第14話 闇の盟友
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翌朝。
……と言っても、深海には朝も夜もない。
正確には、俺が勝手にそう呼んでいるだけだ。
昨日、深海で出会ったチョウチンアンコウ。
俺はそいつと別れて、一人で先へ進むつもりだった。
「なあ」
「何だ?」
「なんでついてきてるんだ?」
「決まっている」
アンコウは堂々と答えた。
「貴様が我が『闇の盟友』だからだ」
「いつなった?」
「昨日だ」
「俺は了承してない」
「必要ない」
「必要あるだろ」
俺が速度を上げる。
アンコウもついてくる。
俺が左へ曲がる。
アンコウも左へ曲がる。
右へ曲がる。
右へ曲がる。
上へ。
上へ。
下へ。
下へ。
「……」
「……」
俺は止まった。
「お前、俺がどこへ行ってもついてくるつもりか?」
「当然だ」
「迷惑なんだけど」
「照れるな」
「照れてない」
「我と行動を共にすることが、そんなに嬉しいか」
「嬉しくない」
「素直ではないな」
「話聞けよ!」
こいつといると、妙に疲れる。
だが、不思議なことに嫌ではなかった。
昨日の戦闘を思い出す。
このアンコウは、本当に強かった。
深海という暗闇を完全に味方につけていた。
提灯の光で獲物を誘き寄せ、近づいてきたところを一気に飲み込む。
戦い方は単純。
だが、この環境ではかなり厄介だ。
「……なあ」
「何だ、盟友よ」
「お前、ずっとこの辺にいるのか?」
「そうだ」
「この深さに?」
「当然」
アンコウは得意げに胸を張る。
「我が領域は深淵。光の届かぬ世界こそ、我が庭だ」
「じゃあ、この辺のことは詳しい?」
「無論」
俺は少し考えた。
実際、ここから先は未知の領域だ。
地形も分からない。
どんな生物がいるかも分からない。
アンコウの知識は役に立つかもしれない。
「……しばらく一緒に来るか?」
「!」
アンコウの目が輝いた。
「ついに認めたか!」
「まだ仲間とは言ってない」
「我らは闇の盟友!」
「勝手に決めるな」
そのときだった。
アンコウが突然黙った。
「……どうした?」
「敵だ」
提灯の光が消える。
周囲が完全な闇に包まれた。
俺も警戒する。
何かいる。
遠くから水流が動いている。
複数だな…
「どこだ?」
「前方、三匹」
アンコウの声だけが聞こえる。
「さらに右に二匹」
俺は息を潜める。
やがて、暗闇の中に赤い目が浮かんだ。
昨日の魔物より大きい。
しかも今回は数が多い。
俺は攻撃態勢に入る。
だが、その瞬間。
「――今だ」
アンコウの提灯が一瞬だけ光った。
敵の視線が一斉にそちらへ向く。
「え?」
俺が驚いた直後、アンコウの姿が消えた。
次の瞬間。
敵の横から巨大な口が現れる。
ガブッ!
一匹。
そのまま身体を反転させる。
二匹。
敵が混乱する。
俺はその隙を逃さない。
一気に距離を詰め、残った敵へ攻撃する。
戦闘は、ほんの数十秒で終わった。
「……」
俺はアンコウを見る。
「やっぱりお前、かなり強いな」
「フッ」
アンコウは提灯を紫色に輝かせる。
「これが『魂の灯火』の力だ」
「ただの誘導だろ」
「違う!」
「でも助かった」
アンコウが固まる。
「……今、何と?」
「助かったって言った」
「……」
「何だよ」
「いや……」
アンコウは少しだけ顔を背けた。
「悪くない響きだと思ってな」
「?」
俺にはよく分からなかった。
そのまま俺たちは再び進み始める。
しばらくして、アンコウが口を開いた。
「阿部」
「何?」
「改めて問おう」
アンコウは珍しく真面目な声だった。
「貴様は、何を目指している?」
俺は少し考える。
そして答えた。
「強くなる」
「それだけか?」
「……いや」
俺は前を見る。
「いつか、この世界を征服する」
アンコウは黙った。
そして――。
「ククク……」
笑い始めた。
「何だよ」
「やはり、そうだったか」
「何が?」
「我が見込んだ通りだ」
「いや、だから何がだよ」
「ならば決まりだ」
アンコウが俺の隣に並ぶ。
「我も貴様の征服に付き合おう」
「……本気?」
「無論」
アンコウは堂々と胸を張った。
「貴様が海を支配するというのなら、我はその隣で闇を支配する」
「規模を勝手に広げるなよ……」
こうして。
俺には初めて、「自分から離れようとしない仲間」ができた。




