書類とライト消し忘れブザー
保証書の欄にしっかりと最初のオーナーの名前が書かれちゃってるよ。
あれ? よく見ると、前のオーナーと同じ苗字だけど、女の人の名前になってるよ。
最初は、奥さんの名義なのかな?
「それ、娘の名前だと思うよ~」
え? 柚月、いつの間に、私の背後にいたのよ。練習の同乗は?
もう、GTEの床錆び作業班が来て交代したって?
なんで娘だって分かるのよ、まさか、ストーカーしてたの?
なんだって? 解体屋のおじさんから、この車を持ち込んだ人に、前に乗っていた人は、75歳くらいのお爺さんだって訊いたんだって?
そこから考えると、75歳の人の奥さんで、その名前は時代的に合わないから、娘って考えるのが妥当だし、室内の様子から、お爺さんは、ただ乗ってただけって感じの人なのに、マフラーとか変わってるから、恐らく娘が買って、ちょっといじって乗ってたけど、結婚するとかで、置いていったんじゃないのかって見立てだって?
「ちょっとした想像力の問題だよ、ワトソン君~」
まだそのネタで引っ張るのか、柚月め、案外しつこいな。
なんだって? 私だって、未だにマゾヒスト部のネタで引っ張ってるだって?
何言ってるのよ、マゾヒスト部は、柚月が立ち上げた部じゃない。
さてと、なに柚月、定期点検記録簿を見ていこう、だって?
ページをめくっていけば良いのね。まずは、新車1ヶ月点検だね。
この時の走行距離は1,100キロで、オイル交換してるみたいだね。
次が6ヶ月点検で、この時は4,500キロか、次は12ヶ月で1万5千キロになってるよ。
次の6ヶ月でも1万キロ近く走ってるし、2年目の点検では、3万6千キロだよ、2年半の点検で4万5千キロで、次は最初の車検なんだけど、柚月、ここで、抹消謄本の人と名義人が変わってる。それと、走行距離がぐっと減ってるよ、今度は、4万8千キロだ。
なるほど、この記録簿があれば、その車の履歴が詳しく分かるんだね。その時に、どんな部品を交換したのかも書かれてるしね。
「それよりも、この車は、ある意味、奇跡かもね~」
どういう事?
なに? シルビアや、スカイラインの2ドアは、大抵の場合、若い男性ユーザーが、予算ギリギリだったり、無理めのローンで買ってるケースが多いから、無料で受けられる新車6ヶ月点検以降は、点検を受けないで、いきなり次が車検って、ケースも多いんだって、しかも、ディーラーじゃないところで受けてるケースが大半らしいよ。
または、最初から3年で、ローンの3分の2を返済して、車検前に売却して、次の車を買うってつもりで、ロクなメンテもせずに乗り回しているケースも多かったらしいから、記録簿なんて存在してない車が多いんだって。
「だから、半年ごとに~、ディーラーで、しっかりと点検を受けてるこの車は、かなり、素性のしっかりした車だよ~」
なるほどね~、素性がいいから、部品取りに狙われちゃったんだね。
「この色って、人気無いしね~。年配ユーザーだってのもあって、足元見られちゃったのかもね~」
ふーん、そういう事か。
でも、逆にさぁ、これだけしっかりと記録が残ってれば、今後、どこが壊れる可能性が高いかとかって、予測できるんじゃないの?
「だね~、だから、記録簿をしっかり読んでいってみようよ~」
◇◆◇◆◇
目を通してみたけど、どうも、完全にディーラーにお任せ、って感じだったので、色々、部品交換はされていたけど、ダイレクトイグニッションは、今まで異常無しで来たみたいなので、壊れる可能性ありかな。
……なんか、プラグが真っ白だったしね。
燃料はどうなんだろう? フィルターは、恐らく大丈夫だと思うけど、ポンプは、念のため交換していた方が良いだろうね……かぁ。
なにせ、あの白R32のタンクの状態が酷かったからねぇ……あれを見ちゃうと、心配はしちゃうよね。 え?S14の燃料タンクは樹脂だから、その意味では安心できるって? そうか、でも一応ポンプとフィルター、それからホースも考えておく……と。
なんか、あのR32の作業のおかげで、ほとんどの作業に抵抗が無くなっちゃたね。
ここで、エンジンが壊れてても、解体屋さんでモノが見つかりさえすれば、みんなでサクッと交換しちゃおうよ! って、言えちゃいそうだね。
整備に関しては、あとはライトの光軸とか、サイドスリップとかだけど、サイドスリップは、アライメント調整すれば、大丈夫でしょ、ライトの光軸は、自分たちで調整してみようかぁ……正確にいくか、自信は無いけどね。
そうだ、ライトの感じを見てみよう。
書類をしまって、シルビアのライトを点けてみる……って、R32はライト点けっぱで、ドア開けると、結構耳に“キーン”ってくるくらい、やかましいブザーが鳴るのに、シルビアのブザーは、凄く優しい音だよ。
どうだろう……って、まぁ、普通だね。樹脂のライトを磨けば、明るさは問題なさそうだね。
なに柚月、一応、ホムセンの1,000円バルブでいいから替えておきたいところだって?
