表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/41

第31話  「一ヶ月後には、もういない」



トイは、さっさと寝てしまった。秋人も横になった。


(冬子さんが、俺のホントの母ちゃん?ありえねえ)


心の中で否定したが、肯定する材料はたくさんあった。


(いや、ありえる…冬子さんは、俺が産まれた年、産婦人科で働いてた。母ちゃんは小児科だけど、冬子さんと同じ病院に勤めてた、これが引っ掛かる。父ちゃんは、奉公屋で、その道のジャンルを結婚詐欺師に絞って稼いでた。そして二股もしていた、その結果が、俺とタエだ。辰一たついちおじさんが教えてくれた事が、ある)


 自分の父親が、結婚詐欺師だという事実が、重くし掛かった事は一度としてない。

 秋人は、沈着な自分の分析力には、いささか自信があった。

 ゆっくり起き上がると、顎に親指を当てて頭を捻った。


(でも、母ちゃんは、俺が知ってる事に気付いてねえ。母ちゃんが、どこまで知ってるかは分らねえけど、父ちゃんは確実に奉公屋と繋がってる、繋がってた。だとしたら、俺の誕生日も、タエの誕生日もデタラメだ。情報操作、記憶の改竄かいざんは、腕の立つ奉公屋なら得意分野だ。特に、保持妖怪と繋がりがある奉公屋なら、尚更だ………)


 人間の記憶を食べる妖怪、そして、情報操作が可能な奉公屋。タッグを組んだら、最強だ。秋人は、腹立ちを必死に抑えた。


(看護師が、生まれたての赤ん坊を摩り替えたとしたら?俺とタエを、取り替えたんだとしたら、トイの推理が正しい。冬子さんは、タエが生まれてすぐに、病院を辞めて職を変えた。母ちゃんも、勤め先を変えた。冬子さんは、西野小学校、奉公屋の育成学校に勤務し始めた。冬子さんも、勤務前から奉公屋と繋がってた筈だ。冬子さんが摩り替えたんだ)


トイの言葉を皮切りに、秋人は現実と向き合った。

今まで疑問に思っていても、知るのが怖くて意図的に避けていた。

心の引っ掛りに目をつぶってきた。


(母ちゃんは、俺の顔を見ると、いつも不機嫌そうにして、俺の背に誰かを見ている。その誰かに何も言えないから、俺に八つ当る。冷たい態度をとる。そんな日が多い。俺は、愛情を感じたことがねえ。それに、結婚詐欺師に騙された相手同士、同じマンションで暮らすか?騙される前から仲が良かったとしても、納得いかねえ)


 推理が冴えると同時に、怒りも込み上げる。秋人は、ふと手汗に気付いた。

 自分で思うよりずっと、気が短い方なのかもしれない。秋人は、暗闇で苦笑した。


(騙されたことで結束が強まったと言えば聞こえはいい。けど、いくらなんでも、冬子さんはタエを預け過ぎだ。タエが病気がちで、母ちゃんが、小児科の看護師で預けても安心、冬子さんは先生で忙しいから。今までは正論に思えてたけど………トイ、おまえが正しいぜ。けど、理由が分からねえ)


 秋人は、この考えを何度も反芻しながら眠りに入った。


 龍絵は、秋人の母親の部屋で、静かに寝息を立てている。


 秋人の母親は、ダイニングテーブルで宅配寿司のチラシを広げていたが、突然の眠気に襲われてテーブルの上に倒れると、そのまま眠ってしまった。

  

       

