↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
23/35

第22話 喰らう者

 カジキが仲間になってから、しばらく経った。

 海は相変わらず広かった。


 どこまで進んでも海。

 上を見ても海。

 下を見ても海。


 そして、そのどこかには必ず、俺たちより強い何かがいる。

 以前なら、それだけで恐怖だった。

 見つからないように逃げる。

 気配を感じたら隠れる。

 腹が減ったら、食べられそうなものを探す。


 それが俺の生き方だった。


 けれど、今は少し違う。


「止まれ!」


 俺が声を出すと、魚群が一斉に速度を落とした。


 アンコウがゆっくりと身体を止める。


 オウムガイも触手を揺らしながら停止した。


 そして、


「グルル」


 カジキも止まった。


「よし!止まれるようになったな!」


 俺がそう言うと、カジキは少しだけ胸を張った。


 ……たぶん。


 以前よりは、俺の言葉を理解するようになっている。


 ただ。


「絶対に勝手に先へ行くなよ」


「グルル」


「本当にだぞ」


「グルル」


「……信用していいんだよな?」


 カジキは俺を見る。


 俺を見る。


 そして。


 遠くを泳ぐ小魚を見る。


「おい」


 カジキが少しだけ身体を前に出した。


「待て」


 止まった。


「今のも偉いぞ〜!」


 俺はため息をつく。


 仲間になったとはいえ、やっぱり扱いが難しい。


 だが、そんなカジキを見ながら、俺は少しだけ笑っていた。


 仲間。


 その言葉が、自分にとってこんなに不思議なものになるとは思わなかった。


 俺はずっと、一匹だった。


 人間だった頃だってそうだった。


 そして、この世界に来てからは、


 それ以上に一匹だった。


 海の底。


 弱い魚。


 食われる側。


 逃げることしかできない存在。


 それが今は、


 俺の周りを仲間が泳いでいる。


 魚群。


 アンコウ。


 オウムガイ。


 そしてカジキ。


 俺はその中心にいる。


「……変な感じだな」


「何がですか?」


 オウムガイが聞く。


「いや」


 俺は少し考える。


「前は、一匹でどうやって生き残るかしか考えてなかったから」


「現在は?」


「……どうやって全員で生き残るか考えてる」


 オウムガイが触手を揺らした。


「それは、大きな変化ですね」


「そうなのかな」


「はい」


 オウムガイは即答した。


「以前のあなたなら、自分が生き残るためなら仲間を囮にすることも選択肢に入れていたでしょう」


「……」


「今は違う」


 俺は少しだけ前を見る。


 魚群がいる。


 アンコウがいる。


 カジキがいる。


「……まあな」


 そう答えた。


 それ以上は言わなかった。


 けれど、

 その時だった。


 魚群が一斉に方向を変えた。


「……?」


 俺は首を動かす。


 おかしい。


 魚たちが。


 俺の命令ではなく。


 自分たちの判断で動いた。


「どうした?」


 俺が聞く。


 魚群はまとまったまま、海底を見ている。


 オウムガイも視線を下げた。


「……何かあります」


「何?」


「分かりません」


 俺も下を見る。


 暗い。


 いつもの深海。


 岩がある。


 砂がある。


 小さな穴がいくつも開いている。


 特に変わったものはない。


 ――そう思った。


 だが。


 少し進むと。


 海底に妙な跡があった。


「……何だこれ」


 砂が大きくえぐれている。


 一本。


 二本。


 三本。


 何か巨大なものが這ったような跡。


 しかも。


 一つではない。


 何本も。


 海底の向こうへ伸びている。


「かなり大きいですね」


 オウムガイが言う。


「どれくらい?」


「正確には分かりません」


「でも?」


「この傷跡だけを見るなら、私たちより遥かに大型です」


 アンコウが口を開いた。


「この辺りには、そのような奴が住んでいるのか?」


「以前の記録にはありません」


「じゃあ新顔か」


「その可能性があります」


 俺は海底を見る。


 嫌な感じがした。


 ただ大きいだけならいい。


 海には巨大な生物なんていくらでもいる。


 問題は。


 この場所に


 生き物がほとんどいないことだった。


「……魚がいない」


 俺が呟く。


 周囲を見渡しても。


 いつもならいるはずの小魚がいない。


 海底を這う生物もいない。


 岩陰から顔を出すような小さな魔物すらいない。


「食われたのでしょう」


 オウムガイが言った。


「何に?」


「分かりません」


「……」


 俺は少し考える。


「進む」


「よろしいのですか?」


「ここで戻っても、何も分からない」


 俺は海底の傷跡を見る。


「それに」


 腹の奥が。


 ほんの少しだけ刺激されている気がした。


 嫌な気配。


 だが同時に、


 妙な興味もあった。


 何がいる?


