宵闇の祝福
「来てくれたね。」
この狭間に来るのは何回目だ?
3回目……?いやわからない。もっとかも知れない。
「……ここに来るのは、何回目だい?」
そう聞かれる。
「わかりません……」
そう答える。
「そうだ。記憶っていうのはあいまいなものでね。」
目の前の人物はアップルパイを食んでいる。
「……今日は特別だよ。僕の家に招待しよう。」
背景が一瞬で変わる。かなり広い室内。豪華な装飾で囲まれている。
おそらく客間だ。
「彼を連れてきたよ……シンシア。」
客間には先客がいた。シンシアだ。
「ええと、俺たちがここにいるってことは……死んだんですか?」
「いや?ただ眠ってるだけだよ。」
「召喚魔法の勉強してたら……いつの間にか眠っちゃったのよね。」
「召喚魔法というのはなかなか面白いシステムでね。」
「例えば狭間にお邪魔しちゃう……なんてこともあるんですか。」
「充分起こりえるから面白いんだよ。ところで。」
「ところで?」
「僕のペットが世話になったようだね。」
「ルーインズクックってやっぱりあの鳥だったんですね。」
「そうそう。ラリッタって奴、僕のペットを狭間の悪魔と勘違いしてね。」
そういうと彼は指先を立てる。指の先から手品のように鳥が現れた。
「ノクタァ!また会ったなァ!」
「おおー、なんかかわいく見えてきましたね。」
鳥の首元をよく見るとおしゃれなチョーカーを巻いている。
……指の腹でやさしく鳥の頭をなでる。
「観賞用……ではないんだ。番犬ならぬ番鳥ってやつだよ。」
シンシアは興味深そうにそのやり取りを見ていた。
「へえ、これが"破滅の閑古鳥"なのね。」
「そうそう。こいつの力で来客をコントロールしているよ。」
「へえ、そんなことも出来るんですね。」
「まあそれは置いといて……シンシア。彼は忘れちゃったみたいだよ。」
「え!?私のこと忘れちゃったの!?」
「いや、シンシアの事は覚えているけど……」
「記憶っていうのはアテにならないんだよ。」
「ここに来た時のやりとりとか覚えてないですしね。」
「……いやそれ以前の問題だ。君は本当の記憶喪失なんだ。」
「ねえ"宵闇の祝福"。あれを観てもらうのが一番じゃない?」
「シンシア。君はそれで本当にいいのかい?」
「どうせ忘れるでしょ。私も、コウタくんも。」
コウタくん、そう呼ばれてハッとする。
この世界に来る前の俺の名前だ!
「では、このフィルムを……あとスクリーン。」
空間に巨大なスクリーンが現れた。
「コウター、コウター。カンナちゃんが遊びに来たわよー。」
「今行く!」
映し出されているのは、男の子だ。コウタと呼ばれていることから……
幼少期の俺?
しかし覚えていない。幼少期の写真は一度も見たことがないからだ。
「コウタくん!公園いこ!」
「カンナちゃん、靴はくから待ってて。」
ぎこちない手つきで靴紐を結ぶコウタ。
普通の子どもはマジックテープの靴を履くが……一応結べるみたいだ。
手をつなぎながら走って公園に向かうふたり。
「ねえ、私がネクロマンサーになったら、コウタくんは死んでね!」
公園のジャングルジムにのぼったカンナが爆弾発言をする。
「カンナちゃん、またアニメの話?」
「そうだよ!私も正義のネクロマンサーになるから!」
「なりたいおしごとにネクロマンサーって……」
「いいじゃない、いいじゃない!」
屈託なく笑うカンナ。
「ねえ、カンナちゃん。」
「なあに?」
「リンゴ堂のアップルパイ、一緒に食べようか。」
「食べたい!でもお金がないと食べれないんじゃないの?」
「実はさ……」
コウタはポケットから500円玉を取り出す。
「頑張って貯めたんだ。」
「えー、すごーい!ごちそうになっていいの?」
「いいから貯めたんだよ。」
「リンゴ堂行こ!」
うきうきで歩きながら公園の外へ出て……
おそらくそのリンゴ堂に向かうのだろう。
「リンゴ堂!もう目の前!」
この通りを横断すればリンゴ堂だ……
「あ!お母さん!」
よく見ればカンナとちょっと似ている女性がリンゴ堂で買い物をしていた。
「お母さんも買ってくれるの!?やったー!」
カンナは横断歩道を走り出す
待て!今は赤信号だ!
パアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!
……不運にもトラックが突っ込んでくる……
キイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!!
ブレーキが間に合うはずもなく……カンナはバラバラになった。
「ねえ、ここで君に思い出してもらいたいことがあるんだよ。」
俺は映像にショックを受けてまともに口が動かせなかった。
「カンナちゃんは何のアニメを観ていたんだろうね?」
「……」
「日曜日の朝に、ネクロマンサーが主人公のアニメなんてあったかい?」
「あり……ません……」
そうだ。ニチアサにネクロマンサーモノが放送されるワケがない。
「映像に戻るよ。」
「唯一、彼女と一緒に行動していた男の子ですが……」
「なんでだよ!なんでお前が先に死体になるんだよ!
俺を使い魔にしてくれるんじゃなかったのか!答えろよ!」
「このように錯乱しています。」
「そう、君は……記憶にフタをしたんだ。十年後を見せるよ。」
「コウタも4月から高校生ね!」
「第一志望の高校に行けるとは思わなかったよ。」
「お祝いがあるのよ。最後のお祝い。」
「最後?」
「ほら、コウタ。あのリンゴ堂。今月で最後なんですって。」
「あ、ああ。リンゴ堂の……なんだっけ。」
「だからホールで買ったのよ。ほら!」
アップルパイを見たコウタはその場にうずくまり……倒れた。
「コウタ?コウタ?どうしたの!?しっかりして!」
映像は続いている……
そうだ、俺は高校には入学できなかったんだ……
謎の体調不良で。
次が最終話です




