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星を運ぶ郵便屋  作者: 2番目のインク


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5/12

第2話 病気の母 ①出会い

郵便屋の拠点は街中にある。


だが、多くの人はその存在に気付かず、通り過ぎていくだけだった。


見えているのに見えない。


そんな不思議な場所だった。


店舗の前では、赤い車が星のようにきらきらと光っている。


見習いの郵便屋ルナは、メルトに言われ、その車を丁寧に磨いていた。


「いいですか。ルナさん」


メルトは車体を指で軽く撫でた。


「この車は星を渡ると、星の星屑をまとってしまうんです。」


指先がきらりと光る。


「星屑って、触るとふわふわするね。」


「あまり積もると重くなるんです。そうなると、車が動かなくなってしまいます。」


「動かなくなったらどうなるんですか?」


「星の間を漂流してしまいます。最近はSAFというレスキュー隊がありますから、何とかなりますが……。」


「星屑は時間が経てば自然に消えます。でも、積もりすぎると消えなくなるので、こまめに払ってあげるのも仕事なんです。」


そう説明を終えると、メルトは店の中へ戻った。


窓の外では、ルナがまだ黙々と車を磨いている。


「ありゃ、本気で居座る気だぜ。」


こぐまのモコが椅子に身を預けながら、気だるげに言った。


メルトは書類を手に取り、目を通しながら答えた。


「目的があるみたいですし、それを果たしたら帰るのではありませんか?問題はありません。周りの大人が騒ぎ立てるから、大事になるんですよ。意思のある子なのですから、尊重してあげてください。」


「それが問題な気がするぜ……」





「ん?」


モコが窓を覗き込んだ。


扉の前に、ひとりの女性が立っていた。


「メルト、お客様みたいだぜ」


窓越しに見えるその姿は、どこか年齢のつかみにくい女性だった。


落ち着いた服装。病院帰りのような色の静けさを纏っている。


整えられた髪の奥に、色白く疲労の影が沈んでいた。


気のせいか影が薄い気がした。


まるで、ここではないどこかから、ようやくたどり着いたような。


女性は一所懸命に車を磨くルナに申し訳なさそうに口を開いた。


「あの……すいません。ここは」


声は小さいが、芯があった。


「星運びの郵便屋さんですか?」


ルナの手が止まる。


「は、はいっ」


慌てて布を置き、女性のもとへ駆け寄った。


そして入口の看板を示す。


女性はルナが指示した看板を見た。


☆願い配達所~Message Express Link Terminal

~~~~~~~~~~~~~~~☆

配達を承る前に、ご確認ください。


① 名を名乗ること

② 願いを語ること

③ 後悔をごまかさないこと


ご理解いただけましたら、ご入店ください。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~☆


女性はしばらく、その文字を見つめていた。


やがて、意を決したように口を開く。


「私、ミユと申します」


彼女は胸元から、ひとつの星を取り出した。


その指先は、わずかに震えている。


「母が、目を覚まさないんです。」


「何か……母の心に、贈り物をしたくて。」


ルナは差し出された星を見て、息を呑んだ。


星は小さい。


けれど、その重さだけは伝わってくる気がした。


「ま、ま、待ってください……」


ルナは慌てて両手を振る。


「わ、私、まだ見習いだから……」


どうしていいか分からず、視線が店の奥へ向く。


「しょ、所長!」


すると奥から落ち着いた声が返ってきた。


「はい、ルナさん。案内、ご苦労様です。話は聞こえてました。」


メルトは一礼をして、淡々と自己紹介をした。


「所長のメルトと申します。」


「お荷物をお預かりします。」


「はい」


ミユが星をメルトに手渡した。


それは願いではなかった。


願いになる前の痛みだった。


胸の奥に長く沈み続けていたもの。


言葉にすれば壊れてしまいそうで、


ずっと抱えたままにしてきたものだった。


メルトは星を見つめる。


「これを、どなたに届けたいのですか?」


「母に……」


ミユは星を見つめた。


「今、病院で眠っている母に」


メルトは静かに頷く。


「願いですか?」


ミユは少し考えた。


そして首を横に振った。


「違うかもしれません」


「え?」


「願いというより……」


そこで言葉が止まる。


「謝りたいんです」


「最後に話した時」


「ひどいことを言ったんです」


「でも、言いすぎたなって、後悔して…でも、また今度でいいやって思って」


「ちゃんと話さなかった」


「そうですか…。」


「お母さまのお名前を伺っても?」


「ユミです」


その名前を口にした瞬間だけ。


ミユの表情が、どこか幼いものに見えた。


「わかりました」


メルトは荷物を水色の籠に丁寧に入れ、飛び出さないように上からネットを被せた。


そして、ごく当たり前のことのように言った。


「ユミさんを探します」


そういうと、メルトは目を閉じ、眼鏡を静かに正した。


店内が静かになる。


モコもルナも口を開かない。


しばらくして。


メルトの眉がわずかに動いた。


「……そうですか」


その声は、誰に向けたものでもなかった。


「見つかりました」


ミユが顔を上げる。


「お届け先が分かりました」


「これより配達します」


ミユはほっとしたように息を吐いた。


「……母に、届きますか」


「郵便屋ですから」


それは当たり前のことを言うような口調だった。


「必ず届けます」


ミユは小さく頭を下げた。


「よろしくお願いいたします」


モコは椅子から飛び降りると、大きく伸びをした。


「それじゃ、行きますか」


気怠そうな口調のまま、当然のように運転席へ向かう。


ルナも慌ててその後を追った。


メルトは最後にかごを再確認して言った。


「かなり遠方ですね」


車へ乗り込みながらそう呟いた。


ルナが首を傾げる。


「遠方?」


「ええ」


それ以上、メルトは何も言わなかった。


エンジンが静かに目を覚ます。


赤い車は星の粒をこぼしながら、夜の街へ走り出した。

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