 どれだけ強い?


 食べられるのか?


 俺の中に、そんな考えが浮かぶ。


「……行こう」


 魚群が進む。


 俺たちは慎重に海底を進んだ。


 しばらく何も起きなかった。


 静かだった。


 静かすぎた。


 そして。


 それは突然だった。


 ――ズン。


 海底が揺れた。


「……!」


 全員が止まる。


 ――ズン。


 もう一度。


 今度は大きい。


 砂が舞い上がる。


 岩が崩れる。


「下です!」


 オウムガイが叫ぶ。


 その瞬間、


 海底が割れた。


 巨大な顎が飛び出してきた。


「――っ!」


 俺は反射的に横へ飛ぶ。


 直後。


 俺がいた場所を巨大な口が通過した。


 ガチン!


 凄まじい音。


 歯と歯がぶつかっただけなのに。


 海水が震えた。


「何だこいつ……!」


 巨大だった。


 長い。


 太い。


 身体のほとんどが暗闇に溶け込んでいる。


 見えるのは。


 大きな口。


 黒い外皮。


 そして。


 何本ものヒレのような器官。


「魚……?」


 違う。


 魚に似ている部分はある。


 だが。


 普通の生物とは明らかに違う。


 口が異常に大きい。


 身体の大部分が捕食のために作られている。


 そして。


 何より。


 俺を見ている。


 巨大な眼が


 俺を。


 俺たちを。


 獲物として。


「来るぞ!」


 アンコウが叫ぶ。


 巨大な魔物が身体を曲げた。


 次の瞬間


 突進。


 速い。


「避けろ!」


 魚群が散開する。


 俺も横へ逃げる。


 魔物の身体が俺たちの間を通り抜けた。


 そのまま海底へ激突する。


 ――ドォン!


 砂が巻き上がる。


「速すぎる!」


 俺は距離を取る。


 あの巨体で。


 あの速度。


 まともに正面から戦えば危険だ。


「弱点は?」


 俺が聞く。


「観察中です!」


 オウムガイが答える。


「目!」


 アンコウが叫んだ。


「右目です!」


 俺は見る。


 確かに。


 右側の眼だけ。


 少し色が違う。


「カジキ!」


 俺が叫ぶ。


「グル!」


「右側!」


 カジキが向きを変える。


 そして。


 走った。


 いや。


 泳いだ。


 一瞬だった。


 カジキが魔物の横を通過する。


 その身体が僅かに揺れた。


「効いた!」


 アンコウが叫ぶ。


 だが。


 魔物は倒れない。


 むしろ。


 怒った。


「まずい!」


 魔物がカジキへ向きを変える。


「カジキ、戻れ!」


 カジキは振り返る。


 だが。


 遅い。


 巨大な口が開く。


「カジキ!」


 俺は動いた。


 身体を捻る。


 魔物の顔へ向かう。


 そして。


 噛みついた。


 ――ガキン!


「硬っ!」


 牙が外皮に弾かれる。


 それでも。


 俺は離さない。


「こっちだ!」


 魔物が俺を見る。


 俺を狙う。


 カジキから離れた。


「よし!」


 俺は逃げる。


 巨大な口が追ってくる。


 ガチン!


 ガチン!