じゃぁ、バルブ交換もメニューに入れておくね。
柚月、このバンパーの所にある、剥がした跡みたいなのって、なんだろうね? 恐らく、フォグランプをつけてた跡じゃないかって? そうなんだね。このエアロバンパーには、純正のフォグランプがつけられないから、取り付けてたんだと思うって? そうか、これに関しては、実際に走らせてみて、必要になったら考えれば良いかな。
よし、ライトを消して……と、柚月、ちょっと来てよ。このシルビア、エアバッグがついてるよ。競技車以外の部車で、初めてのエアバッグだよ……って、なんでため息つくの?
エアバッグがついてると、ステアリングの交換が容易にできなくなるから、厄介な装備なんだって? エアバッグ対応のステアリングボスは、無しのボスの倍以上するって?
でも、交換しなけりゃ良いんじゃね? そのステアリング、よく見てみなよって、なんか、白いハンドルカバーが掛けてあるね。きっとお洒落の一環じゃないのかな?
「マイのバカー!」
痛っ! いきなりツッコみやがって、なにするんだよー。
よくそのカバーを捲って見てみろって? 捲ってみる……と、うわっ! 凄っ、ハンドルの表面がガサガサになっちゃってるよ。
「表面の革が、経年劣化で剥けちゃったんだけど~、交換費用が高いから、諦めてホムセンかどっかで、一番安いカバー買ったんだよ~、それ」
じゃぁ、ボスが高いから、替えのハンドルカバーを買うか……そのカバー、趣味悪いし、結構滑るしね。
「若しくは、解体屋さんに行くか、だよ~」
えっ、解体屋でハンドルカバー探すの? 違うって、ハンドル自体を探すんだって?
S14中期のハンドルは、エアバッグ標準化、第1期生のものだから、パッドの部分がもっこりしていて、結構カッコ悪いんだけど、後期型になれば、もっとカッコ良くなってるし、MOMO製のオプションなんかもあるんだって? 更にS15型になると、もっとカッコよくなるから、狙い目だよね、だって?
ふーん、なるほどね、まぁ、この車自体が、あそこで入手したものだしね。お世話になっておくかな。
さて、登録に関わる書類の確認をしておかなくちゃ……なんだけど、この抹消登録の青い紙と、譲渡証明書、印鑑証明と、委任状、車庫証明があれば、取り敢えず大丈夫なのかな?
「マイさ~、部に寄贈した、R32の復活プロジェクトの本の中に、登録の回があって、書類についても書かれてたよ~」
そうなの!? って、ちゃんと読んでなかったのかって?
読んではいたけど、そこまで熟読はしてないよ。
とにかく、本に載ってるなら、話は早いね、そのページを探そう。
ふむふむ、この場合は、自分の名義の車を再登録させる場合だから、譲渡関係の書類がないんだね。ただ、これ以外の書類に関しては、当日、陸運支局で入手するものみたいだね。
そう、それと、大事なのは、当日陸運支局まで持ち込む際の移動に使う、臨時運転許可、世に言う仮ナンバーだね。この間、優子のR32につけてたアレだよ。
あれを取るには、まず自賠責保険に加入してないとダメなんだけど、車検を取る際には、必要なものだから、入ってるとして、何処で借りるかというと、市役所みたいだね……でもって、ウチらの住んでるところって、市町村合併で編入された一番外れの方なんだよね、市役所に行くのに、軽く1時間以上かかるんだけど……。
「支局とか、出張所でも、できるんじゃないかな~? 優子が、確かそんなこと言ってたよ~」
そうなのか! とにかく、整備は今週中にできちゃうから、そうなると決戦は、来週だね。
明日は水野と打ち合わせて、学校側で用意できる書類について問い合わせよう。
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次回は
登録に向けての動きが着々と進んでいる部のシルビア。
次に横たわる難関に挑みます。
お楽しみに。




