↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
何故か俺は付き合えない!  作者: 那須 儒一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
5/10

第五話 先生の場合

夕暮れ時、部活動の声が校庭から響く中、

俺だけ空き教室に取り残されていた。


「冬柴《ふゆしば》くん……また、補講ですか……

そんなに私に会いたいんですか?」


「先生が補講をやめてくれたら俺も参加せずに済みますよ」


「あなたがテストで赤点を取らなければいいだけですよ」


くっ……俺は数学が苦手だ……そのため、テストがあるたびに佐久間《さくま》咲《さき》先生のお世話になっている。


佐久間先生はショートボブの金髪に青い瞳をしている。アメリカ人と日本人とのハーフらしい。


「ここはそもそも考え方が違います。

あなた、脳みそはついているのですか?」


そう……この先生は流暢な日本語で毒を吐いてくる。それ目当てに補講を受ける物好きもいるらしいが……俺は少し苦手だった。


ありがた迷惑だが、

彼女は夜まで補講に付き合ってくれる。


数学が万年赤点スレスレの俺は、補講の度に呼び出されていた。


まぁでも、自分の時間を削ってまで生徒に尽くしてくれている、いい先生だとは思う。


気づけば時計の短針は七を指していた。


「ふぅ……今日はこのくらいにしておきましょうか。冬柴くん、いつものように自宅まで送りますよ」


「いや、大丈夫ですよ。近いですし」


「通学の時間を短縮して、

少しでも勉強時間に充てなさい」


「……はい」


返す言葉もない。


赤いスポーツカーに乗せられ、気まずい時間が流れていく。


助手席で、呼吸の仕方さえ忘れたような居心地の悪さを感じる。


「えっ!」


佐久間先生が突然声を張る。


「冬柴くん、緊急事態よ!」


「何かあったんですか?」


普段と違う先生の剣幕に、気圧される。


先生は信号でUターンをすると、ファミレスの駐車場に車を停めた。


「先生、いったいどうしたんですか?

車が故障でもしたんです?」


「何を言っているのですか?

あれを見てください!」


先生の指し示す先に、ファミレスの旗が立っていた。どうやら、ゆるキャラみたいなマスコットキャラとのコラボの広告のようだ。


「なんですか、あれ?」


「あれは、ネムネムくんよ。

今、コラボ料理を出しているの。

今ならもれなく限定キーホルダーがもらえるのよ」


「へぇー、そうなんですね」


聞いておいてなんだが、まったく興味がない。


「ところで……冬柴くん……お腹空いているわよね?」


「えっ……まぁ……」


「よし、それなら決まりね。

ご両親に連絡してください。

私が奢ってあげます」


「両親なら基本的に出張で家を留守にしていますから必要ないです」


「なら、好都合ね!」


なんだこの先生……突然キャラ変したぞ。


佐久間先生に強引に手を引かれ、ファミレスに入店した。


先生はテーブル席に座るなり、スマホで注文を始めた。


俺も何だかんだいって、

久しぶりのファミレスに浮かれ、メニューに目を通していた。


「追加で注文するのですか?」


「へっ……追加?」


「はい、私とキミはネムネムくんハンバーグを食べるのです」


「食べるのですって……俺の分も選んじゃったんですね」


「冬柴くん、何を言っているのですか?

ネムネムくんのキーホルダーがついてくるのですよ。コラボハンバーグ一択でしょ」


圧がすごい。まぁ、それだけ好きってことか。

奢りだしあんまりわがままは言わないようにしよう。


「でも、意外ですね。先生って感情豊かなんですね」


「キミは私を何だと思っている」


「数学に取り憑かれた冷酷な教師」


「冬柴くん……明日も補講にしますよ」


「すみません。冗談ですって、生徒思いの素敵な先生だと思います」


「ふんっ、今さら取り繕っても遅いですから」


「そんなことないですよ。いつも送ってくれますし、今日だってご飯までご馳走していただいて、ありがとうございます」


「キミは、意外と気持ちをストレートに伝えるのですね」


「ま、それが長所でもありますから」


そうこうしていると、配膳ロボットがハンバーグとライスを運んできた。


「あっ、俺、水取ってきますね」


「あ……ありがとうございます」


セルフサービスコーナーから、コップに注いだ水を運ぶ。


って……えっ?


テーブルの上に二つの鉄板――佐久間先生の前にあるはずのライスと特大ハンバーグは既に姿を消していた。


「先生、もう食べたんですか?」


「すみません……お腹が空いていまして……ゲフッ」


俺が水を注ぐのに一分も経ってないぞ……化け物か?


先生が料理の隣に置かれていた黒い小袋を手に取る――息を飲み、それを開いた。


「それが、限定キーホルダーですか?」


袋を開くと、白くて丸い団子のようなキャラクターが巨大な剣を持っていた。


「これは……死んだ父の仇を取るため、剣を取ったネムネムくん」


どういう世界観の話だよ。


「そうなんですね」


ハンバーグを頬張りながら、普段は見れない先生の浮かれ顔に、少し見惚れていた。


「冬柴くん……キミのも見てみたい……」


「あ、これ、いくつか種類があるんですね。

わかりましたよ。開けますね」


小袋を破ると、グラサンをかけ特攻服を着たネムネムくんが出てきた。


「何だ……これ?」


「それはっ! 反抗期にグレたネムネムくん!」


マジで世界観がわからん。


「先生、いりますか?

俺、興味ないですし」


「いいの?」


「はい、どうぞ!」


「やったー!」


この人、子どもなんだか大人なんだか分からない人だな。


「先生、よだれがついてますよ」


俺は紙ナプキンで先生の口元を拭ってやる。


「なっ……ありがとう……ございます。

冬柴くんは女性慣れしているのだな」


「そうですか、でも俺、彼女いたことないですよ」


「そうなのか?」


「だから、いつでもお待ちしていますよ」


「キミは……教師を誑かす気か?」


「ははは、冗談ですよ。先生は俺に誑かされるようなチョロい女性じゃないですよ」


「そ、そうだな……」


その後も先生と思いがけないひと時を過ごした。


少しだけ、次の補講が楽しみになったかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。