第39話 「姉妹そろって最悪だよ!」
龍絵とランが戻って来た時には、すっかり話がまとまって、トイと秋人の昼食は、炎の神さまと魔女ばあさんの胃袋に治まることに決まっていた。
「あら、本当に美味なお寿司だわ」
炎の神さまが、顔を綻ばせてぱくぱく食べるのを、龍絵とランは、無言で見守った。
龍絵は、スーシーランドに戻った時、びっくりして銀の器をおっことした。
龍絵とランも、炎のさまを見たのは初めてで、新たな魔女の出現かと度肝を抜かれたのだ。
その一瞬が命取り――引っ繰り返って、ぐちゃぐちゃに潰れたお寿司が、龍絵の足元に散らばって、悲惨な状態になった。
瀬奈とランも、思わず目を剥いたが、ランの処置は、素早く的確だった。
大慌てで龍絵の頭に飛び乗ると、龍絵が器を落とす寸前に戻ったのだ。
再び帰って来たランと龍絵に、瀬奈は脱兎のごとく駆け寄ると、器を握り潰すくらいの勢いで受け止めた。ランの機転に救われたのだ。
そして現在、魔女ばあさんは上機嫌で、米粒一つ残さずに、お寿司を平らげた。
「あー美味しかった!おまえたちが言うだけのことはあったよ!」
龍絵が、一番ほっとした。
「それでは参りましょう」
炎の神さまは、満足気に微笑んで瀬奈たちに声を掛けた。
その後、魔女ばあさんに暇を告げた。
「さて、わたくしはここを立ちますが、残る問題児二人、わたくしが預かりましょう」
「何だって!手柄を横取りする気かい?わしは、報酬分の仕事は、きっちり遣り遂げる質だよ!」
魔女ばあさんが抗議の声を上げたが、炎の神さまは、やんわりと制した。
「わたくし、この娘を大変気に入りましたの。この子の友が、いかなる性分か見極めてみたくなりました。西野の方には、わたくしから伝えましょう」
(やったあ!これで、ともちゃんとゆいちゃんも助かる!)
未来が好転し始めた――瀬奈は小躍りしたい気分だった。
「姉妹そろって最悪だよ!」
魔女ばあさんは、蛮声を張り上げて罵り続けた。
「あんたの性根は腐ってるんだ!閻魔さまだって呆れるさ!魔女の仕事を神が横取りするだって!前代未聞の呆れ話だ!地獄の鬼が聞いたって驚くさ!我儘な姉妹だよ!全くの恥知らずだ!」
龍絵と瀬奈は、罵倒に耳を塞いで手を繋いだ。
炎の神さまが、二人をそっと抱き抱えると、ランが、ピョンっと神さまの頭上に飛び乗った。
瀬奈たちが消えても、魔女ばあさんは怒鳴っていたが、しばらく経つと、魔女ばあさんも落ち着きを取り戻した。
そして、巨大コンロに目を遣ると深い溜息をついた。
「怒ったところで、どうしようもないんだ。無駄に体力を消耗するだけさ。魔女ネットで頼もうかね」
杖を一振りして、魔女界で人気の通販カタログを取り出した。
「安価で丈夫なのがあるといいんだけどね。最新のがいいよ、赤土を焼き払えるくらいの火力がいい。中古品は、もう懲り懲りだ」
熱心にカタログを見ながら、魔女ばあさんは、ぼやいた。
赤土団子が土神の仕業だと分かってはいても、まことに不快な一件だった。
「……全くもって理不尽だ!試験官は、わしが引き受けた仕事だよ!残りの子供を不合格にして食らうつもりだったが、どうも勘付かれたね……」
哀れな十匹の鯉は、池の中で恨めしそうな目をして泳いでいた。
揺れる尾鰭が止まるのは、おそらく一週間後だ。
魔女ばあさんが選んだ最新式コンロは、人気ナンバーワンで、到着日が一週間と若干遅くなる。
カタログを閉じると、魔女ばあさんは、懐から小さな赤い布巾着を取り出して紐を緩めた。
丸い桜色のあられを右手に出すと、一粒一粒ぽとりぽとりと池に落とした。
「ひっひっ、滑稽なさまだよ!図体ばかり、でかくって、謙虚さの欠片もない。小さい餅を我先にと食らいに来るんだから!ひっひっひっ、地獄の池と変わらんよ!呆れる話さ。こういう奴らは死んでも尚、我が身が一番可愛いだろうね!」
魔女ばあさんは餌をやりながら呟いた。
「嘘付きが人殺しの始まりさ。正しい嘘なんてない。嘘つきは、ただの嘘つき、人殺しは、ただの人殺し。嘘を放っておくと、本当がなくなるんだから、人の世は見苦しい。地獄の方が、よほど見目が良い。今は帰るがいいさ。どのみち嘘付きが治らなければ、最後は、わしの腹へ落ちるんだ……」
瀬奈たちの帰宅を、ことりたちは穏やかに出迎えた。
魔女ばあさんの話は、秋人から聞いていたからだ。
しかし、炎の神さまの登場には、全員が驚いた――これは秋人も知らない過去だった――
そして、瀬奈、ラン、龍絵の三人も仰天した。皆から新事実を聞かされて。




