第12話「海王の血」
戦争が始まった。
海底王国の兵士たちが一斉に動き出す。
人魚たち。
魚人。
海の魔物。
そして。
俺の魚群。
「全員、俺についてこい!」
「ギョッ、ギョギョギョギョッギョ!」
魚群が一斉に動く。
海上から魔法弾が降ってくる。
“ドカァァァン”
すごい音の爆発が起きた。
魚たちが逃げ惑う。
「ギョギョ!(こっちだ!)」
俺は魚群を珊瑚礁へ誘導した。
魔法弾が珊瑚に当たる。
俺は放電する。
船の魔道具が一瞬停止した。
『なんだ!?』
『海中に魔物がいるぞ!』
敵兵が騒ぐ。
俺は笑った。
「ギョギョギョッギョ!(魚を舐めるなよ!)」
魚群が一斉に船へ向かう。
船底へ噛みつく。
船がが削れる。
さらに俺が放電する。
魔道具が爆発した。
『撤退!』
人間たちが逃げていく。
そのとき、海の底から
巨大な魔力が膨れ上がった。
「……何だ?」
海底王国のさらに奥。
封印された神殿。
そこから声が聞こえた。
『海王が目覚める』
俺の身体が熱くなる。
【特殊条件を確認】
【王の資格】
【条件達成】
「……え?」
視界に新たな文字が浮かぶ。
【あなたは《海王種》への進化資格を得ました】
【ただし、進化には王の魂が必要です】
「王の魂?てか展開が早い早い!ちょっと待ってくれ!」
その瞬間、俺の脳裏にあの黒い剣の声が蘇った。
『お前は海を支配する者になる』
「……違う」
俺は呟いた。
「俺は王になりたいんじゃない」
リュネを見る。
傷ついた人魚たちを見る。
魚群を見る。
俺を信じてついてきた仲間たちを見る。
「ただ――」
拳などない。
だから、ヒレを握るように動かした。
「こいつらを守れるくらい、強くなりたい」
その瞬間、海底神殿の扉が開いた。
中から巨大な影が現れる。
【古代種を確認】
【名称:海王】
【推定Lv.???】
「…………」
俺は言葉を失った。
巨大すぎる。
魚ですらない。
海そのものが、意思を持ったような存在。
海王が目を開く。
『人の魂を持つ小さき魚よ』
声が海全体に響いた。
『お前は何を望む?』
俺は答えた。
「強くなりたい」
海王が笑った。
『なぜだ?』
「死にたくないから」
『それだけか?』
「……違う」
俺は魚群を見る。
リュネを見る。
そして、
海の向こうにいる人間たちを見る。
「俺は――」
ゆっくりと前へ進む。
「この海で、誰にも奪われない力が欲しい」
海王の瞳が光った。
『ならば喰らえ』
『喰らい、進化し、強者となれ』
『そしていつの日か――』
海王の身体が海へ溶けていく。
『この海そのものを背負う覚悟を持て』
視界が真っ白になる。
【特殊進化クエストが開始されました】
【《海王への道》】
【第一条件:1000個体を捕食せよ】
【第二条件:海の支配者を一体討伐せよ】
【第三条件:王を守れ】
【最終条件:人間と魔物、双方の真実を知れ】
「…………」
俺は表示を見つめた。
1000個体。
海の支配者。
王を守る。
そして。
人間と魔物の真実。
「……面白い」
怖い。
もちろん怖い。
でも。
もう最初の頃とは違う。
三センチの小魚だった俺は。
仲間を得た。
力を得た。
そして、守りたいものまでできた。
リュネが俺の隣へ泳いでくる。
「ねえ」
「ギョ?」
「あなたの名前は?」
「…………」
そういえば。
この世界では。
まだ名乗っていなかった。
「俺は――阿部透」
人間だった頃の名前。
もう必要ないと思っていた名前。
でも、それは俺が俺である証だった。
「透……」
リュネが微笑む。
「素敵な名前ね」
俺は海上を見る。
そこにはまだ人間の軍勢がいる。
そして海の奥には、
俺たちがまだ知らない巨大な世界が広がっている。
「行こう」
魚群が動く。
「もっと強くなる」
俺は泳ぎ出した。
最弱だった小魚はもう、
ただ逃げるだけの存在ではない。
これは、一匹の小魚が海王へ至るまでの
長い物語の始まりだった。
第一章はこれで一旦終わりです!これまで読んでくださり、ありがとうございました!
また、この機会にこれ以外の作品も読んでみてください!




