第18話 久しぶりの群れ
オウムガイが加わってから数日。
俺たちの周囲には、以前とは比べ物にならないほど多くの魚が集まるようになっていた。
数百。
いや、もう数千いる。
「なあ」
「何でしょう」
「俺昔にさ、小魚の群れを率いていたんだ」
「でも、深海に来る前に自分にはみんなを守れる保証は無いなと思ってお別れしたんだよね。
自分だけしか守れなかったあの時の自分にさ、今は違うって伝えたいんだよ」
俺の周囲を泳ぐ魚たちを見る。
確かに俺から離れない。
だが、俺を見る目にはまだ警戒があった。
「伝える方法はありません」
「だよな」
「当然です」
オウムガイは淡々と言う。
「あなたは彼らにとって、強大なリーダーだったんじゃないんですか?」
「……」
言われてみればその通りだった。
俺は捕食して強くなる。
つまり、魚たちからすれば
「どんどん強くなっていくリーダー的存在についていけば、敵はいなくなるということか」
「後悔したって無駄ですよ。」
「まあそうだな!」
胸が急に楽になった。
その日の夕方。
魚群が移動しているときだった。
突然、海底から大量の魔物が飛び出した。
「敵!」
魚たちが一斉に逃げる。
だが、魔物の数が多い。
後方の魚が捕まった。
「くそっ!」
俺は反射的に敵へ向かった。
牙が迫る。
俺は身体をぶつけて弾き飛ばす。
「逃げろ!」
魚たちが散開する。
しかし魔物は俺へ集中してきた。
「こいつら……!」
一匹。
二匹。
三匹。
次々と襲いかかってくる。
俺は攻撃を避け、反撃する。
だが数が多い。
「阿部!」
アンコウが叫ぶ。
「後ろだ!」
俺が振り返る。
巨大な魔物が迫っていた。
「――ッ!」
間に合わない。
そう思った瞬間。
魚群が一斉に動いた。
魔物の進路を塞ぐ。
そして、その隙間からアンコウの提灯が光る。
「こっちだ!」
魔物がアンコウへ向く。
「今です」
オウムガイの声。
魚群が一気に散開。
魔物の視界が開ける。
そこに俺がいた。
「これで――!」
全力で攻撃する。
魔物が倒れる。
残りの敵も、魚群が包囲していく。
しばらくして、海は静かになった。
俺は息を整える。
周囲を見る。
魚たちがいる。
何匹か傷ついているが、ほとんどは生き残っていた。
「……」
俺は思わず魚たちを見る。
すると。
一匹の小さな魚が近づいてきた。
逃げない。
俺の目の前で止まる。
そして、俺の身体に軽く触れた。
「……」
その後ろから、別の魚が来る。
さらに一匹。
また一匹。
少しずつ、俺の周囲に魚が集まってくる。
「……これ」
俺は呟く。
「仲間ってことなのか?」
オウムガイが答える。
「少なくとも、彼らはあなたを『敵』とは認識しなくなったでしょう」
「……そっか」
なんだか、不思議な気分だった。
俺はずっと、一人だった。
人間だった頃も。
この世界に来てからも。
生き残るために、自分が強くなるしかなかった。
食べて。
戦って。
逃げて。
また食べて。
でも、今は違う。
俺の周りには魚がいる。
アンコウがいる。
オウムガイがいる。
守りたいと思える存在がいる。
「……面倒だな」
思わず笑う。
「仲間なんて作ったら、守らなきゃいけなくなるじゃん」
アンコウが胸を張る。
「それこそが盟友というものだ!」
「お前は黙ってろ」
オウムガイが静かに言う。
「ですが、悪いことではありません」
俺は少しだけ考える。
「……ああ」
そして魚群の先を見る。
この海には、まだ知らない場所がある。
まだ知らない敵がいる。
そして、もっと強くならなければならない。
今までなら、自分のためだった。
けれど今は違う。
「……俺が強くなる」
俺は前を向く。
「これからはこいつらを守れるくらいに」
その言葉を聞いたアンコウが、満足そうに提灯を光らせる。
オウムガイは静かに頭を下げた。
魚群は俺の周囲を泳ぎ続けている。
まだ小さな群れだ。
まだ、海の片隅にいるだけだ。
だけど、
俺は初めて思った。
――この群れを、大きくしたい。
今日はこの話で終わりです!次回も楽しみにしていてください!




