第二十五話「還り家に帰る」
グラウンに戻ったのは、出発から五日後だった。
七人は馬車で運んだ。全員が無事に目を覚ました。
カルロスはクルトとフェンが連行した。ライナスへの報告と、今後の処遇の判断のためだ。
グラウンの城門をくぐったとき、アオイは大きく息を吐いた。
還り家に戻ると、ゴルドが中で掃除をしていた。
アオイを見て、仏頂面のまま言った。
「帰ってきたか」
「無事に帰ってこれました」
「怪我はないか」
「大丈夫です」
「そうか。腹は減ってるか」
「はい。おなかペコペコです」
「スープを作ってあるから食え」
アオイは鍋を覗いた。野菜と豆のスープで、いい匂いがする。
スープを飲みながら、ヴェラン家での出来事を話した。
「七人、全員助かったのか」
「助かりました」
「カルロスという男はどうなった」
「ライナス様が判断します。ただ体がかなり弱っていたので、処置はしてきました」
ゴルドはしばらく黙った。
「あんたらしいな。スープをもう一杯飲むか」
「いただきます」
翌日、ライナスから使いが来た。
封書を開けると、内容はいつもより長かった。
——七人の身元が確認できた。全員ヴェラン家の関係者で、行方不明とされていた人物たちだ。現在、城で療養中。回復は順調だ。
カルロスについては王都の魔法省と協議する。禁術を使ったことは事実だが、動機や経緯を考慮する余地がある。しばらく時間がかかる。
七人の中の一人、アーゴという老人が礼をしたいと言っている。都合のいい日を教えてほしい——
三日後、城にアーゴを訪ねた。
最初に目覚めた老人で、白い眉の下の目が鋭い。地下室で見たときより顔色がずっといい。
「来たか」とアーゴは言った。
「礼を言いたかった。長い間、あの水晶の中にいた。長い眠りの中で、ずっと誰かが来てくれるのを待っていた」
「大変でしたね」
「大変だったが、お前が来てくれた。ありがとう。本当に助かった。カルロスのことも、頼む」
「私にできることは体の処置だけです。判断はライナス様がします」
「それで十分だ」と言ってアーゴは頷いた。
「あの男も、長い間一人で抱えてきた。責められるべきことをしたのは確かだが、孤独だったのも確かだ」
「そうですね」
「礼に何か渡したいのだが…今の私には何もない。ずっとあの水晶の中にいたからな」
アーゴは少し困った顔をした。
「言葉だけで十分です。アーゴさんが目覚めてくれてよかったです」
アーゴはしばらくアオイを見た。
「…欲がないな」
「欲はありますよ。珍しい菌とか、面白い発酵素材とか」
「それは欲と言うのか」とアーゴは笑った。
「では一つだけ。私が回復したら、昔集めた薬草の知識を話してやろう。役に立つかもしれない」
「ぜひお願いします。今少し聞いてもいいですか」
「まだ体が本調子ではないのだが…」
「あ、そうですよね。すみません。回復してからにします」
アーゴは苦笑した。
「還り家にも来てください」
「ああ。楽しみにしている」
ライナスが廊下で待っていた。
「アーゴと話せたか」
「話せました。今度薬草の事を教えてくれるそうです」
ライナスは少し間を置いた。
「カルロスの件、時間がかかるが最善の判断をする」
「任せます」
「任せます、か」ライナスは小さく笑った。
「還り家、しばらく休んでいいぞ。今回は無理をさせた」
「休むほど疲れてないです。明日から普通に開けます」
「そうか」
ライナスは少し間を置いた。
「……無理をするな」
「しません」
「何をするにもほどほどにしろ」
「…ほどほどの基準が人によって違うかもしれませんが」
ライナスがため息をついた。でも怒った様子はなかった。
「帰っていい」
「はい。ありがとうございました」
アオイは城を出た。空が青くて、風が気持ちよかった。
還り家に戻ると、ゴルドが来ていた。あとマルタとハンスとベアもいた。
「なんで…」とアオイは言った。
「様子を見に来た」とハンスが言った。
「ハーブチーズができたの、一番最初に食べてもらおうと思って…」とマルタがチーズを持ってきた。
「いいんですか」
「アオイがいなければできなかったチーズだからね」
ハーブチーズを一口食べた。
ローズマリーの香りが鼻に抜けて、チーズの旨味が後から来る。熟成が完璧だ。
「美味しい」
「でしょう」
マルタは少し得意そうな顔をした。
「次はタイムで作ってみるわ。あとアオイが言ってた黒胡椒も試したの」
「どうでしたか」
「黒胡椒は大成功よ」
「それはよかった」
ハンスが焼きたてのパンを出して、ゴルドが果実酒を開けて、ベアがお茶を淹れた。
小さな還り家が、急に賑やかになった。
夜、皆が帰って還り家が静かになった。
明日から還り家を開ける。薬草液の仕込みもしないといけない。ガルの畑の土壌改良もそろそろやる時期だ。アーゴの体の経過も確認したい。
やることはたくさんある。
でも急がなくていい。明日もここで、腐敗魔法を使いながら、のんびりやっていこうとアオイは思った。