 何度も噛みつかれる。


 そのたびに避ける。


「こいつ……!」


 速い。


 しつこい。


 俺が逃げれば追ってくる。


 魚群が動けば追ってくる。


 アンコウが光れば向きを変える。


 どうやらこいつには、


 視界に入ったものを片っ端から食う性質があるらしい。


「なら!」


 俺は方向を変える。


 魔物も追ってくる。


 海底へ向かう。


 岩場。


 狭い場所。


 巨大な身体では通れないような場所へ。


「来い!」


 魔物が突っ込む。


 だが。


 身体が岩にぶつかった。


 動きが止まる。


「今だ!」


 魚群が一斉に動く。


 魔物の周囲を取り囲む。


 アンコウが光を放つ。


「《誘蛾灯》!」


 魔物の眼が光へ向く。


 その瞬間。


 カジキが反対側から突っ込む。


 魔物の身体が大きく揺れた。


「そこ!」


 俺も飛び込む。


 今度は。


 外皮ではなく。


 傷口へ。


 噛みつく。


 肉が裂ける。


 血が流れる。


 そして。


 その血が。


 俺の口へ入る。


「……!」


 瞬間。


 全身に衝撃が走った。


「なんだ今の?」


 力が流れ込んでくる。


 俺は一度離れる。


 魔物も苦しそうに身体を振る。


「今のは……」


 俺は自分の身体を見る。


 何も変わっていない。


 でも分かる。


 この魔物は、ただの餌じゃない。


 何かを持っている。


 俺の《捕食進化》が。


 反応している。


「……食える」


 俺は呟いた。


「こいつは、食える」


 アンコウが聞く。


「どういう意味だ?」


「分からない」


 俺は魔物を見る。


「でも」


 腹の奥から。


 猛烈な飢えが湧いてきた。


「全部食えば、何か起きる」


 オウムガイが触手を動かした。


「それは危険では?」


「危険だ」


「では――」


「でも」


 俺は魔物を見る。


「こいつを食えば、もっと強くなれる」


 アンコウが笑った。


「ならば食えばいい」


「簡単に言うなよ」


「貴様はいつもそうしてきただろう」


「……まあ」


 確かにそうだった。


 食べて。


 生きて。


 強くなってきた。


 なら、今回も!


「やるか」


 俺は魔物へ向かった。


 魔物が口を開く。


 正面。


 危険。


 でも、今度は逃げない。


「来い!」


 魔物が突っ込む。


 俺はぎりぎりで避ける。


 その身体の側面。


 傷がある。


 そこへ噛みつく。


 ガブッ!


 肉を引き裂く。


 魔物が暴れる。


 俺は離れない。


 身体が振り回される。


 岩へ叩きつけられる。


「ぐっ……!」


 痛い。


 それでも離さない。


 もう一度噛む。


 もう一度。


 さらに噛む。


 食う。


 魔物の肉を。


 血を。


 力を。


 俺の身体へ。


「グルルル!」


 カジキが魔物へ突っ込む。


「今だ!」


 アンコウが光を放つ。


 魚群が魔物の周囲を泳ぐ。


 オウムガイが叫ぶ。


「左へ!」


 俺は動く。


 魔物の牙を避ける。


「下です!」


 避ける。


「今!」


 噛みつく。


 そして食う。


 一口。


 また一口。


 魔物の身体が少しずつ、小さくなる。


 それに比例して、俺の身体の奥が熱くなる。


「……なんだ」


 力が増えている。


 だが今までとは違う。


 能力を一つ手に入れた?


 そういう感じじゃない。


 もっと根本的な。


 もっと深いところ。


 俺自身が


 変わっている。


「もっと……!」


 俺は食う。


 魔物が逃げようとする。


「逃がすか!」


 追う。


 魚群が退路を塞ぐ。


 カジキが前へ回る。


 アンコウが光で誘導する。


 オウムガイが叫ぶ。


「右です!」


 俺は右へ。


「上!」


 上へ。


「そこです!」


 噛みつく。


 食う。


 そして


 ――ゴクリ。


 海が、


 静かになった。


 巨大な魔物が。


 消えた。


 残ったのは、


 ほんの少しの血と。


 俺たちだけ。


「……終わった?」


 アンコウが聞く。


「たぶん」


 俺は答える。


 その瞬間。


 腹の奥が、


 強く脈打った。


「――っ!」


 俺の身体が震えた。


 力が溢れる。


「阿部?」


「近づくな!」


 自分でも分からない。


 何かが身体の中で起きている。


 心臓が異常な速度で動く。


 鱗が軋む。


 骨が鳴る。


「痛い……!」


 今までの進化とは違う。


 もっと


 根本的な変化。


 身体そのものが


 作り替えられている。


 俺は海中で身体を丸める。


 電気が身体の中から溢れた。


 バチッ。


 バチバチッ。


 いつもの電気。


 けれどそれが

 

 少しずつ、少しずつ、


 消えていく。


「……!?」


 俺は驚いた。


 今まで。


 何度も助けられてきた力。


 電気。


 それが


 俺の身体から抜けていく。


「嫌だ……!」


 思わず声が出た。


 俺の力だ。


 今までずっと


 俺を助けてきた。


 弱かった俺が


 生き残るために手に入れた力。


 それを捨てる?


