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第17話 我が主

 オウムガイが仲間になってから、明らかに生活が変わった。

 いや。

 生活というより、行動そのものが変わったと言った方が正しい。

「ここから先には行かない方がいいでしょう」

 オウムガイが言った。

「何で?」

「この先は大型の捕食者の縄張りです」

「分かるのか?」

「魚群の動きと水流から判断できます」

 俺には何も分からない。

 ただ暗い海が広がっているだけだ。

「右側には小型魚の群れがあります」

「……見えるのか?」

「見えません」

「え?」

「ですが、先ほどから微弱な振動が続いています」

 オウムガイは淡々としていた。

「群れが移動しているのでしょう」

「すごいな……」

 俺が感心すると、アンコウが割り込んできた。

「フッ……我とてその程度は――」

「分かりませんよね?」

「……」

「分かるわけないだろ」

「盟友よ、そこは我を信じてくれ」

 俺はため息をついた。

 だが、オウムガイの存在は本当に大きかった。

 今まで俺は、危険があれば避ける。

 獲物がいれば食べる。

 敵がいれば戦う。

 その程度しか考えていなかった。

 だが、オウムガイは違う。

 海そのものを見ている。

 どこに何がいるのか。

 どこに餌があるのか。

 どこに危険があるのか。

 それを一つ一つ把握していく。

「では、次の行動を提案します」

 オウムガイが言った。

「まず、この海域にいる魚群をこちらへ誘導します」

「仲間にするのか?」

「正確には、こちらの勢力に組み込みます」

「一緒じゃねえかよ。で、方法は?」

「餌場を確保します」

「………」

「……それだけ?」

「餌がある場所に魚は集まります」

 あまりにも単純だった。

 だが、それだけに強い。

 オウムガイが動く。

 魚群が移動する。

 そして、しばらくすると周囲に小魚が集まり始めた。

 最初は数十。

 次に数百。

 やがて、数千。

「……こんなに集まるのか」

「環境を整えれば、魚は自然に集まります」

 オウムガイが魚群を動かす。

 すると、数千匹の魚が一斉に方向を変えた。

 右。

 左。

 上。

 下。

 まるで巨大な生物のように動く。

「これが……群れ」

「はい」

「すごいな」

 俺は思わず見入ってしまった。

 自分一匹ではできないこと。

 それが、これだけの数ならできる。

 今まで俺は、自分が強くなればいいと思っていた。

 でも、

 もしかすると――。

「俺自身が強くなるだけじゃなくて、周りを強くする方法もあるのか」

「その通りです」

 オウムガイは即答した。

「だから私はあなたについていく価値があると判断しました」

「俺に?」

「はい」

 オウムガイが俺を見る。

「あなたには、まだ完成していない部分が多い」

「……それ、褒めてる?」

「もちろんです」

「全然褒められてる気がしない」

 アンコウが笑う。

「ククク……我が盟友にはまだ無限の可能性が――」

「お前は何でもそう言うだろ」

「それが盟友というものだ」

「違うと思う」

 そんな会話をしていたときだった。

 魚群が突然、乱れた。

「……?」

 オウムガイの表情が変わる。

「敵です」

「どこから?」

「北東」

 俺にはまだ何も見えない。

 しかし数秒後。

 暗闇から巨大な影が現れた。

 魚群が逃げ始める。

「まずい!」

 俺は反射的に前へ出た。

 敵は巨大だった。

 このままでは魚たちが食われる。

 俺は敵へ向かって泳ぐ。

「待ってください」

 オウムガイが言う。

「一人で戦う必要はありません」

「でも――」

「私が指揮します」

 その瞬間、魚群が一斉に動いた。

 敵の周囲を包囲する。

「アンコウ」

「任せろ!」

 提灯が光る。

 敵の視線がそちらへ向く。

「今です」

 魚群が一気に動く。

 敵の進路が塞がれる。

 俺はその隙に懐へ入り込んだ。

「これなら――!」

 攻撃を叩き込む。

 敵が大きく揺れる。

 そして、倒れた。

 戦闘が終わった。

 俺は周囲を見る。

 魚たちはまだ生きている。

 誰も食われていない。

「……」

 オウムガイが静かに言った。

「あなたは、仲間を守るために動きましたね」

「……そうなのかな」

「ええ」

 俺は少し考える。

 以前なら、敵が来たら自分が逃げることを優先していた。

 でも今は違った。

 魚群を守ろうとした。

 理由は分からない。

 ただ――。

「……悪くないな」

 そう呟いた。

 オウムガイは何も言わなかった。

 ただ、静かに頭を下げた。

「それならば、なおさらです」

「何が?」

「あなたは王になる資格がある」

「……王?」

 俺はその言葉を聞きながら、遠くの暗闇を見る。

 まだ自分には、その言葉は大きすぎた。

 だが少しだけ、

 悪くないと思ってしまった。

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