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忌み魔法と呼ばれても気にしない魔法使いの、辺境ぐらし  作者: メイコノノ


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第六十五話「謁見」

 グラウンに帰ってから二週間が経った。


 還薬草液、軟膏、飲み薬の製造を再開した。在庫が空になっていたので、最初の一週間は製造だけしていた。


 ミドリにも会えた。帰ってきた翌日、森の近くに行ってミドリと呼ぶと、茂みからすぐに顔を出した。いつもより長くそこにいた。ティアが言っていた通り、寂しがっていたのかもしれない。


 ベアとゴルドとも毎日のように会った。ライナスのところにも報告を兼ねてお茶を飲みに行った。


 グラウンの日常が戻ってきていた。


 王都からの手紙が届いたのは、帰ってから一ヶ月後だった。


 マリエルからではなく、王家の紋章が入った封書だった。


 ——アオイ殿、このたびの王都での病への対応、心より感謝申し上げます。改めて直接お礼を申し上げたく、謁見の機会を設けたいと思います。日程についてはご都合をお知らせください。ティア殿にも同様の書状を送っております。——


 アオイはライナスに手紙を見せた。


 ライナスは手紙を読んで、少し間を置いた。


「王家からか」


「そうです」


「断れないな」ライナスは言った。


「日程を調整して返事をしろ。こちらでも準備をする」


「準備というのは」


「グラウン辺境伯として、お前を王都に送り出す準備だ」ライナスは言った。


「今回はそれなりの形で送り出す必要がある」


「そうですか」


「護衛も増やす。前回のようなことがあってからは、一人で王都に送り出すわけにはいかない」


「ありがとうございます」


「ティアも王都にいるから、現地で合流できるな」


「そうですね」


「服は…マリエル殿に頼めるか」


「手紙を書きます」


「そうしろ。王家への謁見だ。それなりの格好で行け」


「わかりました」


 マリエルに手紙を書いた。


 ——マリエル様、王家からの謁見の知らせが届きました。日程を調整して参ります。服についてご相談させてください。

 追伸  ティアは元気にしていますか。グラウンは静かです。——


 返事はすぐに来た。


 ——アオイさん、謁見の準備は私が整えます。服も用意します。日程が決まったらお知らせください。

 追伸  ティアは元気です。王都で腐敗魔法の使い手と薬を作って、毎日忙しそうにしています。グラウンの話を聞かせてほしいとよく言っています。——


 ベアに話した。


「王家からの謁見か」ベアは言った。


「そうです」


「行ってこい。正式に認めてもらえるなら、行くべきだ」


「はい」


「服はちゃんとしたものを着ていけ」


「マリエル様が用意してくれます」


「それなら安心だ」


 ゴルドにも話した。


「グラウンに来たときは身元不明の旅人だったのに…」


「そうですね」


「随分変わったものだ。余計なことを言うなよ」ゴルドは仏頂面で言った


「言いませんよ」


「本当か」


「本当です」


「信用している。還り家は見ておく」


「ありがとうございます」


「行ってこい」



 出発の朝、いつもより護衛が多かった。


 クラウスとヴィンに加えて、ライナスが手配した衛兵が四人いた。計六人の護衛だった。


「今回は六人でお送りします。ライナス様からの厳命です」クラウスは言った。


「そんなに必要ですか」


「必要です。前回のことがあったので。ヴィン、そうだよな」


 ヴィンは無言で力強く頷いた。


 ライナスが城門で待っていた。


「準備はできたか」


「できています」


