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第16話 魚群を従える者

 深海の魔物を倒してから、しばらく経った。

 俺はアンコウと並んで泳ぎながら、周囲の様子を観察していた。

 さっきの戦いで感じた、身体の奥に残る妙な感覚はまだ消えていない。

 捕食によって得た力が、身体の中でゆっくりと馴染んでいる。

 進化。

 そう呼んでいいのかはまだ分からない。

 ただ、以前とは何かが違う。

 身体が軽い。

 水流を掴む感覚も少し変わっている。

「……また強くなった気がする」

「ククク……当然だ」

 隣のアンコウが偉そうに答えた。

「深淵の盟友たる貴様が、さらなる力へ目覚めるのは必然」

「はいはい」

「もっと喜べ!」

「お前が言うことじゃないだろ」

「盟友の成長は我の喜びでもある」

「勝手に仲間意識持つなよ」

 そんなやり取りをしながら進んでいると、ふとアンコウが止まった。

「……どうした?」

「静かに」

 アンコウが提灯を消す。

 俺も泳ぐのを止めた。

 何かいる。

 遠くから、小さな振動が伝わってくる。

 最初は一匹。

 次に十匹。

 そして――。

「……何だ、これ」

 暗闇の向こうから、大量の魚が現れた。

 数百。

 いや、もっといる。

 魚群だ。

 だが、普通の魚群ではない。

 全員が異常なほど綺麗に揃って泳いでいる。

 右へ。

 左へ。

 上へ。

 下へ。

 一匹一匹が勝手に動いているように見えて、その全体はまるで巨大な生物のようだった。

「すげぇ、まるでス◯ミーだな。赤いのも、黒いのもいない……」

「だからなんだ?そのたまにある言葉は」

「というか……おかしい」

 アンコウが呟く。

「何が?」

「これほどの数が、完全に統率されている」

 俺も魚群をよく見る。

 確かに変だ。

 俺の【《魚群の先導者》】でも、少し魚のばらつきがあった。

 だが、この群れにはそれがない。

 まるで誰かが一匹一匹に命令しているようだった。

 そのとき。

 魚群が突然、左右に分かれた。

 中央に道ができる。

 そして、その奥から一匹の生物が現れた。

「……オウムガイ?」

 美しい殻。

 複雑な模様。

 深海の闇の中でも、その姿にはどこか異質な威厳があった。

 オウムガイは俺たちの前で止まった。

 そして、じっと俺を見る。

「……」

「……」

「なぜ古生物がこんなところに……」

 俺が尋ねる。

 オウムガイはすぐには答えなかった。

 ただ、俺の身体を頭から尾まで観察している。

 まるで値踏みされているような気分だった。

「興味深い個体ですね」

「個体?(てか無視された…)」

「はい」

 オウムガイは淡々と続ける。

「体格、泳力、捕食能力。いずれも、この海域の同種と比較して異常値を示しています」

「……褒めてる?」

「事実を述べています」

 何とも言えない返答だった。

 するとアンコウが前に出る。

「貴様!」

「……」

「我が盟友を値踏みするとは、随分と――」

「あなたは邪魔です」

「なにィ!?」

 アンコウが固まった。

 オウムガイは完全に無視して俺を見る。

「あなたに質問があります」

「何だ?」

「この海域で、何をするつもりですか?」

 俺は少し考えた。

 今までなら、強くなりたいと答えていただろう。

 でも今は違う。

 俺はもっと先を見ている。

「強くなる」

「その先は?」

「……」

 俺は海の暗闇を見る。

「いつか、この世界を征服する」

 アンコウが隣でニヤリと笑った。

「そうだ! 我が盟友は――」

「黙ってください」

「ぐわァァァ!?なんだこのクソみたいな貝は!?」

 オウムガイは俺だけを見る。

「征服」

「そう」

「その言葉を、本気で言っていますか?」

「ああ」

 オウムガイは少しだけ目を細めた。

 そして――。

「面白い」

「え?」

「ならば、あなたには戦略が必要です」

 オウムガイの周囲で魚群が動く。

 一瞬で巨大な円陣を作った。

「力だけで海を支配するのは効率が悪い」

 魚群が一斉に方向を変える。

「餌場を確保する」

 魚群が一つにまとまる。

「敵の行動範囲を把握する」

 さらに分散。

「必要なら、敵同士を戦わせる」

 そして再び一つになる。

「そして最後に、あなた自身が最大の戦力として動く」

 俺は言葉を失った。

 今まで俺は、自分自身が強くなることしか考えていなかった。

 食べる。

 進化する。

 敵を倒す。

 また食べる。

 それだけだった。

 だが、この魚は違う。

 自分が直接戦わなくてもいい。

 周囲を動かせばいい。

 群れそのものを力に変えればいい。

「……お前」

「はい」

「俺についてくるつもりか?」

「ええ」

 オウムガイは迷いなく答えた。

「あなたの目的には、興味があります」

「目的だけ?」

「今のところは」

「正直だな」

「そして――」

 オウムガイは頭を下げた。

「あなたを主と認めます」

「……主?」

「はい」

 アンコウが突然叫ぶ。

「我が盟友がついに王への道を――!」

「お前は静かにしてろ」

 俺はため息をつく。

「またかよぉ〜」

 こうして、

 俺の隣には、また一匹。

 妙に頭の切れるオウムガイが加わることになった。

読んでくださり、ありがとうございました!新キャラもでてきましたね!

???「あなたの感想には、興味があります」ぜひコメントもしていってください!

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