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星を運ぶ郵便屋  作者: 2番目のインク


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3/12

第1話 運びの仕事 ③配達

赤い車が宙を浮く。

星の粒がタイヤの下でほどけていく。


「第3の星まで三分で到着します。」


星ナビが告げた。


モコがハンドルにしがみついている。


「……なあ。」


「なんです?」


「おやつは?」


「仕事の前に聞くことですか?」


「重要だ。」


「その判断基準、だいぶ偏ってますね。」


しばらくして。


モコがぽつりと言う。


「名前が無い客だったな。」


「名前が無いわけではないでしたよね。」


「珍しいな、イレギュラーな案件をお前が受け入れるとは。」


「ええ。」


メルトは窓の外へ視線をやる。


流星のような光が横切っていく。


「でも。」


「ん?」


「嘘は言っていませんでした。」


「わかるのか?」


「郵便屋ですから。」


モコが鼻を鳴らす。


「便利な仕事だ。」


「でも便利屋じゃありませんよ。」


メルトは静かに返す。


「荷物を届けるのは、思いのほか楽な仕事じゃありません。」


少し間を置いて続ける。


「それでも、少しでもお客様の荷物を軽くできるなら、それでいいんです。」


モコは何も言わなかった。


やがて前方に、青く輝く星が浮かぶ。


「着いたぞ。」


「第3の星だ。」


草原だった。


風が走っている。


どこか、ポチらしい場所だった。


その中を、ひとつの影が駆け抜けていた。


ポチだ。


毛並みは陽光を弾き、しっぽを大きく振っている。


ただ走っているだけなのに、やけに幸せそうだった。


ポチの足元には――


小さく欠けた星が落ちていた。


赤い車はその横を並走するように浮かび、速度を落とす。


メルトが窓を開ける。


「ポチ様ですかーーー?お荷物を届けにまいりましたー。」


影が止まる。


ポチがこちらを見る。


メルトは荷物を掲げた。


「ああ……あの子の星を届けに来てくれたのか。」


ポチは目を細める。


「あの子は、ルナは元気にしてるか?」


「はい。」


「…そうか。」


ポチは安堵したように笑い、空の遠い星を見た。


「撫でられるのはな…」


「天使みたいだった。」


「照れくさくてな。逃げ回ったりもした。」


しっぽがゆっくり揺れる。思い出が溢れ出ている。


「もっと素直になればよかったかもしれん……」


ポチは笑った。


ポチは足元から、もうひとつの欠けた星を拾い上げた。


しばらく、それを見つめ、欠けた部分を撫でていた。


「俺は幸せだった。


……でも、それを幸せじゃなかったと思わせてしまった」


それが、ポチの後悔だった。


「ひとつ頼まれてくれんか。」


そういうと、ポチは自分の星をメルトへ託した。


「これを、あの子へ届けてほしい。」


「俺は幸せだった、と。」


「……でも、それだけじゃ足りんな。」


「幸せだったことを、ちゃんと伝えてくれ。」


メルトは荷物を受け取った。


「お荷物、お預かりしました。」


メルトは帽子に手を添えた。


「最後に一つ、お聞きしてもよろしいですか。」


「なんだ?」


「先ほどおっしゃっていた……『ルナ』とは?」


ポチは少しだけ目を丸くした。


「ああ。」


「あの子の名前だ。」


静かに一礼した。


星を受け取ったメルトは車に乗り込んだ。


赤い車がゆっくりと浮き上がる。


ふと、下を見ると──ポチがこちらを見上げていた。


尻尾が、揺れていた。

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