、ドンドン巨大になって迫りくる。


「うぉぉぉっ!?」


 俺は床面を殴り、その反動で身を捻って間一髪その刃を避けた。

 目の前を、既に数メートル程まで巨大化した刃が通りすぎていく。

 その刃はそのまま突き進み、屋上の床へとぶち当たる。


 バクンッ


 そんな音と共に屋上の床を大きく断ち切る刃。

 屋上に縦一文字の大きな割れ目が生まれる。

 だが刃はそこで止まらず ズガンッ ズガンッ という音が階下から響かせ、建物全体を大きく揺らした。

 音が鳴り終わったのは10数回鳴ってから。

 それは、この建物の階数と同じだった。


 地面まで届いたのかよ、やっぱり半端ないなコイツは!


 心の中で目の前の存在の脅威を再確認しながら、大きく距離を取り体勢を立て直す。


「ふむ、よく避けた」


 トン と静かに床へと降り立った伯爵がそう告げてくる。

 凄まじい破壊を見せたというのに、その顔には何の疲労もない。


 あの程度の技は大したことないってか。バケモンめ。


 しかし、そんな余裕を見せる伯爵はそのまま俺に視線を向けるだけで攻撃をしてこない。

 何かを待つかのように、構えを取る俺に目を向けたままだ。


「……だが素手のままでは勝負にならん、早くあの〝(つるぎ)〟を出せ」


 痺れを切らしたかのように、伯爵は俺にそう告げてきた。

 ……なるほど、コイツは俺が〝聖剣〟を抜くのを待ってたってことか。

 だが――それは無理だ。


「無ぇよ」


「……何だと?」


 拳を構えたまま答えた俺に、伯爵が問い返す。


「だから言葉通りの意味だよ。今の俺は聖剣を持ってない」


 そんな伯爵にハッキリと答える。


「それでは何か? 貴様は武器も持たずに吾輩と戦おうというのか?」


「武器ならあるぜ、この2つの拳が」


 体の前で両拳を ゴツン とぶつけて見せる。

 そんな俺の様子に伯爵は最初驚いたように目を見開き、次いで――


「クククッ ハーッハッハッハッハ!」


 大きく笑い出した。


「ハハッ 貴様、素手で吾輩と ククッ 戦うつもりだったのか? 愚かすぎるぞ クククッ」


 そう、伯爵はひとしきり笑ったあと――





「……舐めるな、人間」





 笑いを消し、冷徹な目を俺に向けてきた。


「鎧はともかく、武器がなければ貴様の中にどれほど大量の力があったところで使えんではないか。

 素手で使える力なんぞ微々たるものだ、貴様本来の力の5割も出せぬだろ。

 貴様の強さはあの剣に因る部分が大きかったことを、まさか知らなかったわけではあるまい?

 その剣が無いというのに、それでも吾輩と戦うという気か?」


「あぁ、当然だ。ここで俺が戦わなかったら、誰がお前を止めんだよ」


 伯爵の眼をまっすぐに見つめながら言ってやる。

 ここでコイツを倒せなければ、何千何万という人が犠牲になる。

 それだけは防がねばならない。

 だが、俺だって今の俺がコイツに勝てないっていうことなどわかっている。


 だから保険(・・・)を掛けておいた。


 あとはそれが間に合うかどうかだけ。


「愚かだな人間、負けるとわかっていても戦うか。

 しかし吾輩にも恨みがある。手心など加えぬぞ」


「いいぜ、上等だよ!」


 強く、強く拳を握って応える。

 しかし、言葉とは裏腹に内心では焦っていた。



 頼む、レイ。急いでくれ。



 ☆★☆


 ブゥンッ


「おぉっと!」


 目の前を漆黒の剣が通り過ぎていく。

 紙一重で影騎士の攻撃を避け、即座に反撃へと移る。


「『影繰(かげくり)(かぶと)』!」


 一瞬で印を結ぶと魔法陣が俺の背中に展開する。

 そこを通って魔力がオレの影へと流れ、形を変える。

 丸太の様に形を変えた影が地面から飛び出し、影騎士へと向かう。


 ガギィン


 しかし、咄嗟にその攻撃を騎士は左手の盾で受け止めた。


「チッ! やっぱり盾が邪魔だな!」


 すぐさま距離を取って舌打ちする。

 一撃離脱、ヒット&アウェイの戦いのオレとでは防御力のある盾は相性が悪い。

 攻めあぐねていたそんな時――




「ならばその盾を壊せばよかろう」




 そんな声と共に、部屋に雷光が奔った。


 ズバァンッ


 まるでレーザーの様に雷光を纏って一直線に影騎士へと飛んだのは一本の長大な槍。

 しかし、その突然の攻撃にも影騎士は反応する。


 ガギィィィンッ


 と飛来した槍と影騎士の盾がぶつかり合う。

 だが――槍の勢いは止まらない。


 ガリガリガリガリッ


 と雷光と冷気を撒き散らしながら、盾の表面を穿ち続ける。


[う、うぉぉぉぉっ!]


 それに対し騎士が吠え、片手に握った剣を地面に突き刺した。

 そうして足を広げ腰を落とし、両手で盾を支える。

 体全体で耐える姿勢だ。


 そのまま数秒が過ぎる。


 圧倒的破壊力を示した槍は、唐突にその光を消して投げ放った者の元へと舞い戻った。

 残されたのは影騎士だけ。

 その姿は無事であるが、その左手に持っていた盾には大きな亀裂が入っていた。


「ほう、軽く投げただけとはいえ耐えるとはよくやるもんじゃな」


「アレで軽くとかドンだけだよ」


 返ってきた槍――ブリューナク――をキャッチしながら入ってきたスズ。

 その横に並びながらオレは呆れる。

 ここにいるってことはこいつは仮面の女を倒してきたのか。

 流石に強いな、味方だとこれほど心強いのか。


「だがまぁ、盾にヒビは入ったか……それよりもドラキュラの奴はどこだ?」


 部屋を見回しながら問いかけてくるスズ。


「奴なら上だよ上」


 それに人差し指で天井に ポッカリ と空いた穴を指し示す。


「なるほどの、じゃが簡単には通してくれそうじゃな」


 そのスズの言葉通り、影騎士が既に剣を拾い体勢を立て直していた。


[ここは通さん]


「ならば押し通るのみじゃよ。なんといっても――」


 ズズゥンッ


 スズがそう言った瞬間、建物全体が振動する。

 続いて、ドガン ドガン という音と共に信じられない程の魔力の塊が頭上から迫ってきたのを感じた。

 あっという間にそれはオレ達の近くに到達する。


 それは刃。

 信じられないほどに長大な、血の様に真っ赤なギロチンの刃だった。

 それが部屋を真っ二つに叩き斬り、下層へと消えていく。

 断面は同じ階の他のフロアにまで遠く続いている。

 このことが刃の異常な巨大さを示していた。

 けれども――


 刃を見てスズは笑っていた(・・・・・)

 常識外の攻撃に対して、笑っていた。


 その時、刃が通過したことの余波が通過してから数秒のタイムラグを経て発生した。

 部屋に突風が吹き荒れる。

 その風がスズの長い髪を舞い踊らせた。

 しかしスズはそんなことなど気にも留めない。


「――なんといっても、ドラキュラとの戦いは面白そうじゃからな!」


 突風が吹き荒れる中、仁王立ちしたスズはそう言い放つ。

 その視線は既に目の前の敵ではなく、屋上を睨み付けていた。

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