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第24話 深海の境界

 深く潜る。

 それだけのことなのに、すぐに身体へ違いが伝わってきた。

 水圧が強くなる。

 周囲の水が重くなったように感じる。

 上を見る。

 さっきまで見えていた海面から差し込む光は、もうほとんど見えない。

 残っているのは、仲間たちの姿だけ。

 そして、その姿すら少しずつ闇に溶けていく。

「……暗いな」

 俺が呟く。

「深くなっていますからね」

 オウムガイが答えた。

 その声にも、少しだけ緊張が混じっている。

 俺はさらに進もうとした。

 すると。

「待て」

 アンコウが言った。

 振り返る。

 アンコウは少し離れた場所にいた。

「どうした?」

「少し速すぎる」

「……あ」

 俺は気づいた。

 俺は普通に泳いでいるつもりだった。

 だが、アンコウたちは違う。

 俺の身体は深喰魚になったことで、この深さにもある程度適応している。

 けれど、仲間たちはそうじゃない。

 特にカジキ。

 いつもなら誰よりも速いはずなのに、今は身体を重そうに動かしている。

「カジキ、大丈夫か?」

「グル……」

 返事はある。

 だが、いつもの勢いがない。

 カジキは速度に特化した身体を持っている。

 その分、深海の水圧は大きな負担になるのかもしれない。

「少し休むか?」

 俺が言うと、カジキは首を振った。

「グルル」

「……そうか」

 アンコウも黙っている。

 オウムガイだけは比較的平気そうだ。

 硬い殻を持つ身体は、こういう環境には向いているらしい。

 しかし、

 それでも全員が余裕を持って進めているわけではない。

 俺は海の奥を見る。

 まだ先がある。

 ここでさえ、深海の入り口に過ぎない。

「……この先は、もっときついんだろうな」

「そうでしょうね」

 オウムガイが答える。

「では、戻りますか?」

 その言葉に、俺は一瞬だけ考えた。

 戻る。

 それも選択肢の一つだ。

 けれど。

「いや」

 俺は首を振った。

「進む」

 アンコウが俺を見る。

「無茶をするなよ」

「分かってる」

 そう答えて、ゆっくり泳ぎ始める。

 今度は仲間たちの速度に合わせる。

 俺だけ先へ行くことはしない。

 少し進んだところで、突然魚群が一斉に方向を変えた。

「どうした?」

 魚たちが逃げている。

 何かから。

 俺は暗闇を見る。

 何もいない。

 だが。

 次の瞬間。

 遠くを巨大な影が通過した。

「……何だ?」

 あまりにも大きい。

 姿が見えない。

 ただ影だけが見えた。

 それだけなのに、身体が勝手に警戒する。

 カジキも止まった。

 アンコウも黙っている。

 オウムガイが小さく呟く。

「今のは……」

 俺は暗闇を睨む。

 影はもう消えていた。

 けれど、俺たちは理解した。

 この先には

 今まで出会ったことのないような生物がいる。

 俺は口元を上げた。

「面白くなってきたな」

 ただし

 その言葉とは裏腹に、仲間たちの状態を見て、俺は一つの問題を強く意識するようになっていた。

 俺だけが強くなってもこの先には行けない。

 これだけは忘れてはならない。

次回も見ていってください!

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