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喫茶室の宝箱 そのいち

 数日がたった。

 アリサさんは目に見えてやつれてきた。

 相良前社長が逮捕されたというニュースが一向に流れてこないからだ。

 が、ある日突然、その懸念は吹っ飛んだ。

 菊王商事への告発、そして重要参考人として元のアゼルバイジャン支社長の指名手配。

 海外のニュースサイトでは大事(おおごと)になっていて、日本のニュースサイトでも少しだけ話題になった。

 どうやら相良氏は、逮捕される前に海外に逃亡したらしい。

 私はお茶子ギルドの情報の正確さにおどろくばかりだった。


 アリサさんには現社長の名倉氏から異動の内示が出た。

 海外事業部の飲料第三課――通称、酒課の課長だ。

「はー、このタイミングで異動ですかー。なんだかなあ」

 アリサさんは、テーブルにつっ伏している。

「報復人事ですか?」

「じゃないの。以前から異動願いは出してはいたんだ。それに課長だから、一応は、横すべり」

 そう。喫茶部は、社内的には地位が低い。

「よかったじゃないですか。海外逃亡ですね」

「そうね。実家からは逃げられそう」

 そして、アリサさんは私の眼をまっすぐに見つめると言った。

「ルナちゃん、お茶子ギルドの次の日本支部長、やってみる気はない?」

「はあ?」

「他に適任者がいないのよね。マコ・カナ・コンビはぽんこつだし、くるみちゃんは押しが弱いし。由衣ちゃんはただ淡々と仕事をこなすだけ。年齢から言っても、ルナちゃんがいいと思うのよね。……いざというときには動ける子だし」

「ははは」

「仕事はほぼ教えおわったし、あとは好き勝手にやってくれていいと思うの」

「皆さんがいいとおっしゃるのなら」

「じゃ、決まりね。ギルドの支部長の決定は絶対だから」

 そして、私は喫茶室の重大な秘密をゆだねられることになる。


 アリサさんに連れられて来られのは、厨房の片隅にある木製戸棚の前だった。

「ここ、()けたことないでしょう」

「はい」

 気にもしていなかった。

 アリサさんは踏み台を取ってくると、そこに乗って首から吊した鍵を差し込む。

「ここはね、毒物庫なの」

「え?」

 なるほど、中にはいくつものガラス瓶が並んでいた。

 変色したラベルに書いてあるのは謎の髭文字で、葉っぱやら結晶やらが入っている。

「昔、といっても、戦前の話なんだけど。喫茶部は暗殺の仕事もしてたの。その頃の遺物。葉っぱやキノコはもう使えないでしょうけど、鉱物系はまだ使えるでしょうね。これ、ギルドの規約で捨てちゃいけないことになっていて、毎年一回、ギルド本部に『まだありますよ』って報告しなきゃいけないの」

 アリサさんはスマホで自撮りの構えだ。

「ルナちゃんも入って!」

 毒物庫の前でツーショットである。よく考えれば怖い構図だ。

「笑って笑って~」

 パシャリ。

 そして、どこへやら送信。

「これで世界中のお茶子ギルドの支部長に交代が通知されたわ。これで大江ルナさんは、晴れてお茶子ギルドの日本支部長になりました。じゃ、これから事務面の引き継ぎを始めますね」

 アリサさんは毒物庫の鍵を締めると、別の金庫から書類の束を取り出した。


 同僚たちは、表向きは祝福の拍手で迎えてくれた。

 おそらく、腹の底では「何で中途採用の新入りが」という嫉妬もあったかもしれない。が、お茶子ギルドでは「可愛いメイドさん」を演じることも職務の内だ。そして、毒物庫の存在を知った私は、妙に強気になった。

 普段の仕事は、そう難しいことはない。シフトをつくって、エランドに発注をして、納品をチェックする。たまに防犯カメラを再生して、他部門への社内請求書をきって、メニューを考える。

 この段になって一番有能だったのが由衣ちゃんだった。会計チェックや納品管理は、引き続き彼女に任せた。ただ淡々と仕事をこなす人は、本当は縁の下の力持ちだったりするのだ。


 アリサさんも昼休みや夜にはちょくちょく喫茶室に顔を出してくれた。

 特に、夜のバータイムには毎日のように顔を出してくれた。

 もとい、飲みに来ていた。 

 たまに酒課の人たちとともに試供品の試し飲みに来ていて、空き瓶を増やしていった。


 そして、喫茶室をたまり場にするもう一つの団体があった。

 旧探検ギルド。

 加えて、譚大人(タンターレン)とその部下たちだ。

 旧探検事業部・専任部長の熊さんをとったのは、メディア事業部だった。熊さんが海外から調達してくるマニアックな映画や音楽は、これまでもメディア事業部の安定した戦力となってきた。インディペンデント系の制作会社と独占契約を結び、マイナーコンテンツの日本での配信権を買い付ける。すると数年後に大手配信会社がその権利を借りに頭をさげに来る。コンテンツビジネスはあたれば大きい。

 ただ、熊さん自身は海外を飛び回ることが出来ず不満そうだった。

 そこで、何やら佬園商会との共同プロジェクトを始めたようなのだ。

 お茶子ギルドの掟は、一切の社内情報に対しての「見ざる聞かざる言わざる」。しかし、こうもあけっぴろげに地図を広げて日本語で会話されていると、いやでも話の内容が聞こえてくる。

「霞ヶ浦フリーポート計画」

 霞ヶ浦の内側にあるどこかに、佬園商会との共同出資で大きな港を作る計画のようだ。

 政府や地元自治体との調整も進んでいるらしい。

 それは円安を追い風にした、とんでもない事業だった。

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