第二十二話「ヴェラン家へ」
城での打ち合わせにはアオイ、レノ、クルト、フェンの四人が集まった。
ライナスとセドルが向かいに座っている。テーブルの上に地図が広げられていた。
「ヴェラン家の屋敷はここだ」とライナスが地図の一点を指した。
「グラウンから馬で二日」
「現当主はどんな人ですか」とアオイは聞いた。
「ヴェラン・カルロス、六十代。二十年前の没落以降、屋敷に籠もりきりだという話だ。外部との交流はほぼない」
「今回は調査が目的だ。証拠を集めて、王都に報告する。戦闘は極力避けてほしい」
「極力、というのがちょっと怖いですね」とフェンが言った。
「避けられない場合もある、ということだ」
「ですよね」
セドルが口を開いた。
「アオイさんには縮封術の解除をお願いしたい。水晶を見つけた場合、その場で解除できますか」
「やってみます。でもどれくらい時間がかかるかもしれません」
出発は翌々日の夜明けだった。
馬が三頭。クルトとフェンが一頭ずつ、アオイとレノが相乗りで一頭だ。ライナスは城で待機して、報告を受ける役割だという。
「ライナス様は来ないんですか」とアオイは出発前に聞いた。
「領主が領地を空けるわけにはいかない。それより…」
「なんですか」
「無茶をするなよ」
「わかっています。しませんよ」
「菌の採取も依頼中は後回しにしろ。絶対にだぞ」
「今回はそれどころじゃないので大丈夫です」
ライナスは少し呆れた顔をしたが、何も言わなかった。
四人は夜明けの空の下、グラウンを出発した。
二日間の道のりは比較的穏やかだった。
一日目は草原を抜けて、森の手前で野営した。焚き火を囲んで四人で夕食を食べた。
「アオイさん、野営は慣れてますか」とレノが聞いた。
「フィールドワークで何度かやったことがあります」
「フィールドワーク?」
「あ、えっと、外での調査作業のことです。前の仕事で」
「前の仕事って何をしてたんですか」
アオイは少し考えた。
「研究者みたいなものです」
「何の研究ですか」
「発酵と腐敗の」
「ああ、だから腐敗魔法が得意なんですね」とレノは納得した顔をした。
「才能と知識と合わさってるんだ」
「そうです。知識がなかったら腐敗魔法もここまで使えなかったと思います」
「なるほど」フェンが焚き火を突きながら言った。
「だから精度が高いのか」
「精度が高いかどうかはわかりませんが、何をしているかはわかってやってます」
「それが大事だ」とクルトが言った。
「わからないまま魔法を使う奴は危ない」
二日目の夕方、ヴェラン家の屋敷が見えてきた。
森の中に建つ石造りの屋敷で、三階建てだ。窓が少なく、蔦が壁を覆っている。煙突から細い煙が出ているので、人はいるらしい。
「暗い雰囲気ですね」とアオイは言った。
「暗いな」とフェンが言った。
「アオイさん、腐敗魔法で何か感じるか」
アオイは屋敷に向けて腐敗魔法を使った。距離があるので細かくはわからないが、何かは感じ取れる。
「菌がほとんどいないです。建物の中が無菌に近い」
「遺跡と同じか」とクルトが言った。
「似てますが、少し違います。遺跡は大雑把に菌を消してましたが、こっちは……意図的に特定の菌だけ消してある感じがします。精度が高い」
「使い手の腕がいいということか」
「たぶん。あともう一つ」
アオイは少し眉を寄せた。
「何かが封じ込められている感触があります。一つじゃなくて、複数」
四人が黙った。
「複数、というのは…」とレノが言った。
「水晶が一つじゃないかもしれません」
また沈黙が落ちた。
「……レノ、屋敷に入ったとき水晶は一つだったか」とクルトが聞いた。
「俺が見たのは一つです。でも地下室全体は見ていないので」
「なるほど」クルトは屋敷を見た。
「慎重に動く。いいか」
全員が頷いた。
屋敷への侵入は夜を待つことにした。
森の中で待機しながら、フェンが小声で言った。
「アオイさん、怖くないのか」
「今は封じ込められている感触が気になって、怖いかどうか考える余裕がないです」
「それはそれで心配だが」
「怖くなったらちゃんと怖いと言います」
「そうしてくれ…」
「怖いことと、やるべきことは別なので」
フェンはしばらくアオイを見た。
「……かっこいいのか天然なのか判断がつかない」
「天然だと思います」とアオイは言った。
「…自分で言うなよ」
レノが小声で笑った。
夜が深くなるにつれて、屋敷の明かりが一つ、また一つと消えていった。
クルトが立ち上がった。
「行くぞ」




