第二十四話「カルロスの話」
クルトがカルロスを地下室の隅に連れて行って、話を聞き始めた。
アオイは七人の体の回復を続けながら、その会話を聞いていた。
「七人を封じたのはいつだ」
「最初に封じたのは二十三年前だ」
「誰を封じた」
「私の家族と、友人たちだ」
クルトが少し間を置いた。
「家族を、自分で封じたのか」
「そうだ」と言ってカルロスは膝の上でこぶしを握り締めた。
「二十三年前、王都で政争があった。ヴェラン家は敵対する派閥に狙われた。家族を皆殺しにすると言われた」
「それで縮封術を使ったのか」
「縮封術が禁術なのは知っている。だが他に方法がなかった」
カルロスは低い声で言った。
「水晶の中に封じ込めれば、敵対派閥から守れる。殺される心配がなくなると思った」
「実際に狙われなくなったのか」
「ああ。ヴェラン家は没落して、当主の私だけが追いやられた。敵対派閥は満足して、それ以上手を出してこなかった」
カルロスは水晶の並んでいた台座を見た。
「二十年以上、封印を維持し続けた。縮封術は術者が魔力を供給し続けないと解けてしまうから」
「二十年間ずっと維持してたのか」
「そうだ」
「一人で?」
「一人で」
誰も何も言わなかった。
アオイは七人目の体に手を当てながら、カルロスの話を聞いていた。
レノの記憶を消したのも、屋敷の秘密が外に漏れることを恐れたからだろう。家族を守るために。
正しいかどうかは別として、理由はわかった。
「解放するつもりはなかったのか」とクルトが聞いた。
「政争が完全に終わったと確信できたら解放するつもりだった。でも確信が持てなくて」
カルロスは目を閉じた。
「その間に体が弱って、魔力も減って、解放しようにもできなくなっていた」
「解放できなくなっていたのか」
「縮封術の解放には、封印したときと同等の魔力が必要だ。私にはもうそれがない」
カルロスはアオイを見た。
「だからお前の魔法で解放できたとき、止める気が失せた。私一人では解放できなかった。このまま私が死ねば、七人も死ぬところだった」
七人の回復処置が終わったのは、夜が明け始めた頃だった。
アオイは立ち上がって背筋を伸ばした。長時間同じ姿勢で腐敗魔法を使っていたので、体が少し凝っている。
「終わりました」
「お疲れ様でした。七人、全員大丈夫ですか」とレノが言った。
「大丈夫です。数日以内に目が覚めると思います」
クルトがアオイに近づいた。
「カルロスをどうするかは、ライナス様の判断に任せる。俺たちはまず七人を安全な場所に移して、グラウンに報告する」
「わかりました。七人、運べますか」
「馬車を手配する」とフェンが言った。
「カルロスの使用人たちは?」
「上の階で怯えてます」とアオイは腐敗魔法で確認して言った。
「騒ぐ様子はないです」
「怯えてるのがわかるのか」とフェンが言った。
「動き方が縮こまってる感じがします」
「腐敗魔法で人の感情までわかるのか」
「感情というより気配です。菌の動きが人の状態に影響されるので」
「なんかすごいのかすごくないのかわからない能力だな」
「…自分ではすごいと思ってますけど」
七人を屋敷の一階に移した。
その途中で、一番最初に解放した老人が目を開けた。
老人はしばらく天井を見ていた。それからゆっくりと口を開いた。
「……ここは」
「ヴェラン家の屋敷です」とアオイは言った。
「水晶の中に縮封術で封印されていました」
「カルロスは」
「いますよ」
老人の白い眉の下の目が、じっとアオイを見ている。
「お前が解放してくれたのか」
「はい」
「魔法使いなのか…?」
「はい。還り家という店で肥料と薬を作って売っています」
老人はしばらくアオイを見た。
「肥料と薬…」
「はい」
「縮封術の封印を解いた者が、肥料を売っているのか」
「腐敗魔法を使っているので、方向性が近くて」
老人はしばらく黙った。それから小さく笑った。
「そうか。ありがとう」
「どういたしまして」
カルロスは屋敷の椅子に座って、七人が目覚めるのを待っていた。
クルトが見張っているが、カルロスは逃げる様子もない。ただ静かに待っている。
アオイはカルロスに近づいた。
「体の状態を確認してもいいですか」
「何のために」
「腐敗魔法を二十年以上使い続けた影響が体に出ているかもしれないので」
カルロスは少し驚いた顔をした。
「お前は私を助けようとしているのか。禁術を使った人間を」
「私は体の状態を確認するだけです」
「勝手にしてくれ」
カルロスは諦めたように言った。
「わかりました」
カルロスの手首に触れて、腐敗魔法で確認する。
思った通り、体の中がかなり消耗している。魔力を使い果たした影響が内臓にまで出ていた。
「長期間、無理をしてきたのがわかります。体のあちこちが疲弊しています」
「今更だ」
「今更でも、処置はできます。完全には戻りませんが、楽にはなります」
「なぜ私を助ける」
アオイは少し考えた。
「困っている人がいたら助けるのが普通だと思うので」
「私は禁術を使った」
「それはそうですが、体が消耗しているのは別の話なので」
アオイは処置を始めた。完全には戻せないが、少しずつ楽にできる。
カルロスが小声で言った。
「封印した七人には、謝らなければならないな」
「そうですね」
「許してもらえると思うか」
「わかりません」とアオイは言った。
「ただ最初に目覚めた老人の方、カルロスさんのことを聞いていましたよ」
「ヴェランか。古い友人だ」
「心配していると思います」
窓から夜明けの光が差し込んできた。




