第29話 我が灯火
お久しぶりでございます!ちょっと期間が空いての投稿です。今回からアンコウ進化編が始まります!
アンコウ進化編の全体像を考えてたら結構時間がかかってしまいました。是非最後まで読んでいってください!
暗い。
どこまで見渡しても、暗い。
海底に広がる闇は、今まで何度も見てきたものだった。 だが、この場所の暗闇は少し違う。
ただ光がないだけじゃない。
まるで、闇そのものがこちらを見ているような――そんな気配があった。
「……止まれ」
俺がそう言うと、隣を泳いでいたカジキが急停止した。
「グルル……」
オウムガイも触手を伸ばし、周囲を探る。
そして。
少し離れた場所で、ぽう……と、小さな光が浮かび上がった。
「……来たか」
アンコウだった。
頭の先にある提灯のような光を揺らしながら、こちらへ近づいてくる。
「遅いぞ、我が同胞たちよ」
「いや、お前が勝手に先に行ったんだろ」
「フッ……それもまた、闇に選ばれし者の宿命というものだ」
「迷子になっただけだろ」
「……」
アンコウの光が一瞬だけ弱くなった。
「……今のは聞かなかったことにしてやろう」
「いや、聞こえてたけどな」
「グルル」
カジキが妙に楽しそうな声を上げる。
「お前も笑うな!」
アンコウが怒った。
いつもの光景だ。
だけど、俺は少しだけ違和感を覚えていた。
アンコウの光が、以前より不安定なのだ。
強くなったり、弱くなったり。
まるで呼吸するように明滅している。
「お前、どうした?」
「何がだ?」
「光だよ。さっきから変だぞ」
「……む」
アンコウは自分の提灯を見る。
「我が灯火が?」
「ああ」
「……ふむ」
アンコウはしばらく黙った。
そして、いつもの調子で胸を張る。
「これは当然のことだ。強大な力を秘めた灯火ほど、その力を扱うには――」
「扱えてないんだな?」
「……」
「図星か」
「うるさい!」
アンコウが怒鳴った瞬間、光が一気に強くなった。
その瞬間だった。
周囲の闇が動いた。
「……え?」
俺が気づいた時には遅かった。
遠くの暗闇から、何かがこちらへ向かってくる。
数は一つじゃない。
二つ。
三つ。
いや、もっといる。
「アンコウ、光を消せ!」
「な、何故だ!」
「敵が寄ってきてる!」
「……!」
アンコウが慌てて光を弱める。
だが、もう遅かった。
闇の中から、黒い影が次々と現れる。
細長い身体。
異様に大きな口。
目はない。
ただ、アンコウの光だけを追っている。
「グルルル!」
カジキが前へ出た。
「待て!」
俺が叫ぶ。
カジキの身体が止まる。
敵の数が多すぎる。
正面からぶつかれば、俺たちの方が消耗する。
「オウムガイ、逃げ道は?」
「右方に狭い岩場があります。通過できる可能性はあります」
「よし、そこへ――」
「待て」
アンコウが言った。
「……アンコウ?」
「我が灯火は、敵を呼び寄せる」
「だったら今は消せ」
「分かっている」
アンコウの光が、ゆっくりと小さくなった。
「だが……」
その声は、いつものふざけたものではなかった。
「我が光は、仲間まで照らしてしまう」
「……」
「暗闇で、我らがどこにいるのか分からなくなる。だから、我は光を灯す」
アンコウは自分の提灯を見つめた。
「だが、光を灯せば敵が来る」
「それは……」
「消せば、仲間が迷う」
アンコウは笑った。
いつもの、少し偉そうな笑い方だった。
「なんとも皮肉な話だろう?」
俺は何も言えなかった。
アンコウの光は弱い。
敵を倒すほど強くない。
闇を消し去るほど強くもない。
それでも。
暗闇の中で、俺たちが進むためには必要だった。
「……なら、変えればいい」
「何?」
「光そのものを変えるんじゃない」
俺は敵の動きを見ながら言った。
「使い方を変えるんだ」
アンコウが目を見開いた。
「……使い方?」
「ああ。敵を照らす必要なんてない。俺たちだけが見えればいいんじゃないか?」
アンコウは黙った。
その提灯が、ほんの少しだけ揺れた。
「……我らだけを」
「ああ」
「照らす……」
アンコウはしばらく考え。
「フッ……」
口元を吊り上げた。
「なるほど。つまり我が灯火は、敵を滅ぼすための光ではなく――」
「まだ滅ぼそうとしてたのかよ」
「最後まで言わせろ!」
アンコウは怒鳴る。
そして、再び光を見つめた。
「……仲間を導くための灯火」
その言葉だけが、暗い海の中に残った。
俺たちは敵を避け、岩場へと泳ぎ込んだ。
その間、アンコウの光は一度も大きくならなかった。
小さく。
小さく。
必要な場所だけを照らしていた。
それでもまだ、不安定だった。
だが――
さっきよりは、ずっとましだった。
「……我は」
アンコウが小さく呟いた。
「まだ、この灯火を知らぬのかもしれぬ」
俺はその言葉を聞きながら、前を向いた。
アンコウの進化は、まだ始まっていない。
けれど。
何かが変わり始めている。
そんな気がした。
面白かったでしょうか?また次回も読んでください!