「護衛の数は多いが、文句を言うな。前回のことを考えれば当然だ」


「わかりました。行ってきます」


「無事に帰ってこい」


「大丈夫です。必ず帰ってきます」


「ああ。待っている」


 馬車が動き出した。


 ライナスは動かずにこちらを見ていた。


 グラウンが遠ざかっていく。



 七日後、王都に着いた。


 マリエルの屋敷に着くと、ティアが出迎えに来ていた。


「アオイさん!!来てくれてよかったです」


「元気そうですね」


「元気です。王都での仕事が忙しくて、あまり休めていないですが」


「無理をしないでください」


「アオイさんに言われたくないですが」ティアは笑った。


「グラウンはどうですか。ミドリは」


「元気です。帰ってきた翌日に会いに行きました」


「そうですか」ティアは少し嬉しそうな顔をした。


「寂しがっていましたか」


「いつもより長く近くにいた気がします」


「やっぱり。私もグラウンに帰りたいですが、もう少し王都でやりたいことがあるので…」


「わかっています。ティアの部屋はそのままにしてあります」


「ありがとうございます。では中に入りましょう。マリエル様が待っています」


「アオイさん、よくいらっしゃいました」マリエルは言った。


「謁見は明後日です。明日は服の最終確認をしましょう」


「ありがとうございます」


「ティアの分も用意していますよ」


「ありがとうございます」ティアは言った。


「エルノ様も同行してくださいます。礼儀作法はおさらいをしておきましょう」



 謁見の日、マリエルが用意してくれたドレスを着た。


 深い青色のシンプルなドレス。前回と同じ色だった。


 ティアは深い緑色のドレスだった。


「緑色ですね」ティアは自分のドレスを見た。


「ミドリみたいですね」


「似合っていますよ」マリエルは言った。


「ありがとうございます。アオイさんも似合っています」


「ありがとうございます」


「では行きましょう」


 王城への謁見は、エルノとマリエルが同行してくれた。


 広い廊下を通って、謁見の間に案内された。


 謁見の間は天井が高く広かった。正面に玉座がある。


 国王と王妃が座っていた。五十代くらいの落ち着いた印象の方たちだった。侯爵もいた。エルノが前回話していた通り、侯爵が王家に働きかけてくれていたようだった。


 アオイとティアは教わった通りにお辞儀をした。


「顔を上げなさい」と国王は言った。穏やかな声だった。


 二人は顔を上げた。


「アオイ、ティア。このたびの王都での病への対応、心より感謝する。多くの命が救われた」国王は言った。


「ありがとうございます」アオイは言った。


「治癒魔法では対処できないところを、腐敗魔法の薬と直接治療で対処してくれた」国王は続けた。


「亡くなった方は百二十三人。深刻な被害だったが、お前たちがいなければもっと多くの命が失われていた」


「二人でやりました」アオイは言った。


「ティアがいなければ対処しきれませんでした」


「そうだな」国王はティアを見た。


「ティア、お前はまだ若いが、よく戦ってくれた」


「ありがとうございます」ティアは言った。声が少し震えていた。


「それと…」国王は続けた。


「アオイ、命を狙われながら生き延びた。刺客を雇った人間については現在調査中だ。必ず特定して裁く」


「よろしくお願いします」


「王家として、お前たちの働きを正式に認めたい」国王は側近に目配せした。


 側近が二つの勲章を持って前に出た。


 金色の勲章だった。細かい細工が施されている。


「この勲章を授ける。腐敗魔法は長年忌み魔法と言われてきた。しかし今回の件で、その認識を改める必要があることが明らかになった。腐敗魔法を忌み魔法とする王命を廃止する」


