↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/46

第33話:髪は復元可能ですから、気にする必要ないですわ




「無事、帰ってきましたね。お嬢様」


 マルタを置いて、スラム街を出発して二日後。


 道中と同じく宿屋を利用し、無事にアドルシュタイン領へ帰還した。要塞のようにそびえ立つ我が家を前に、空からは小雪がちらちらと舞い降りる。見上げると、エレナの吐く息は白く揺れていた。


「ええ、出迎えが多いようですが」


「えれなあああああ……よくぞ無事で。スラムで変な奴にからまれなかったか?」

 父が真っ先に巨体を揺らし、馬車から降りたエレナの傍に駆け寄ってくる。きょろきょろと慌てて、エレナの体に怪我がないかどうかを必死に確認する。


「王都からは、ぼろぼろの姿で帰ってきたからなあ、心配したよ」

 エレナの体が無傷なことに気がつき、父は安堵し涙ぐみながら笑った。


「お父様。今は、その歓迎に応じている時間がありませんの」

 エレナは、父の様子を見て淡々と告げた。父の少し後ろで、ヴィクトリアとカシアンが立っていた。


 エレナは父に熱烈な歓迎を受けながら、まっすぐヴィクトリアを見つめた。


「エレナ、無事に帰ったな」

「どうやら、完全にいつものエレナに戻って帰宅したようですね」

 カシアンは手を振り、ヴィクトリアは、カシアンにしかわからない程度に小さく微笑んだ。


 そして、エレナは周囲を見渡した。いつも真っ先に迎えに来るイザベラの姿だけがなかった。エレナは、ヴィクトリアの夫である同じ北部騎士団所属のカシアンに尋ねた。


「カシアンお義兄様、イザベラお姉さまは?」

「……ああ、三日ほど休暇届を出している。魔石師のところだ。エレナが頼んだんだろ?」


 エレナは、ふっと笑った。


(……どうやらイザベラお姉様は、私の提示したことを実行してくださったようですわね)



「エレナ、大切な話は明日しましょう。あなたにも準備が必要なはずです」


 ヴィクトリアは、それ以上、その場で何も問わなかった。

 エレナのその瞳は、王都から帰ってきた時とは確実に違っていた。





******



「お嬢様、もう、起きて下さい」

「……まだ眠いですわ」


 次の日。

 久しぶりに自室のベッドで眠ったエレナにアンは声をかけた。すでに朝日は高く昇り、部屋を明るく照らしている。エレナは、のそのそとベッドから上半身だけ起き上がる。


「ヴィクトリア様の所へ行くんですよね?」

「ええ……」


 エレナは、再びベッドでごろごろと転がりながら答える。アンは、容赦なくエレナの布団を剥がした。


「お嬢様、準備しますよ?」

「横暴ですわ……睡眠は不可欠な頭の整備ですのよ?」

「はいはい。お嬢様が起きるのを待っていたら、日が暮れてしまいます」


 エレナはため息をつきながら、ゆっくりと鏡の前に座った。

 アンは、鏡の前に座ったエレナの背後に回り、手慣れた手つきでブラシを入れる。


「お嬢様、髪、痛んじゃいましたね」

 スラムの泥で少し傷んだエレナの毛先を少し悲しそうに眺めた。


「髪は復元可能ですから、気にする必要ないですわ」

「お嬢様は、ご自分のことになると、本当に無頓着ですね……」


 エレナは何も気にすることなく淡々と話した。アンは、器用にエレナの薄い金髪を編みながら、視線を鏡越しにエレナに移した。


「お嬢様、ありがとうございます。私とマルタが、生まれ育ったあの街のこと」

「何ですか?」

「スラム街を思い出すと、胸の中に重いものがずっと沈んでいるような気がしてたんです。でも、あの街が少しずつ変わっていくのを見ていたら、ずっと胸につかえていたものが、少しだけ軽くなった気がしたんです」


「ええ、目に見えて改善傾向が確認できましたからね」


 アンは、その返事を聞いて涙ぐんだままふっと笑った。



つづく



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。