喫茶店でのある1日part15
昨夜の出来事なんてなかったかの様に、初瀬は開店の準備をする。そろそろ日が登り始めるという時間に店の扉が開く。扉の方を軽く見て溜息を吐く。
『閉店中よ。客は帰って欲しいわね』
「客として訪れた訳ではねえことくらい分かってんだろ」
男は舌打ちをしながら店内に入ってくる。服装は昨夜と変わらずだ。二人とも昨夜の神社でのときとは違い会話をする。
「くそ、不死だったのか」
『あら、不死かどうか分かっていなかったの? まったく、白夜と関わっていてそれが分からないというのは致命的ね』
会話をする二人だが、男は入り口から入ってすぐから動かずに警戒をする。初瀬もまた、開店するために出していた道具を置き、男の方を見た。他に誰もいない店内が一触即発の空気に包まれる。
『不死かどうか。これは重要よ、なんといってもこれを間違えると管理人が出てきてしまうのだから』
「管理人ごときを恐れる必要なんかあるとでも? 馬鹿馬鹿しい、所詮は不死者か」
笑顔を浮かべて初瀬は男に警告をする。管理人と初瀬が呼ぶ者は、不死である者が一番逆らってはいけない存在である。世界の法則に縛られている初瀬を男は嘲る。
『管理人に逆らう気かしら?』
「逆らったところで管理人にそこまでの力なんてねえだろうが。報復を恐れる理由なんてどこにもないと、俺が知らないとでも?」
聞き捨てならない言葉を聞いた初瀬は、確認するためにもう一度男に聞く。その言葉に対する返答は、肯定であった。
「洗脳というのはここまで引き起こすのね。驚きだわ。でも、管理人を甘く見すぎではないかしら」
その呟きは洗脳され操られている男を嘲るもので、管理人に逆らおうとしている男に対する蔑みだった。言葉が分からないものの、声のトーンと表情から嘲笑されていることが分かった男は初瀬を睨み付ける。
「てめえ、俺に殺されていて上から目線もいいところだな!」
『あれは油断していただけよ。霧の性質を忘れていたわ。それに管理人を甘く見ていることは私にとっては関係ないの』
油断していなければ勝てると初瀬は言外に伝える。その目は冷えきっていて、温度が感じられない。
『白夜が死にかけるだとか、管理人が革命を起こされかけているとか言うのなんか、関係ないわ。でも、今回の始まりは神様よ』
「それこそ馬鹿じゃねえか! 雨を降らせるくらいしかできねえ神が死んでも別に困りゃあしねえだろうが!」
神が原因という言葉を聞いた途端に嘲笑する。男が言う通り、今回の始まりである神は力をほとんど持たない。神社の外に出たらほとんど意識を保てない程に弱い。だからこそ、初瀬は決めていたことがあった。
『たかが雨。それを言う人は本当に多いわ。私もそう思うもの。だけど、何で気づく人は少ないのかしらね。あれは、浄化の類いということに』
「浄化だと? だからどうした!」
『まあ、これは少し離れるわね。なぜ私が動くのか、せっかくだから教えてあげるわ』
神が持っている力で降らせた雨には浄化の力が宿る、というのは今回の話からは逸れることに気づき修正する。今回、初瀬は神が少年に連れて来られなければ、動くことはなかった。
『私は神様の無事を望んでいるの。私が信仰しているのは珍しいことなのよ。まったく分かっていないわね。やっぱり邪神風情が分かるというのがお門違いだったわ』
溜息を吐いて呆れた様子で言う。その右手にはロザリオがあり、いつでも攻撃することができる状態だった。一触即発な空気に包まれていながら、今までロザリオは持っていなかった初瀬の心境を、男は推し量ることはできない。
「不死である者が誰かを守るか」
『ええ、そうよ。戦闘ができずに巻き込まれることもほとんどない神様が、もし巻き込まれたら。それは、神様にとって対処しようがない天災でしかない。軽減できるかもしれない程度の対策は必要でしょう?』
「つまりは、神が無事でない可能性も十分あるのか」
『当然でしょう。私は全知全能ではないの』
そのセリフは、最悪間に合わなくても良いということを言っていた。初瀬は、戦闘ができない神を心配しているが、死んでも仕方がないところがあるとも思う。そして、一番大きい要因は神もまた信仰さえされてれば現れるということだった。
「ゲームは面倒よ。でも巻き込まれなければ退屈になるわ。一つくらいは巻き込まれる条件を作っておくわよ、流石に」