 謁見の間が静かになった。


 エルノが小さく息を呑む気配がした。マリエルも同じだった。


「今後、腐敗魔法は正式に認められた魔法とする。使い手を不当に差別することを禁じる」国王は言った。


「アオイ、ティア、お前たちがここまで道を切り開いてくれた」


 アオイは少し間を置いた。


「ありがとうございます」


「何か言いたいことはあるか」


「一つだけ」アオイは言った。


「王都だけでなく、各地で腐敗魔法を使いながら隠して生活している方たちにも、この知らせが届くといいと思っています」


「そうだな。手を打つ」国王は頷いた。


 ティアが少し頭を下げた。


「ありがとうございます」ティアは言った。


「私の家族にも、届くといいです」


「届くようにしよう。グラウン辺境伯にも正式に伝える。グラウンから腐敗魔法の薬屋が来て、王都を助けてくれたと」


「ありがとうございます」


 謁見が終わって外に出ると、エルノが言った。


「アオイさん、ティアさん、本当にすごいことになりましたね」


「そうですね」


「二百年間続いていたものが変わった。アオイさんがグラウンに来てから始まったことが、ここまで来た」エルノは言った。


「みんなのおかげです」アオイは言った。


「アオイさんがいなければ始まらなかったです。祖母が生きていたら喜んだと思います」マリエルは目を潤ませながら言った。


「そうですね」


 ティアが空を見上げた。


「家族に手紙を書きます。今日のことを。腐敗魔法が認められたと。王命が廃止されたと」ティアは言った。


「書きなさい」マリエルは言った。


「あとゴルドさんとベアさんにも書きます。ライナス様にも」


「喜ばれますよ」エルノは言った。


「アオイさん、グラウンに帰ったらライナス様にちゃんと報告してください」ティアは言った。


「します」


「ライナス様、喜ばれると思いますよ」


「そうですか」


「そうですよ」ティアは嬉しそうに言った。


「さあ、帰りましょう。手紙を書かないといけないので」



 翌朝、グラウンへ向けて出発した。


 ティアが馬車の前に来た。


「気をつけて帰ってください」


「はい」


「途中で何かあったらすぐにクラウスさんに言ってください」


「言います」


「一人で動かないでください」


「動きませんよ…」


「グラウンに着いたら手紙をください。ちゃんと帰り着いたという報告を。私はもう少し王都にいます。落ち着いたらグラウンに帰ります」


「待っています」


「はい」ティアは笑った。


「帰ります。必ず」


 馬車が動き出し、王都が遠ざかっていく。



 七日後、グラウンに帰った。


 ハンスが外に出ていて、手を振った。


「おかえり。今度は無事だったか」


「無事でした」


「よかった。ゴルドのじいさんが待ってるぞ」


 還り家に向かうと、ゴルドが待っていた。


「おかえり」


「ただいま戻りました」


「謁見はどうだった」


「無事に終わりました。腐敗魔法は正式な魔法として認めてくださいました」


 ゴルドはしばらく黙った。


「そうか。腐敗魔法が認められたか」ゴルドは静かに言った。


「そうです」


「そうか」ゴルドはまた黙った。長い間黙っていた。


「よかった。本当によかった」


 ゴルドはお茶を出した。手が少し震えていた気がしたが、アオイは何も言わなかった。


 ベアに伝えると、ベアは長い間黙っていた。


「本当によかった…」


「ベアさんのおかげです。薬を一緒に作ってくれたので」


「お前がいなければ始まらなかった」


「そうですね」


 ベアはしばらく窓の外を見た。


「ティアは元気か」


「元気です。王都で忙しくしています」


「そうか。早く帰ってこいと伝えろ」ベアは言った。


「伝えます」


「それとライナス様に早く報告に行け」


「これから行きます」



 城に行くと、いつものようにセドルが門の前で待っていた。


「ライナス様がお待ちです。今日は落ち着いていらっしゃいます」


「そうですか」


「どうぞ。ご案内します」


 執務室の扉を開けると、ライナスがいつも通り椅子に座って書類を見ていた。


 アオイが入ると、ライナスは顔を上げた。


「おかえり」ライナスは言った。


「ただいま戻りました」


「今回は途中で何もなかったか」


「はい。何もありませんでした」


「それはよかった。謁見はどうだった」


「報告があります」アオイは言った。


「腐敗魔法を正式な魔法として認めてもらえました」


 ライナスは少し間を置いた。


「そうか」


「今後、使い手を不当に差別することを禁じると国王がおっしゃいました」


 ライナスはしばらく黙った。


「そうか。二百年間続いたものが変わったか」ライナスは静かに言った。


「そうです」


「お前がグラウンに来てから変わった。グラウンが変わって、王都が変わった」ライナスは言った。


「みんなのおかげです」


「そうか。グラウン辺境伯として誇りに思う。お前がグラウンの薬屋だということを、王都の人間が知った」ライナスは言った。


「ゆっくり休め。しばらくグラウンにいるか」


「はい」


「またお茶を飲みに来い」


「はい」


「ティアはいつ帰ってくる」


「もう少し先だと思います。王都でやることがまだあるそうで」


「帰ってきたら連れてこい。ティアにも礼を言いたい」ライナスは言った。


「伝えます」


 アオイは執務室を出た。


 廊下でセドルが待っていた。


「よい知らせでしたか」


「そうです」


「ライナス様はどうでしたか」


「誇りに思うとおっしゃいました」


「そうですか。よかったです。本当に」セドルは少し間を置いた。


「ライナス様、ずっと心配されていましたが、今日は少し顔が明るかったです。お帰りになる前から」


「そうですか」


「アオイさんが帰ってくるのがわかっていたからだと思います」



 還り家に戻り、ゆっくり過ごした。


 二百年間、忌み魔法とされてきた腐敗魔法への認識が変わった。


 アオイはきっかけを作ったが、周りの人々にたくさん助けてもらったおかげでできたことだ。


 グラウンの星空を見ながらアオイは喜びをかみしめていた。

 


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