第15話 深海の捕食者
アンコウと行動するようになってから、深海の見え方が少し変わった。
今までは、暗闇そのものが敵だった。
何がいるのか分からない。
どこに逃げればいいのか分からない。
どこまで行けば安全なのかも分からない。
だから、なるべく明るい場所を選んでいた。
しかしアンコウにとっては逆だった。
「この先は行くな」
突然、アンコウが言った。
「何で?」
「深い亀裂がある」
「見えるのか?」
「見えなくても分かる」
アンコウは得意げに提灯を揺らす。
「水の流れが違う」
「へえ……」
俺には分からない。
だが、アンコウには分かるらしい。
そのまま少し進むと、確かに海底が大きく裂けていた。
その亀裂は、どこまでも続いている。
「……落ちたら危なそうだな」
「落ちる?なんだそれ」
「あっそうか、水って重力無いんだ」
「なんだそれ?」
「やっぱり俺って魚なんだな〜」
「だからなんなんだよ!その銃鑢玖というのは」
「なんでもいいだろ」
アンコウと行動することで、今まで気づかなかったものが見えるようになってきた。
深海には、無数の地形がある。
巨大な岩。
海底洞窟。
裂け目。
沈んだ何かの残骸。
そして、そこに住む無数の生物。
浅い海とはまるで別世界だった。
「なあ、アンコウ」
「何だ」
「お前、ずっとこの辺で暮らしてたのか?」
「そうだ」
「怖くないのか?」
「何がだ?」
「こんな暗いところ」
アンコウは少し黙った。
「……我は深淵の住人だ」
「その設定じゃなくて」
「……」
「本当は?」
「暗いと何も見えないから、ちょっと怖い」
「お前もかよ!」
思わず笑ってしまう。
するとアンコウは不満そうに提灯を明滅させた。
「我が魂の灯火があれば問題ない!」
「はいはい」
そんな会話をしていた、そのときだった。
突然、海底が揺れた。
「……?」
俺は止まる。
アンコウも止まる。
遠くから何かが近づいてくる。
ズズズ……。
海底を擦るような音。
「何だ?」
「……知らない」
アンコウの声から、ふざけた雰囲気が消えていた。
次の瞬間。
巨大な影が暗闇から現れた。
「……でか」
今まで見たことのない大きさだった。
身体の一部しか見えていないのに、それだけで俺たちより何倍も大きいことが分かる。
口が開く。
無数の牙。
俺は反射的に後ろへ下がった。
「逃げるぞ!」
「分かった!」
二匹で泳ぐ。
しかし、相手は速い。
水流が一気に引き込まれる。
「うわっ!」
身体が引っ張られる。
「アンコウ!」
「分かっている!」
アンコウの提灯が激しく明滅した。
巨大な魔物の目が、そちらへ向く。
「こっちだ!」
俺は逆方向へ泳ぐ。
アンコウが魔物の注意を引き、その隙に俺が距離を取る。
しかし魔物は諦めない。
再び突っ込んでくる。
「くそっ!」
俺は逃げるだけではなく、周囲を見る。
海底。
巨大な岩。
そして、先ほど見つけた亀裂。
「アンコウ!」
「何だ!」
「あいつをあそこへ誘導できるか!」
俺は亀裂を指す。
アンコウが理解する。
「なるほど……」
提灯が光る。
「我に任せろ!」
アンコウが魔物の目の前を横切る。
魔物が追う。
右へ。
左へ。
そして――。
「今だ!」
アンコウが急停止する。
魔物だけがそのまま突っ込んだ。
巨大な身体が海底の亀裂へ突っ込む。
「今!」
俺は一気に接近する。
魔物が体勢を崩している。
俺は全力で攻撃する。
何度も。
何度も。
最後の一撃が入った。
巨大な身体が沈む。
海底に静寂が戻った。
「……勝った?」
「どうやらな」
アンコウが近づいてくる。
俺は荒い息を吐く。
「お前……やるじゃん」
「貴様こそ」
アンコウは少しだけ笑う。
「我らの連携、悪くなかっただろう?」
「……ああ」
俺は倒れた魔物を見る。
身体から、力が流れ込んでくるような感覚。
捕食すれば、また強くなれる。
俺は魔物の一部を食べた。
その瞬間。
身体の奥で何かが弾けた。
「……っ!」
視界に見慣れた感覚が走る。
進化。
いや。
まだ違う。
だが、確実に何かが変わり始めている。
「どうした?」
アンコウが聞いてくる。
「……いや」
俺は自分の身体を見る。
「もっと、強くなれそうな気がする」
暗い海の底。
俺は初めて、一人では見られなかった場所を見ていた。
隣には、妙なチョウチンアンコウがいる。
まだ仲間と呼ぶには早いのかもしれない。
それでも――。
この先も、こいつと一緒に進んでみてもいい。
そんなことを、少しだけ思った。
今日は結構出せそうです!あと、2話ぐらい出せます!ワンチャン3話目いけるかなってぐらいです。




