第五十七話「ティアと一緒に王都へ」
薬屋組合との正式契約から三ヶ月。王都に行く時期になっていた。
今回はティアも連れていくことにした。
理由は二つある。一つは製造の実演にティアも立ち会わせたかったから。もう一つは、マリエルに会わせたかったから。ティアがグラウンに来てから三ヶ月、どうなったかを直接見せたかった。
ライナスに報告に行った。
「今回はティアも連れていきます」
「そうか」ライナスは言った。
「ティアの修行はどうだ」
「順調です。薬草液と軟膏は一人で作れるようになりました」
「それは早いな。二ヶ月ちょっとでか」
「飲み込みが早いと思います」
「そうか。王都での製造実演にも参加させるのか」
「はい。ハルト様にも紹介したいと思っています」
「それはいい。将来的に製造できる人間が増えれば、組合も安心するだろう」
ライナスは少し間を置いた。
「今回もクラウスとヴィンを護衛につける」
「ありがとうございます」
「では準備をしておく。帰っていいぞ」
出発前日、ベアのところに挨拶に行った。ティアも一緒だ。
「王都か…」ベアはティアを見た。
「王都は大きくて賑やかだ。グラウンとはだいぶ違う。腐敗魔法への偏見がまだ残っている場所もあるから気をつけろ」
「はい。気をつけます」
「アオイ、一つだけ言っておく」
「なんですか」
「ティアを王都に連れていくのはいいが、無理をさせるな。グラウンでの修行と王都での実演は違う。初めての人間の前でやるのは緊張する」
「わかりました」
「ティア、無理な場合はちゃんとアオイに言え」
「はい」
「一人で抱え込むな。それだけだ」ベアは言った。
翌朝、馬車の前でクラウスとヴィンが待っていた。
「ティアさんも一緒なんですね。よろしくお願いします」とクラウスは言った。
「はい。こちらこそよろしくお願いします」ティアは少し緊張した顔で言った。
「王都は初めてですか」
「ほとんど初めてみたいなものです」
「いいところですよ。大きくて、物が多くて」クラウスは言った。
「ただ迷子になりやすいので、一人で歩かない方がいいです」
「わかりました」
ヴィンは無言でティアに頷いた。
馬車が動き出した。ティアは窓から還り家が遠ざかっていくのを見ていた。
「緊張していますか」とアオイは言った。
「少し...王都でうまくやれるか不安で」
「製造実演は私も一緒にいます」
「はい」
「ハルト様は怖そうに見えますが、誠実な方です」
「そうでなんですか。認めてもらえるように頑張ります」
二日目の昼、道中でティアが言った。
「アオイさん、一つ聞いていいですか」
「どうぞ」
「王都で腐敗魔法を使うのは、グラウンと同じ感じですか」
「同じです。ただ王都では腐敗魔法への偏見がまだ残っているので、街中で使うのは控えた方がいいです」
「組合での製造実演以外では使わない方がいいですか」
「そうです。屋敷の中では大丈夫ですが」
「わかりました」ティアは少し間を置いた。
「グラウンでは普通に使っていいので、また感覚が違いますね」
「そうですね。私も最初に王都に行ったとき、少し戸惑いました」
「アオイさんでも戸惑うんですか」
「戸惑います」
「それを聞いて少し安心しました」ティアは言った。
七日目の昼過ぎ、王都が見えてきた。
ティアは窓から外を見た。
「大きいですね。前に村から来たときより大きく見えます」
「慣れると普通になりますよ」
「そうですか」ティアは窓から目を離さなかった。
「マリエル様に会うのが楽しみです。お礼を言いたくて」
「喜ばれると思います」
馬車が門を通った。クラウスが書状を見せると、すんなり通してもらえた。
ティアは王都の街並みを窓から見ていた。賑やかで、人が多くて、建物が大きい。グラウンとはだいぶ違う。
「みんな忙しそうにしていますね。グラウンの方が落ち着いていますね」ティアは言った。
「そうですね」
「グラウンが好きです」
「そうですか」
「はい」ティアは窓から顔を引いた。
「でも今回は王都に来てよかったです。マリエル様にお礼を言えるので」
マリエルの屋敷に着くと、マリエルが出迎えてくれた。
「アオイさん、よくいらっしゃいました」マリエルは言った。それからティアを見た。
「ティア、元気でしたか」
「はい。マリエル様、またお会いできて嬉しいです。ちゃんとお礼を言いたくて」
「お礼なんて」
「預かっていただいて、アオイさんに繋いでいただいて...」ティアは真剣な顔で言った。
「マリエル様がいなければ、今の私はなかったと思います。ありがとうございました」
マリエルは少し目を細めた。
「元気そうで安心しました」マリエルは言った。
「グラウンはどうですか」
「いいところです。居場所ができました」
「それはよかった。祖母も、そういう場所があればよかったと思っていたので」
「マリエル様のおかげです」
「アオイさんのおかげです」マリエルは笑った。
「さあ、中に入って、旅の疲れを休めてください。明日、組合に行きましょう」




