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第21話:『三』が多すぎますわね




 エレナは、アルドを北部騎士団の臨時宿泊所へ招待した。


 マルタはアルドを連れてスラム街の薄暗い路地を抜け、賑やかな大通りへと足を踏み入れた。パンの芳ばしい香りや、商人の呼び声が飛び交う活気あふれる通り、スラムの湿った空気とはまるで違う光景に、アルドは居心地が悪そうに速足で歩いた。


 やがてマルタが足を止めたのは、簡素な作りの建物の前だった。


「ここか?騎士団って、こんなところに泊まってんのか」

「臨時宿泊所だ。中に入れ」


 マルタは迷いない足取りでその扉を開き、戸惑うアルドを中へと促した。


 扉を開けると、外の喧騒が少し遠のいた。


 一階の食堂らしき広間には、いくつかの長机が並んでいる。その一角で、エレナは、大量の書類を広げながら、机に顎をのせダラダラとしている。


 今日は、フードも被っていないせいか、いつもとは違うエレナの様子にアルドは驚いた。


「あ……きましたね。アルド」

 エレナは、そんなアルドの様子を全く気にせず座るように促した。


「アルド、驚かないで。普段のお嬢様は、だいたいこんな感じだから」


 アンは、驚いたアルドの様子に気づき少し笑った。


 アンは、テーブルを挟んで向かい合うエレナとアルドの前に、湯気の立った紅茶と菓子を用意する。アルドが息を呑んでカップを見つめていると、アンがそっと耳元で囁いた。


「温かいうちにどうぞ」


 アルドは、その一言を聞き、不器用にカップを持ち紅茶を一口飲んだ。エレナも、上品にカップを持ち紅茶に口をつける。


 アルドは、素顔のエレナから目が離せなかった。


「さて、アルド。依頼していた件は、どうなりました?」


 エレナの一言に我に返ったアルドは、慌ててエレナに渡された地図を鞄から出し直接手渡した。アルドから渡された地図を見てみると、過去に都市から移り住んできた者の職業が絵で記載されている。その横には、数字が書かれていた。


「なるほど。数字は、ここに移り変わった年ですね。アルド、あなた絵が上手ですね。想定より、理解しやすく記載されていますわ」


「下が妹たちばかりだから。よく外で石を使って絵を描いて遊んでた」


 エレナは、アルドの書き込みが行われた地図を見た。『石の絵の横に三』『荷物の絵の横に四』『家の絵の横に三』……といった具合に所在地と共に書き込まれている。


「この石の印の横の数字は、三年前にスラムに来たとの解釈でよろしいですか?荷物……は、荷運び。家は、大工ですか?」


「ああ」


 エレナは返事を聞きながら、地図の上を指で辿った。


「……妙ですわね」

「何が?」


 石工、大工、荷運び。

 職種は違う。住んでいる場所も、ばらばらだった。

 しかし、その横に描かれた数字には、明らかな偏りがある。


「『三』が多すぎますわ」


 エレナは、しばらく沈黙し考え込んだ。静寂が部屋を包み込む。アルドが「おい……?」と声をかけようとしたその瞬間、エレナはすっと顔を上げた。


「この石工の方に会わせてください」



 エレナは、何かが閃いたように、まっすぐな眼差しをアルドに向けた。



つづく



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