 嫌だ。


 そう思った。


 でも同時に


 俺の中に別の声があった。


 ――進め。


 ――変われ。


 ――喰らえ。


 ――もっと深く。


 俺は歯を食いしばる。


「何なんだよ……!」


 頭の中が真っ白になる。


 そして、

 

 声が響いた。


 ――【捕食しました】


 目の前に光る文字が並んだ。

 俺は目を開いた。


 ――【特殊条件を満たしました。】


 ――【種族進化が可能です。】


「……種族?」


 その言葉が頭の中に残る。


 能力じゃない。


 技じゃない。


 種族。


 俺そのもの。


 俺が何になるか。


 目の前に光が集まる。

 

 六つ


 それぞれ違う。


 六つの道。


 六つの未来。


 目の前に光が集まる。


 文字が浮かぶ。


 ――【進化先を選択してください。】


 《雷鱗魚》

 俺の今までの力を。

 さらに伸ばす進化。

 電気、放電、雷。


 《深海雷魚》

 深海そのものに適応し、さらに雷を扱う種。

 圧力、暗闇、低温。


 《魔電魚》

 電気、魔力。

 二つの力を融合する種。


 俺はそこまで見て、少し迷った。


 どれも強い。


 どれも魅力的だ。


 だけど、その先に


 三つの名前がある。


 《深喰魚》

 《喰魔魚》

 《冥海魚》


 俺はその三つを見る。


 《深喰魚》

 食べる、喰らう。

 それを極限まで突き詰める。


 《喰魔魚》

 生物だけではない。

 魔力すら食べる。


 《冥海魚》

 深海そのものへ適応する。

 どれも、今までの俺とは違う。


「……」


 俺は六つの道を見る。

 そして気づいた。


 進化というのは、

 強くなることじゃない。


 少なくとも今回は、それだけじゃない。


 何を捨てるのか。


 何を残すのか。


 何を目指すのか。


 それを決めることだ。


 俺は今まで、


 電気を使ってきた。


 電鱗魚になって。


 電気を武器にして。


 強敵を倒して、


 生き残ってきた。


 だから雷鱗魚を選べば、


 きっと強くなれる。


 もっと強い電気。


 もっと強い攻撃。


 今までの俺の正統な進化。


 でも、


「……それでいいのか?」


 自分に問いかける。


 俺は


 電気になりたいのか?


