第30話 弱いということ
久しぶりの投稿です。色々忙しくてこんな日が空いてしまいました。
その日の探索を終えたあと
俺たちは海底の岩陰で休んでいた。
カジキは身体を岩に寄せるようにしてじっとしている。
「グル……」
オウムガイは今日の出来事を整理するように、ゆっくりと触手を動かしていた。
そしてアンコウは――
「……」
珍しく黙っていた。
いつもなら何かにつけて、
『闇より生まれし我が力を見よ!』
とか、
『この程度の敵、我の灯火で――』
とか言い始める。
なのに今日は静かだった。
「なあ」
「……なんだ」
「気にしてるのか?」
「何をだ」
「今日のこと」
アンコウの光が、少しだけ揺れる。
「……」
「敵を呼んだこと」
「……そうだな」
意外にも、否定しなかった。
「我の光がなければ、敵は寄ってこなかった」
「でも、お前の光がなければ俺たちは逃げ道を見つけられなかった」
「それでもだ」
アンコウが俺を見る。
「我が弱いからだ」
「……」
「強ければ、敵を寄せても倒せる」
アンコウは自分の提灯を見つめる。
「強ければ、我らが迷うこともない」
「強さだけが全部じゃないだろ」
「綺麗事だ」
アンコウは即答した。
「弱い者が戦場で仲間を守れるのか?」
「……」
「我は知っている」
その声は低かった。
「我の灯火は、強くない」
普段なら絶対に認めないことだった。
「敵を倒すほど明るくもない。闇を消すほど広くもない。仲間を守るには……中途半端なのだ」
アンコウは笑った。
でも、その笑顔はいつものものじゃない。
「だから我は、強くなりたい」
俺は黙ってアンコウを見る。
「敵を倒したいのか?」
「それもある」
「じゃあ何のためだ?」
「……」
アンコウはすぐには答えなかった。
「置いていかれたくない」
ぽつりと言った。
「……え?」
「我だけが弱くて、我だけが足手まといになって……最後には、お前たちが先へ進んでしまう」
「そんなこと――」
「あるかもしれないだろう」
アンコウは俺の言葉を遮った。
「お前は捕食して強くなる。カジキは速い。オウムガイは知識を持つ」
「グルル」
カジキが小さく鳴いた。
「我だけが――」
アンコウは言葉を止めた。
そして、少し恥ずかしそうに続けた。
「我だけが、何もない」
俺は思わず笑った。
「何笑ってる!」
「いや……」
俺はアンコウを見る。
「お前、ちゃんと仲間のこと見てたんだなって」
「当然だ!」
「じゃあ、一つ教えてやる」
俺は身体を少し動かした。
「俺だって、お前がいなかったら困る」
「……」
「カジキもそうだろ?」
「グルル!」
「オウムガイも」
「ええ。あなたの灯火は、我々に必要です」
「……」
アンコウが固まった。
提灯の光が、少しずつ強くなる。
「……ふ、ふふ」
「なんだよ」
「そうか」
アンコウが胸を張った。
「つまり、我は必要とされているのだな!」
「急に元気になったな」
「ならば話は早い!」
アンコウがぐるりと身体を回した。
「我が灯火を極限まで鍛え上げ、この海の闇そのものを支配してみせよう!」
「やっぱりそっちに行くのかよ」
「フハハハハ!」
カジキが呆れたように鳴く。
「グルル……」
オウムガイも少しだけ触手を揺らした。
「ですが、先ほどよりは良い表情です」
「……そうだな」
俺も笑った。
アンコウは弱い。
少なくとも、今は。
けれど
弱いことを知っているからこそ、変われることもある。
俺は捕食して強くなる。
けれど、こいつは違う。
こいつが強くなるためには――
何かを食べる必要なんてないのかもしれない。
「……明日から、光の訓練でもするか」
「望むところだ!」
「ただし、敵を呼び寄せるような光は禁止な」
「……」
「お前、今ちょっと嫌そうな顔しただろ」
「していない!」
「してる」
「していない!」
「グルル」
「カジキまで!」
暗い海底に、俺たちの声が響いた。
その中心で。
アンコウの小さな灯火だけが、静かに揺れていた。
面白かったでしょうか?次回も読んでください。




