第31話 光に集うもの
翌日。
俺たちは訓練を始めた。
「まずは、光を小さくする」
「任せろ!」
アンコウの提灯が光る。
ぽうっ。
「大きい」
「む」
少し小さくなる。
「まだ大きい」
「むむむ……!」
さらに小さく。
「もう少し」
「……」
最終的には、豆粒ほどの光になった。
「どうだ!」
「まあまあ」
「まあまあだと!?」
「でも前よりずっといい」
「……ふっ」
アンコウが得意げに笑った。
「当然だ。我は闇を知る者――」
「次」
「話を最後まで聞け!」
訓練は続いた。
今度は光を一方向だけに向ける。
アンコウの提灯が前方を照らす。
「違う。広がりすぎ」
「難しいな……」
「じゃあ俺を照らしてみろ」
「了解した」
光が俺に向く。
俺の身体だけがぼんやり浮かび上がる。
「できてる!」
「本当か?」
「ああ!よくやった!!」
「ならば次はカジキだ!」
光がカジキへ向く。
「グルル?」
カジキが首を傾げる。
「……少し明るすぎるな。」
「グルル……」
「次はオウムガイ」
「お願いします」
オウムガイの殻だけが照らされる。
「完璧です」
「フッ……!」
アンコウが嬉しそうに胸を張った。
「我が灯火は進化している!」
「まだ進化はしてないけどな」
「言葉の綾だ!」
だが
訓練を続けるうちに、あることが分かってきた。
アンコウは「照らす」こと自体はできる。
問題は、暗闇の中で光をどう扱うかだった。
広げれば敵に見つかる。
狭めれば仲間を見失う。
強くすれば目立つ。
弱くすれば届かない。
「難しいな……」
アンコウが呟く。
「だから面白いんだろ」
俺が言うと、アンコウがこちらを見る。
「……お前は本当に変な奴だな」
「お互い様だろ」
「グルル」
カジキが同意する。
「貴様もだ!」
訓練を再開する。
今度は俺がアンコウから離れて泳いだ。
「俺が見えるか?」
「見えるぞ!」
さらに離れる。
「今は?」
「まだみえるぞ!」
さらに離れる。
「どうだ?」
「……なぬっ!?見えない…だと?」
光を強くする。
「それじゃ敵にも見える」
「ならば……」
アンコウは光を弱める。
そして、ただ前方へ光を投げるのではなく――俺の身体だけを追うように、光の向きを細かく変え始めた。
「……!」
俺は驚いた。
アンコウの光が、俺の位置だけを追っている。
「今のいいぞ!」
「本当か!?」
「ああ!」
アンコウは集中する。
俺が右へ動けば右へ。
左へ動けば左へ。
近づけば弱く。
遠ざかれば少し強く。
まるで俺のためだけに存在する光のようだった。
「できるじゃないか!!」
「……我にも、できることがあるのか」
アンコウが小さく笑った。
「そうだな」
「我は敵を倒せぬかもしれぬ」
「まだな」
「闇を消せぬかもしれぬ」
「それもまだだ」
「だが――」
アンコウの光が、俺を照らす。
「仲間を見失わせぬことなら、できる」
「それでいい」
その瞬間だった。
遠くから。
何かの気配がした。
カジキが振り返る。
「グルル……」
オウムガイも動きを止める。
「何かいます」
俺は前方を見る。
暗闇の向こう。
何かが、こちらを見ている。
「……敵か」
アンコウの光が揺れた。
俺は言う。
「アンコウ」
「分かっている」
アンコウは光を消さなかった。
だが、強くもしなかった。
俺たちだけを照らす。
敵には、できるだけ見せない。
「行こう」
俺たちは暗闇へ進んだ。
その先に何がいるのかは分からない。
ただ一つだけ分かる。
アンコウはもう、ただ光を出しているだけではない。
自分の光が何のためにあるのか。
少しずつ、理解し始めていた。




