第四十三話「帰り道」
翌朝、マリエルの屋敷を出た。
ヴィンとクラウスが馬車の前で待っていた。
「お世話になりました」とアオイはマリエルに言った。
「こちらこそ」マリエルは少し笑った。
「侯爵との面会、お疲れさまでした。エルノ様がたいへん喜んでいらっしゃいましたよ」
「それはよかったです」
馬車に荷物を積んだ。
「また王都に来てください」とマリエルは言った。
「ありがとうございます」
「では、お気をつけて」
「はい。またいつか」
馬車が王都の門を出た。
アオイはすぐに荷物から白衣を取り出して羽織った。
二日目の夜、宿でノートを書いた。
侯爵との面会、エルノとの話、マリエルの言葉。書きながら今回の王都行きを振り返った。
ずいぶん変わったものだと思った。
自分が変わったわけではない。薬を作って、渡して、必要な人に届いた。ただそれだけのことだ。
でもそれだけのことが積み重なって、王都が少しずつ変わっていくのかもしれない。
ベアが言っていた。続けることが大事だと。
そうだと思った。
三日目の昼、道の途中で馬車が止まった。
「どうしましたか」とアオイは窓から言った。
「前の道が少し荒れています。少し時間がかかりますが、迂回します」とヴィンが言った。
「わかりました」
迂回路は細い道だった。木が両側に生えていて、日が差しにくい。
三十分ほど揺られて、元の道に戻った。
「お待たせしました。この時期は雨で道が荒れやすくて」とヴィンが言った。
「大変ですね」
「慣れた道なので大丈夫です」
「道が悪くて結構ゆれましたが、酔わなかったですか?」
「大丈夫ですよ」
「そうですか…酔いにくい体質ですか」
「…たぶんそうだと思います」
七日目の昼過ぎ、グラウンが見えてきた。
街の入り口に差し掛かると、ハンスが外に出ていて、アオイに気づいて手を振った。
「おかえり」とハンスは言った。
「ただいま戻りました」
「無事だったか。今回は問題起こさなかったか?」
「大丈夫です。何も問題なかったですよ」
「よかったな。辺境伯様に護衛を出してもらえるとは」
ハンスは少し感心した顔をした。
還り家に戻ると、ゴルドが待っていた。
「無事に戻ってよかった」
「留守の間、お世話になりました。ありがとうございます」
「白衣を着ているな」
「はい。やっぱり来ていると落ち着くので…」
「そうか。侯爵には会えたか」
「会えました。感謝していただきました」
「余計なことは言わなかったか」
「大丈夫です。言ってません」
「何もなくてよかった。お茶を飲め。長旅で疲れただろう」
ゴルドは少し安堵した顔をした。
「ありがとうございます」
「護衛はどうした」
「城に戻りました。世話になりました」
「ライナス様に礼を言っておけ」
「はい。明日言います」
ゴルドがお茶を出してくれた。アオイはお茶を一口飲んだ。いつもの味がした。
翌日、城にライナスへの報告に行った。
ライナスは椅子に座ってアオイを見た。
「無事に帰ったか」
「はい。馬車と護衛の方をご用意していただき、本当にありがとうございました」
「侯爵との面会はどうだった」
「感謝していただきました。腐敗魔法への認識が変わったとおっしゃっていました」
「そうか」ライナスは少し間を置いた。
「エルノ・ヴァンドルはどういう人物だった」
「好奇心が強くて、腐敗魔法への抵抗が全くない感じでした」
「そうか。ヴィンとクラウスの様子はどうだった」
「真面目な方たちでした。道中いろいろ話しかけてくれました」
「腐敗魔法のことを聞いてきたか」
「聞いてきましたが、悪意のある質問ではありませんでした。知らなかっただけという感じで」
「そうか」ライナスは頷いた。
「ご苦労だった。ゆっくり休め」とライナスは言った。
「ありがとうございます」
夜、還り家でアオイは一人でゆっくり過ごした。
明日からまた薬を作る予定だ。
還り家の扉を少し開けると、夜の空気が入ってきた。土の匂いがした。