 時刻は七時を過ぎていた。


 トイは、タオルケットを丁寧に折り畳むと、新聞を掴んで一階に降りた。


 秋人の母親を起こさないように、抜き足差し足で、ダイニングキッチンを通り抜けた。そして、玄関のドアをそっと開けて、音を立てないよう慎重に閉めた。


 外に出て空を見ると、思ったより早く天気は回復していた。

 太陽はまだ雲の中だが、じきに顔を出すだろう。


 トイは、真っ直ぐ301号室へ帰った。インターホンを押すと、三秒もしないうちに戸が開いた。


「遅かったわね」


「ごめん。ちょっと手間取っちゃって」


  トイは大きく息を吐いた。


「姉さんが生きていたら、何て言ったかしら。完全に私のミスだわ。あなたが密かに嗅ぎ回っていたのは知ってた。でも、絶対に辿り着けないと侮っていた」


トイは、新聞紙を差し出した。


「おばさん、約束だよ」


 渋々受け取って目を落とすと、野入のいは額に右手をあてて、悲嘆に暮れた。


「本物だわ。持って来られたのね」


「僕は、父さんと母さんの子だから」


 得意気に言う甥を見つめて、複雑な思いであった。


「本当にやるつもりなの?姉さんたちは失敗したのに――輝龍さんだって」


 言い掛けて、野入は、慌てて口元に右手を当てた。うっかり口が滑ったのを誤魔化そうとしたが、トイが、遮って両手を差し出した。


「言わないで!もう知ってる!昨日の夜、小学校で小菊さんたちと会って、全部聞いたよ。静花さんもいた。輝龍さんは死んでた……おばさんも知ってたの?」


 野入の顔は雲っていた。


「トイ、現実を見なさい。あなたは子供なのよ?」


「……計画は遂行するよ!僕は妖怪の子だ!」


 トイは、きっぱり言い切った。


「僕には時間がない!知ってるよね」


 決意を固めた強く鋭い両目を見て、野入は諦めた。


 赤いロングスカートの左ポケットから、四角い小さな青い箱を取り出した。

 指輪を入れる箱とよく似ていた。


「これを誰に託すつもりなの?」


「僕の腹心の友――最高の親友だよ――」


「……あなたを見送るのは、その子なのね……」


 赤い小箱を受け取ると、トイは、素早くズボンの右ポケットに入れた。

 そして、最後に微笑んだ。


「おばさん、今日までありがとう。僕、選んだ道だから」


 これで本当に後戻りは出来ない。トイは大きく深呼吸して、302号室へ戻った。

 秋人が目を覚ますと、昼食の時刻になっていた。

 トイは、既に起きて熱心に古新聞を読んでいた。

 秋人は、のそのそと起き上がって部屋の入り口へ行くと、電気をつけた。それから問い掛けた。


「…なんか、わかったか」


「うん…ネットじゃ見つからなかったから」

 トイが俯いているため、表情が分からなかった。

 秋人は、トイの目の前に腰をおろした。そこで初めて目が合った。

 顔を上げたトイは、寂し気で苦しそうな顔をして、秋人に告白した。


「僕の両親は、奉公屋の味方をして、妖怪に殺されたんだ」


「そうか、残念だったな」


ことのほか秋人は平静だった。


「で、それで?今度は、何をおっぱじめる気だ?」


 こっちの方が、秋人には重要だったのだ。トイは、床の上に計画書を広げた。


「小菊さんから話を聞く前に、練ったものなんだけど、中止だね。でも、まあ、一応話しとくよ。赤目守りの森に祠があるだろ、あれを壊す予定だった」


「おまえ、アホか、そんなこと考えてたのか」


「そういう約束だったから」


「は、誰との?」


 秋人は、こめかみの辺りがズキズキと痛んだ。大体の予測はついている。


「西野小の生徒会長、畑瀬知世さんとの約束。祠は、妖怪じゃないと壊せないから、僕も手伝うことになってた。金目の鬼を復活させた後は、鬼の力を借りて、森と西野小の校舎を潰す計画だったんだ。西野小の先生たちは、悪者なんだって。だから退治するのを手伝ってほしい、って先週、連絡がきてた。」


 秋人は、怒りがふつふつと沸き上がってきた。


「死ぬ確率99%だ!それを俺らに黙ってたのか!」


「あとで、ちゃんと言うつもりだったよ」


「そういう問題じゃねえだろ!」


 秋人が怒鳴ると、トイも声を荒げた。


「仕方なかったんだ!僕にとっては都合がよかった!母さんと父さんの仇を討てるからね。母さんと父さんは、奉公屋の依頼に応じて、輝龍さんより早くに森へ行った。でも、西野小の先生たち、熟練奉公屋が雇っていた妖怪に見つかって殺された!父さんと母さんは、金目の鬼の復活を阻止しようとして、殺されたんだ!僕には時間がない。僕は、あの日、母さんを追い掛けて森に入った、そして会えないまま殺された。成仏できずにいた僕の魂に、おばばさまが時間をくれたんだ。一ヶ月後には、もういない」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