 違う。


 俺は、強くなりたい。


 生き残りたい。


 仲間を守りたい。


 そして、


 もっと先へ行きたい。


 だったら…


 今の力に固執する必要なんてない。


 捨てる。


 それも進化なのかもしれない。


 俺は、


 《雷鱗魚》から目を逸らした。


 《深海雷魚》も


 《魔電魚》も


 そして、


 《冥海魚》からも。


 視線を移す。


 最後に残った二つ。


 《深喰魚》


 《喰魔魚》


 俺は


 この二つを見つめた。


 どちらも「喰う」


 今の俺に一番近い。


 俺は、何度も食べてきた。


 弱い魚を、強い魔物を。


 生きるために。


 強くなるために。


 食べてきた。


 ならそれを


 もっと極める。


 それが、


 俺の道なんじゃないか。


「……深喰魚」


 俺は呟く。


 その名前が。


 不思議なくらい


 しっくりきた。


 俺は、


 それを選んだ。


 ――《深喰魚》を選択しました。


 その瞬間。


 世界が白くなった。


「――っ!」


 身体が。


 引き裂かれるような痛みに襲われる。


「ぐ……!」


 鱗が変わる。


 筋肉が変わる。


 骨格が変わる。


 口が。


 顎が。


 身体の奥まで。


 すべて、


 作り替えられていく。


 電気が消えていく。


 バチッ。


 最後の一筋。


 俺の身体から電気が消えた。


「……」


 静かだった。


 何もない。


 俺はしばらく動けなかった。


 そして、ゆっくり身体を動かす。


「……動く」


 当たり前だ。


 でも何かが違う。


 身体が軽い。


 いや軽いというより、


 身体のすべてが一つの目的に。


 最適化されている。


 見る。

 泳ぐ。

 動く。

 噛む。

 食う。


 そのすべてが、以前より自然だった。


 俺は口を開く。


 牙を見る。


 以前より明らかに


 鋭い。


 そして大きい。


「……」


 俺は少しだけ


 怖くなった。


 自分自身が。


 以前とは、


 まるで違う。


 その時目の前に


 新しい表示が浮かんだ。


 ――【種族進化完了】


 ――【種族:深喰魚】


 ――【固有特性:《深喰》】


 ――【捕食能力:大幅上昇】


 ――【捕食対象の取り込み効率:上昇】


 ――【肉体再構成能力:上昇】


 ――【捕食による成長限界:拡張】


「……深喰」


 俺はその名前を呟いた。


 どんな力なのか


 まだ完全には分からない。


 ただ一つだけ


 身体が教えてくれている。


 もっと食える。


 もっと強くなれる。


 そして、食べたものをただ消化するだけじゃない。


 俺自身へ取り込む。


 そんな感覚。


「盟友!」


 アンコウの声がした。


「大丈夫か!」


「……ああ」


 俺は振り返る。


 みんながいる。


 魚群。


 アンコウ。


 オウムガイ。


 カジキ。


 全員。


 俺を見ていた。


「何になった?」


 アンコウが聞く。


「深喰魚」


「電気はどこだ?」


「なくなった」


 アンコウが黙る。


 オウムガイも。


 魚群も。


 カジキだけが


 俺の周囲を泳ぐ。


「……」


 俺は少し不安になった。


「変か?」


 カジキが首を傾げる。


「前の方がよかったか?」


 カジキは


 俺の身体を一周した。


 そして隣に並んだ。


「グル」


「……そうか」


 俺は笑う。


 たぶん


 それでいい。


 俺が何になったとしても。


 こいつらはこいつらだ。


 俺は俺だ。


「じゃあ」


 俺は前を見る。


「行こう」


 オウムガイが聞く。


「どちらへ?」


「もっと深いところ」


「危険ですよ」


「知ってる」


「先ほどの魔物より強い存在がいる可能性もあります」


「それも知ってる」


 俺は暗闇を見る。


 深海の奥。


 光が届かない場所。


 そこから何かが


 俺たちを見ている。


 さっきの魔物とは違う。


 もっと遠い


 もっと巨大な気配。


 それは、俺が進化したことを


 知っているような。


 そんな気がした。


「……腹が減った」


 俺は言った。


 アンコウが笑う。


「さっき食べたばかりだろう」


「それでも減ってる」


 オウムガイが俺を見る。


「進化の影響でしょうか」


「分からない」


 俺は、自分の腹を見る。


 空腹。


 猛烈な空腹。


 でも嫌じゃない。


 むしろ


 気持ちいい。


 今まで感じたことのない。


 新しい飢え。


「もっと食える」


 俺は笑った。


「もっと強くなれる」


 魚群が動く。


 アンコウが続く。


 オウムガイも。


 カジキも。


 俺の横へ並ぶ。


 俺たちは、深海へ進んだ。


 暗い。


 何も見えない。


 それでも。


 俺には


 もう怖くなかった。


 電気は


 なくなった。


 今まで頼ってきた力も


 捨てた。


 でも、何も失っていない。


 むしろ


 新しい力を


 手に入れた。


 俺は


 ゆっくり口を開く。


 鋭い牙が


 暗闇の中で僅かに光った。


「次は」


 俺は深海の奥を見る。


「何を喰おうか」


 その時


 遠くから


 巨大な音が響いた。


 ――ゴォォォォォン。


 海底が震える。


 魚群が止まる。


 カジキも。


 アンコウも。


 オウムガイも。


 一斉に暗闇を見る。


「……今の」


 オウムガイが呟いた。


 俺は笑った。


「いるな」


 何かがいる。


 俺たちより、


 ずっと深いところにずっと強い何かが。


「行くぞ」


 誰も止めなかった。


 俺たちは、


 さらに深く。


 深く。


 海の底へ進んでいく。


 かつて


 生きるために逃げ続けた俺は今


 自分から


 未知の怪物へ向かって泳いでいる。


 電鱗魚ではない。


 もう俺は《深喰魚》だ。


 そして俺は


 この海のすべてを喰らう。


第二章終了です!!!ここまで読んでくださりありがとうございました!

新キャラも進化も盛りだくさんだったのではないでしょうか?

久しぶりの進化の話を考えるのがとても楽しかったです!何に進化させるとか迷いましたね。

第三章も楽しみにしていてください!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。