表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
忌み魔法と呼ばれても気にしない魔法使いの、辺境ぐらし  作者: メイコノノ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/75

第五十二話「ティア弟子入り」前編

 マリエルから手紙が届いたのは、王都訪問から一ヶ月後だった。


 ——アオイさん、一つご相談があります。先日、腐敗魔法が使える少女が私の屋敷を訪ねてきました。十五歳で、王都周辺の村の出身です。行商人から「王都に腐敗魔法に理解のある貴族がいる」と聞いてきたそうです。家族に怖がられて居場所がなくなり、村を出てきたとのことです。とりあえず屋敷で預かっていますが、私には腐敗魔法のことは何もわからず、アオイさんにご相談したくて手紙を書きました。

 追伸  本人はとても真剣な目をしています。アオイさんに会わせてあげたいと思っています。——


 アオイはライナスに手紙を見せた。


「腐敗魔法の使い手の少女か」ライナスは言った。


「そうです」


「マリエル殿が預かっているのか」


「そうです。三ヶ月後に王都に行くときに会おうと思っています」


「それがいいだろう。腐敗魔法の使い手が他にもいたとは…」


「いるにはいるんだと思います。ただ忌み魔法と言われているので、隠して生活している人が多いんじゃないかと思います」


「そうかもしれないな」ライナスは少し考えた。


「弟子にするつもりか」


「会ってみてから判断します」


「まあそうだな。会ってみてから決めればいい」ライナスは言った。



 マリエルへの返事を書いた。


 ——マリエル様、手紙をありがとうございます。三ヶ月後に王都にうかがう予定ですので、そのときに会わせてください。それまで預かっていただけますか。

 追伸  腐敗魔法が使えるとのこと、弟子にすることを検討しています。本人の意思次第ですが。——


 ベアに話すと、ベアは少し間を置いた。


「十五歳で腐敗魔法の使い手か…」


「そうです」


「弟子にするのか」


「会ってみてから決めます」


「まあそうだな」ベアはお茶を飲んだ。


「ただ一つだけ言っておく」


「なんですか」


「その子は家族に怖がられて村を出てきた。居場所がなかったということだ」


 ベアは静かに言った。


「技術を教えるだけでなく、居場所を作ってやることが大事かもしれない」


「居場所ですか…」


「グラウンがその子の居場所になれればいい。技術は後からついてくる」


 アオイはしばらく考えた。


「わかりました」


「まあ会ってみてから考えればいい」ベアはお茶を飲み干した。


「お前ならうまくやるだろう」


「そうですか」


「そうだ。お前は人を居心地よくさせる才能がある。自覚はないだろうが」


「自覚はないです」


「それがいいんだ。自覚があったら押しつけがましくなる」



 二ヶ月後、王都に向けて出発した。


 今回は薬屋組合との正式契約が目的だ。クラウスとヴィンが護衛についた。


 馬車の中でティアのことを考えた。


 十五歳。家族に怖がられて村を出た。マリエルを頼った。腐敗魔法が使える。


 会ってみなければわからないが、弟子にする方向で考えていた。



 七日後、王都に着いた。


 マリエルの屋敷に着くと、マリエルが出迎えてくれた。


「アオイさん、よくいらっしゃいました。ティアのことですが、今日会いますか。それとも組合の件を先に」


「組合の件は明日ですので、今日会えますか」


「もちろんです。呼んできますね」


 応接間で待っていると、マリエルが少女を連れて戻ってきた。


 茶色い髪で、目が少し赤い。緊張した顔でアオイを見た。服はマリエルが用意したのか、きれいにしている。ただ手が少し震えていた。


「ティアです」と少女は言った。


「アオイです」


 ティアはしばらくアオイを見た。


「腐敗魔法の薬屋さんですか」


「そうです」


「腐敗魔法で薬を作っているんですか」


「はい」


「怖くないんですか。腐敗魔法を使うのが…」


「怖くはないです」


 ティアは少し間を置いた。


「私も怖くないんです。でも家族に怖がられて」


「そうですか」


「腐敗魔法は忌み魔法じゃないんですか」


「忌み魔法と言われていますが、そうは思っていません」


 ティアはしばらく黙った。それから言った。


「弟子にしてもらえますか」


「腐敗魔法をどのくらい使えますか」


「小さいものなら分解できます。腐った食べ物とか、枯れた植物とか。大きいものや複雑なものはうまくできなくて」


「魔力はどのくらいありますか」


「わかりません。使いすぎると頭が痛くなります」


「魔力切れの手前ですね。少し試させてもらえますか。どのくらい使えるか確認したいので」


「はい」


 マリエルが台所から新鮮な野菜を持ってきた。


 アオイは野菜を半分に切って、片方をティアの前に置いた。


「この野菜の表面だけを分解してみてください。中まで分解しないように」


 ティアは野菜を見た。


「表面だけ、ですか」


「そうです。全部分解するのは難しくありません。一部だけ、というのが腐敗魔法の制御の練習になります」


 ティアは野菜に手を当てた。少し目を閉じた。


 野菜の表面が分解され始めた。ただすぐに中まで分解が広がっていった。


 ティアが手を離した。野菜がほぼ全部分解されていた。


「全部分解してしまいました…難しいですね」ティアは言った。


「難しいです。ただ腐敗魔法の流れは正しいです。制御が粗いだけで、基礎はあります」


「練習すればできますか」


「できます。時間はかかるかもしれませんが…」


「やります」ティアは即答した。


「弟子にしてもらえますか」


「はい」


 ティアが目を丸くした。


「本当ですか」


「はい。住み込みで修行してもらいます。還り家の二階に部屋があるので、そこを使ってください。それと、一つお願いがあります」


「なんですか?」


「家族に手紙を書いてください。行き先だけでも伝えておいた方がいいです」


 ティアの顔が少し曇った。


「返事が来なかったら」


「それはそのときに考えましょう。まず書くことが大事です」アオイは言った。


 ティアはしばらく黙っていたが、頷いた。


「書きます」


 マリエルが少し安堵した顔をした。


「よかった」マリエルはティアを見た。


「ティア、アオイさんについていきなさい。困ったことがあればいつでも手紙を書きなさい」


「マリエル様、ありがとうございました」


「いいのよ。元気でね…グラウンは遠いけれど、手紙はちゃんと届くから…」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