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忌み魔法と呼ばれても気にしない魔法使いの、辺境ぐらし  作者: メイコノノ


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第五十一話「薬屋組合との契約」後編

 翌朝、組合の建物に向かった。


 応接間に通されると、ハルトとヴェルンが待っていた。昨日より空気が少し柔らかい気がした。


「返事をします」ハルトは言った。


「組合として腐敗魔法の薬を試験的に取り扱うことにします」


 マリエルが小さく息を吐いた。


「ありがとうございます」とアオイは言った。


「ただし条件があります」ハルトは続けた。


「まず数量は月に軟膏二十本、飲み薬十本から始める。現在王都に送っている量と同じです。組合を通じて販売して、効果と安全性を三ヶ月確認する。問題がなければ数量を増やすことを検討します」


「わかりました」


「次に製造の記録を毎月提出してください。使用した薬草の種類と量、製造日、数量。あなたがつけているノートと同じ形式で構いません」


「記録はつけていますので、提出できます」


「それから」ハルトは少し間を置いた。


「三ヶ月に一度、王都に来て製造していただきたい。組合の薬師が立ち会って、製造過程を確認します」


「王都での製造ですか...」


「組合として責任を持って取り扱うためには、製造過程を定期的に確認する必要があります。ご負担をおかけしますが、これが条件です」


 アオイは少し考えた。三ヶ月に一度の王都訪問。往復で二週間、滞在一週間として三週間近くグラウンを空けることになる。


「グラウンの店を長く空けることになりますが」


「滞在は一週間程度でいいです。往復の日数を含めても三週間ほどでしょうか。難しいですか」ハルトは言った。


「ゴルドさんに頼めば何とかなると思います」


「ゴルドというのは」


「グラウンの醸造師で、私が留守のときに還り家を見てくれています」


「そうですか」ハルトは頷いた。


「では三ヶ月後にまた来ていただけますか。そのときに正式な契約書を用意します」


「わかりました」


 組合を出たとき、マリエルが言った。


「よかったです。ハルト様が動いてくださった」


「試験的な取り扱いですが」


「三ヶ月後に正式な契約になれば、王都での腐敗魔法の薬の普及が本格的に始まります」


「そうですね」


「それと」マリエルは少し間を置いた。


「エルノ様から連絡が来ていて、今日アオイさんに会いたいとのことです。時間はありますか」


「あります」


「では昼過ぎに屋敷に来ていただくよう伝えます」


 昼過ぎ、マリエルの屋敷にエルノが来た。


 応接間に通されると、エルノはアオイを見て目を輝かせた。


「グラウン以来ですね」


「またお会いできて嬉しいです」


「薬屋組合と話し合いはうまくいきましたか」


「試験的な取り扱いをしていただけることになりました」


「本当ですか。ハルトさんが動いたのか。父が後押ししたとはいえ、あの方が首を縦に振るとは」


「ヴェルン様という薬師の方が後押ししてくださいました」


「ヴェルンさんか...あの方が言えばハルトさんも無視できないですね」


エルノは少し前のめりになった。


「それで、治癒魔法師との連携についてなんですが」


「どういう話になっていますか?」


「王都の治癒魔法師組合の若い方に話をしています。腐敗魔法と治癒魔法が補完関係にあるということは伝えてあります。ただ実際にどう連携するかが具体的にならなくて」


「どういう場面を想定していますか」


「魔物の傷から菌が入り込んだ場合、治癒魔法師が傷を塞いでから腐敗魔法の薬を使う。その流れを標準的な処置にしたいんです」エルノは言った。


「ただ治癒魔法師側からすると、腐敗魔法の薬をどのタイミングで使えばいいかわからないと言っていて」


「タイミングは傷を塞いだ直後が一番いいです。菌が深く入り込む前に抑えられるので」


「傷を塞いだ直後か...」エルノはノートに書いた。


「軟膏を傷口に塗って、飲み薬を飲む、という流れですか」


「そうです。傷の深さによりますが、基本的にはその流れで大丈夫です」


「わかりました」エルノは書き続けた。


「あと菌の種類によって薬の効き方が違うと言っていましたが」


「種類によって多少違いますが、コルモ草由来の成分は広い範囲の菌に効きます。魔物の傷から入り込む菌には概ね対応できます」


「概ね、というのはどのくらいですか」


「九割以上は対応できると思います」


 エルノがノートを閉じたとき、ハルトの話に戻った。


「薬屋組合が動いてくれたなら、治癒魔法師組合との話も進めやすくなります。二つの組合が腐敗魔法の薬を認めれば、王都での立場がだいぶ変わります」


「そうなればいいですが...」


「なります。時間はかかるかもしれませんが、方向は決まっています」


 エルノは少し間を置いた。


「グラウンはどうですか。ミドリは元気ですか」


「元気です。先週も薬草を持ってきてくれました」


「相変わらずですね」エルノは笑った。


「騎士団の同期に話したら信じてもらえました。目撃した護衛が証言してくれたので」


「それはよかったです」


エルノは立ち上がった。


「今日は時間を取っていただいてありがとうございました。薬屋組合の件もおめでとうございます」


「ありがとうございます」


「三ヶ月後にまた王都に来るんですよね」エルノは言った。


「そのときにまた話しましょう」


「はい」


 エルノが帰った後、マリエルが言った。


「エルノ様は本当に変わりましたね」


「そうですか」


「腐敗魔法の薬で命が助かる前は、こういう話をする方ではなかったです」マリエルは静かに言った。


「アオイさんの薬が、エルノ様を変えた」


「薬が効いただけです」


「それだけのことが人を変えることもあります。三ヶ月後、また来てください。ハルト様との正式な契約、楽しみにしています」


「はい。また来ます」


 翌朝、グラウンに向けて出発した。


 城門を出るとき、クラウスが言った。


「薬屋組合との話、うまくいったんですか」


「試験的な取り扱いをしていただけることになりました」


「よかったですね。三ヶ月後にまた来るんですよね。また護衛をやらせてください」


「よろしくお願いします」


 ヴィンは無言で頷いた。

 

 三ヶ月に一度、王都に来ることになる。グラウンを長く空けるのは少し落ち着かないが、ゴルドに還り家のことも相談して見てもらおう。


 馬車が動き出し、王都の街が後ろに遠ざかっていった。


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