第四十一話「初めての正装」
王都行きが決まって数日後、マリエルから手紙が届いた。
——アオイさん、王都での準備を進めています。一つお願いがあるのですが、服はこちらで用意させてください。侯爵にお会いするにあたって、王都の格式に合った服の方がよいと思います。採寸の数字を教えていただければ、こちらで仕立てておきます。
追伸 白衣はお持ちいただいて構いませんが、侯爵の前では着ないでください。——
「服を用意してくれるそうです」とアオイはゴルドに言った。
「誰が用意するんだ?」
「マリエル様です。採寸の数字を送ってほしいと」
「採寸はソニアのところで測ってもらえ。仕立て屋だから正確に測れる」とゴルドは言った。
「そうします」
「他に何と書いてあった」
「白衣は持ってきていいけど侯爵の前では着るなと」
「よくわかっているな」ゴルドはため息をついた。
「本当に着るなよ」
「着ませんよ」
ソニアの仕立て屋を訪ねた。
ソニアはアオイを見て少し驚いた顔をした。
「珍しいですね。何かあるんですか」
「採寸をお願いしたくて。王都の方が服を用意してくれるので、数字を送らないといけなくて」
「採寸だけでいいんですか」
「はい」
「わかりました」
ソニアは巻き尺を取り出した。
「王都に行くんですか?」
「そうです。侯爵にお会いすることになって」
ソニアが固まった。
「侯爵...ですか」
「そうです」
「今まで正装が必要な場面はなかったんですか」
「ライナス様のところには普段着で行っていますし、特には」
「王都の方が用意してくれるなら安心ですね」
ソニアは巻き尺を動かした。
「採寸しながら聞いていいですか」
「どうぞ」
「白衣、いつも着ていますよね」
「作業中の習慣なので。ポケットも多くて便利ですし」
「今回、白衣は持っていくんですか」
「荷物の中に入れるだけで着ません」
「侯爵の前では絶対に着ないでくださいね」
「ゴルドさんにも同じことを言われました」
ソニアは採寸を終えた。
「数字を書き留めておきます」
採寸の数字をマリエルに送った。
出発の一週間前に、マリエルから荷物が届いた。
包みを開けると、何枚かの服が入っていた。
一番上に小さな手紙が入っていた。
——正装は深い青色のシンプルなドレスにしました。アオイさんらしく動きやすいものを選びました。普段着はシンプルなチュニックとズボンを三着入れています。道中は普段着で移動して、王都に着いてからドレスに着替えていただければ。
追伸 普段着は白衣の下に着ても変ではないデザインにしました。——
ドレスを取り出した。深い青色で、装飾は最小限で、袖口と裾に細い刺繍が入っている。
普段着のチュニックとズボンはシンプルで動きやすそうだ。色も落ち着いていて、確かに白衣の下に着ても違和感がない。
とりあえず、全部着てみた。
ドレスはサイズがぴったりだった。動きやすい。普段着も着心地がいい。
マリエルが気を遣ってくれたのがよくわかった。
翌日、ライナスに報告しに行った。
新しい普段着を着て、ドレスを持って行った。
「それは新しい服か」
「マリエル様が普段着とドレスを送ってくれました」
「そうか…王都での準備だが、話を通しておいた。今回は拘束されることはないはずだ」
「ありがとうございます」
「白衣は持っていくなよ」
「荷物の中に入れるだけで着ません」
「荷物にも入れるな」
「落ち着かないので」
「落ち着かない」ライナスは少し呆れた顔をした。
「白衣がないと落ち着かないのか」
「習慣なんです…」
「……まあいい」ライナスはため息をついた。
「ただし侯爵の前では絶対に着るな」
「わかっています」
出発の前日、ベアが還り家に来た。
新しい普段着姿のアオイを見て、ベアは少し目を細めた。
「似合っているな」
「ありがとうございます」
「明日出発か」
「そうです」
「気をつけていけ」
ベアは少し間を置いた。
「一つだけ言っておく」
「なんですか」
「侯爵が感謝している。ちゃんと受け取れ」
「わかっています。ちゃんと感謝の気持ちは受け取りますよ」
「本当か」
「本当です」
ベアはお茶を一口飲んだ。
「その服、本当に似合っている」
「マリエル様が選んでくれたので」
「センスがいいな」ベアは静かに言った。
「白衣も似合っているが、こういう服を着ると普通の若い女性に見える」
「普段は普通ではないですか?」
「普通ではない」ベアは即答した。
「でもそれがいい」
アオイは少し考えた。
「褒めていますか」
「褒めている」
「ありがとうございます」
王都へ行く準備はできた。
道中は普段着で移動する。ドレスは荷物の中だ。白衣も荷物の中にある。
今回はライナスとマリエルが手回しをしてくれているので保安組織に拘束される心配もない。
「きっと大丈夫…」




