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自分は「ぽっちゃり好き」と勘違いしていたと、哲学的な話



 私はぽっちゃりした女性が好きだ。

 細身の人より物理的な事故に頑丈(つよ)そうだから。



 今まで付き合ってきた人の中にもぽっちゃりした女性はいた。よく肩を鷲掴みにしては握りしめていた。


なんか⋯⋯脂肪と筋肉、そして骨が作り出した握り心地が癖になっていた。


強く握れば握るほど、「ここに彼女がいる。」と確かに感じられた。



◇

 私は、ぽっちゃり女性の「頑丈さ」に魅力を感じていた。――だが同時に、あまり自覚的ではなかったのだが、肩幅が広い女性といった「ガタイのいい女性」にも魅力を感じていた節もある。


ぽっちゃり女性とガタイのいい女性には、『物理的な頑丈さ』という共通した属性がある。


それを踏まえると、私はぽっちゃりした女性が好きなのではなく、「頑丈な女性」が好きなのだと、最近になって気づいた。


長年、ずっと勘違いしていた。


『頑丈な女性』という観念の中に、ぽっちゃり女性がいるだけなのだ。


そしてこの好みは、おそらく自身の力が強いということが関係しているのだと思う。



◇

 私は7歳くらいのころ、中身が入った牛乳パックを片手で握りつぶしたことがある。目の前の同級生にムカついたからだ。


中学のときには2ヶ月くらい空手を習っていた。


そこで初めて組手をしたとき、私から胸を殴られた相手は苦しそうに胸を抑えて「⋯⋯パンチ強すぎ」と言って片膝をついたこともある。


私はそれ以降、組手をさせてもらえず、ミットに向かって殴ることしかさせてもらえなかった。


だから私は、なるべく力を抑えながら生活している。



 そう言うとちょっと中二病みたいだが⋯⋯そうしないと日常生活に支障が出てしまう。


自分が優しく掴んだつもりでも、彼女の腕に指の形をした青痣ができたり、お米のパッケージを指が貫通してしまい、スーパー内で米をぶち撒けてしまうなどの問題が何回も起きた。


彼女にできた青痣は、時間とともに広がって、その広がりが私に「人を傷つけた」と強く訴えてくる。


本当に洒落にならない。



 自身の力に気を使いながら生活するのは、とても窮屈だ。まるで、満員電車の中、身じろぐこともできない自身の喉元に、誰かの鞄が突きつけられ、その鞄が電車の揺れによって、何度も自分の首を圧迫してきているようだ。



◇

 私は、ぽっちゃりした彼女の肩を強く掴んだとき、「ここに彼女がいる」と強く感じた。


これは、力のセーブに意識を使わず、目の前にいる彼女に、素直なままで触れることができたからだと私は思う。



 人はなぜ、愛する人や動物を強く抱きしめる?

 

 私はこの問に、「相手の存在をより実感するためだ」と答えたい。


何かに気を使いながら相手の存在に触れることは、相手と自分の間に『心の壁』を作り出す。


そうした事情を取り払った素直な心でこそ、人は初めて目の前にいる存在に触れられる。


だからこそ私は、力を抑えずに接することができる「頑丈な女性」が好きなんだと思う。


そこに、確かな存在を感じられるから。



 これを読むあなたがどんな人間なのかは知らないが、「意中の相手から強く抱きしめられること」や「動物が自分にすり寄ってくること」は、大抵の人間は喜ぶのではないだろうか。


それはおそらく、自身の存在が強く求められているように感じられ、二者の間には社会生活上の窮屈さが存在していない、純粋な『人としての時間』が流れているからこそ、嬉しいのだと思う。




【あとがき】


 以前、見知らぬプードルに凄まじい求愛を受けたことがある。きっとそのプードルは私と誰かを間違えているのだろうが、尻尾を千切れそうなくらいに振り、飼い主さんがリードを引っ張っても足を踏ん張り、私の前から動こうとしない。



 私はストーカーに遭った経験から、目立つことを嫌う。極力、人から注目されたくないし、人の記憶に残りたくない。だから、猛烈なプードルと漫画のように汗を飛ばして困惑している飼い主、そして、それを微笑ましそうに見守る周囲の視線は、まったく好ましい状況ではなかった。


――とは言え、不思議と悪い気持ちにはならなかった。


それはきっと、プードルと私の間に、害意や悪意のない純粋な時間が流れていたからだと思う。



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