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忌み魔法と呼ばれても気にしない魔法使いの、辺境ぐらし  作者: メイコノノ


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第二十九話「アオイとシャナの実験」

 翌朝、アオイはシャナを訪ねることにした。

 

 ゴルドの家に着くと、シャナが外に出てきた。よく眠れたらしく、顔色がいい。


「おはようございます」とシャナは言った。


「おはようございます。よく眠れましたか」


「はい。眠れました」


「よかったです。昨日考えたんですけど、ゴルドさんの醸造所で実験させてもらえないかと思って…」


「ゴルドさん、もう醸造所にいると思いますので聞いてみましょう」


 

 二人で醸造所に向かった。


 扉を開けると、ゴルドが樽の様子を確認していた。


「おはようございます」とアオイは言った。


「おはよう」ゴルドは振り返った。


「よく眠れたか?」と言ってゴルドはシャナの方を見た。


「よく眠れました。ありがとうございます」


「ならよかった」


 ゴルドはアオイを見た。


「何か用か」


「シャナさんの光魔法と腐敗魔法を使って、果実酒の発酵実験をさせてもらえないかと思って」


 ゴルドは少し眉を上げた。


「発酵実験か」


「光の波長を調整して発酵を促進できるかもしれないという話をシャナさんとしていて」


「面白そうだな…」


 ゴルドは樽を一つ指した。


「これは仕込んだばかりの分だ。好きに使え」


 ゴルドは少し間を置いた。


「普通は発酵中に何度も開けるものじゃないが、お前の腐敗魔法なら雑菌の混入を防げるだろう」


「気をつけて確認します」


「それより、本当にできるのか。光で発酵を促進するなんて……」



 早速実験を始めた。


「シャナさん、三十秒だけ光を当ててください」


「三十秒ね」シャナは杖を構えた。


 アオイが樽の蓋を開けた。


「今です」


 シャナが杖の先から細い光を出した。昨日の実験で有効だとわかった波長に調整して、表面に当てる。


「三十秒経ちました」とアオイは言った。


 アオイが樽の蓋を閉めて確認する。


「……いいですね。酵母がかなり元気になってます」


「本当か」とゴルドが身を乗り出した。


「酵母の活性が上がってます。このまま発酵を続けると、いつもより質のいい果実酒になるかもしれません」


「質が上がるのか」ゴルドは樽をじっと見た。


「どのくらい上がる」


「わかりません。やってみないと。悪い方向にはならないと思います」


「それは確かか」


「九割方は」


 ゴルドはため息をついた。


「まあいい。続けてみろ」



 実験は午前中いっぱい続いた。


 三十秒ずつ、間隔を置きながら光を当てる。その都度アオイが腐敗魔法で確認して、シャナに波長の調整を頼む。


 ゴルドは二人の作業を腕を組んで見ていた。途中でお茶を淹れてきて、黙って飲んでいた。



 昼過ぎに実験が一段落した。


 三人で醸造所の外に出て、ゴルドが果実酒を少し出してくれた。実験した樽ではなく、以前から熟成していた別の樽のものだ。


「ありがとうございます」とシャナは果実酒を受け取った。


 シャナは一口飲んで驚いた顔をした。


「…美味しい」


「当たり前だ」


「これがグラウンの果実酒ですか。行商人から買ったことがありますが、それより美味しいです」


「行商人に売るものは品質にムラがある。これは特別いい樽のやつだ」


「特別なんですか。どこが違うんですか?」とシャナはもう一口飲んだ。


「酵母がいい。だが同じものがもう手に入らない」とゴルドは言った。


「そうですか…大事にしてるんですね」


「アオイのおかげで増えた。最初は一樽分しかなかったが、今は五樽ある」


「アオイさんが増やしたんですか」


「いい酵母だったので…」


「こいつが来てくれてよかったと思ってる」とゴルドは静かに言った。


 アオイは少し驚いた。ゴルドが面と向かってそういうことを言うのは珍しい。シャナがいるからかもしれない。


「……ありがとうございます」


「礼はいい」ゴルドはそっぽを向いた。


「実験楽しかったです。こんなに魔法を使い込んだのは久しぶりで」とシャナは嬉しそうに言った。


「旅の途中ではあまり使わないんですか」


「暗いところを照らすくらいですね」シャナは杖の先の光を見た。


「こういうふうに実験に使えるとは思ってなかったです」


「また一緒に実験しましょう」


「そうですね!楽しみにしています」


 シャナは立ち上がった。


「今日中に次の街まで移動しないといけないので、そろそろ行きます」


「もう行くんですか」


「旅の途中なので。でもグラウンには必ず戻ってきます」


「アオイさん、ゴルドさん、色々とお世話になりました。ありがとうございました」


「ああ。気を付けて行けよ」とゴルドは言った。


 シャナは笑いながら荷物を背負って、杖を持った。


「アオイさん、実験結果また教えてください。楽しみにしています」


「はい。お気をつけて…」


 シャナの杖の先の光が遠ざかって、角を曲がって見えなくなった。


「面白い奴だな」


「そうですね」


「また来るか」


「来ると思います」


「さて、仕込みの続きをしないといけない」


「手伝いましょうか」


「いい。お前は還り家に戻れ。客が来てるかもしれない」


「そうですね」アオイは立ち上がった。



 還り家に戻りながら、アオイは今日のことを振り返った。


 光魔法との実験結果、有効波長、酵母への影響。シャナが戻ってくるのも楽しみだ。

 


 還り家に戻ると、リコが扉の前で待っていた。


「アオイさん、おばあちゃんの具合がよくなりました」とリコは言った。


「お礼を言いに来ました」


「それはよかったです」


「それと」リコは少し躊躇した。


「腐敗魔法って、教えてもらえますか」


 アオイは少し考えた。


「才能があれば。確認してみますか」


「できるんですか?」


「腐敗魔法で感じ取れるかもしれません」


 リコは目を輝かせた。


「お願いします」


 アオイはリコの手を取って、腐敗魔法で確認した。


 何かある。腐敗魔法ではないが、何か魔法的な気配がある。


「才能はありますね」


「本当に?腐敗魔法の才能?」


「腐敗魔法とは違うかもしれません」


「どんな魔法ですか」


「わからないので、試してみるしかないですね…」


 アオイは扉を開けた。


「入りますか。話を聞きます」


「はい」とリコは元気よく入ってきた。


 還り家がまた少し賑やかになった。


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