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忌み魔法と呼ばれても気にしない魔法使いの、辺境ぐらし  作者: メイコノノ


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第四十話「王都からの手紙」

 マリエルがグラウンを訪ねてから二ヶ月後、手紙が届いた。


 封書を開けると、マリエルの丁寧な字が並んでいる。ただし今回は字が少し乱れていた。いつもより急いで書いたのかもしれない。


 ——アオイさん、急いで手紙を書いています。アオイさんからいただいた薬のことでお伝えしたいことがあります。

 先月、王都で夜会がありました。その席でヴァンドル侯爵のご子息、エルノ様が急に高熱を出して倒れました。騎士訓練中に魔物に切られた古傷があって、そこから菌が入り込んでいると侯爵家の治癒魔法師が言いましたが、治癒魔法では対処できないと言われました。

 私はアオイさんの飲み薬と軟膏のことを思い出して、ヴァンドル侯爵にお伝えしました。腐敗魔法が関わっていると聞いて最初はたいへん戸惑われていましたが、他に手がないということで使っていただきました。

 翌朝、エルノ様の熱が下がり始めて、三日後には回復されました。

 侯爵はたいへん驚いていて、この薬を作った人間に礼を言いたいとおっしゃっています。直接お会いしたいとのことで、アオイさんを王都にお招きしたいとのことです。王都に来ていただけないでしょうか。

 追伸 エルノ様も腐敗魔法への偏見がなくなったとおっしゃっています。若い方なので、これから王都での認識を変えるのに協力してくれるかもしれません。——


 ヴァンドル侯爵。侯爵というのは公爵の次に高い爵位だ。


 「どうした?」


 たまたま還り家に来たゴルドが、アオイの様子を見て聞いた。


「…薬で命が助かったそうです」


「本当か。誰が助かったんだ」


「侯爵家のご子息だそうです。魔物の傷から菌が入り込んで高熱を出したのが、薬で回復したそうで...」


 ゴルドはしばらく黙った。


「……侯爵家か」


「そうです。王都に来てほしいと言われています」


「また王都か…今度は拘束されるなよ」と言ってゴルドはため息をついた。


「マリエル様が準備してくれるそうです」


「それなら少し安心だが…本当に気をつけてくれよ」



 ライナスに手紙を見せに行った。


 ライナスは手紙を読んで、しばらく黙った。


「ヴァンドル侯爵か」


「ご存知ですか?」


「名前は知っている。王都でも影響力が強い方だ」ライナスは手紙を返した。


「その方が腐敗魔法への認識を変えれば、王都全体が変わる可能性がある」


「マリエル様が今度は拘束されないよう準備してくれるそうです」


「マリエル殿だけでなく、私も手を打つ」ライナスは言った。


「腐敗魔法の使い手がグラウン辺境伯の依頼で動いていることを、王都の知り合いに伝えておく」


「ありがとうございます」


「礼はいい」ライナスは少し間を置いた。


「薬、本当によく効いたんだな」


「効いたみたいですね」


「ベアと一緒に作ったものか」


「そうです。ベアさんがいなかったら完成しなかったです」


「よくやった」


「…ありがとうございます」



 ベアに伝えると、ベアは少し間を置いた。


「魔物の傷から菌が入り込んだのか」


「そうです」


「それで薬が効いたか」


「効いたそうです」


 ベアはしばらく黙った。それから静かに言った。


「よかった」


「はい」


「薬草師を長年やってきたが、こういう話を聞くのは嬉しいものだ」ベアはお茶を一口飲んだ。


「遠い場所で、知らない人間の命が助かった。それがお前と私が作った薬でできた」


「ベアさんがいなかったら完成しなかったです」


「お前がいなかったら始まらなかった」


 ベアはしばらく窓の外を見た。


「また王都に行くのか」


「行くことになりそうです」


「侯爵に会うんだな」


「そうなります」


「緊張するか」


「あまり緊張しないタイプなので」


「それはそれで問題だが…」ベアはため息をついた。


「まあお前らしい。ただ一つだけ言っておく」


「なんですか」


「侯爵が息子の命を救われたと感謝している。その気持ちは本物だ。ちゃんと受け取れ」


「受け取ります」


「あと余計な事は言うな。菌の話は侯爵の前では控えめにしろ」


「気をつけます」



 ゴルドにも改めて話すと、ゴルドは少し考えた顔をした。


「侯爵がわざわざアオイを王都に呼ぶか…還り家はどうする」


「また見てもらえますか」


 ゴルドはため息をついた。


「まあいい。いつ行く」


「来月の頭だと思います」


「わかった」ゴルドは少し間を置いた。


「緊張するか」


「あまりしないと思います」


 ゴルドはため息をついた。


「余計なことを言うなよ」


「ベアさんにも同じことを言われました」


「本当に気をつけろということだ」


「わかっています」


「わかっていない気がするが…無事に帰ってこい」ゴルドは仏頂面で言った。


「はい。ありがとうございます」



 その夜、マリエルの手紙を読み返した。


 ライナスとベアとゴルドの反応、来月の王都行きの準備の事を少し考えた。


 ベアと一緒に薬を作って、マリエルに渡して、王都でエルノの命が助かった。


「薬がちゃんと効いてよかった」と呟いた。


 アオイはその場にいなかった。でも薬があった。


 来月、また王都に行く。


 今度はライナスとマリエルが準備してくれているので、拘束される心配は少ない。


 ただし菌の話は控えめにしなければ。


 「本当に気をつけよう…」


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