第二十一話「レノの記憶」
お茶を飲んで少し落ち着いたレノが、もう一度椅子に座った。
「続けてください」
「無理しなくていいですよ」
「無理じゃないです。知りたいので」
アオイは頷いて、再び手首に触れた。
封印の残りはさっきより薄くなっている。慎重に、外側から少しずつ崩していく。
三分ほどで、レノがまた口を開いた。
「水晶の中に人の形が見えました。小さく縮められて封じ込められていて、動いていなくて」
レノは少し震えた。
「生きているのか死んでいるのかわからなくて、怖くて。でも放っておけなくて、水晶を持ち出そうとしたんです。そのとき屋敷の人間に見つかって、魔法をかけられたんです。気づいたら外にいました」
「水晶は持ち出せなかったんですね」
「…はい」
レノは悔しそうな顔をした。
アオイは腐敗魔法を止めた。封印はほぼ解けていた。
「封印は解けました。体はつらくないですか」
「大丈夫です。ありがとうございます」
レノは深く息を吐いた。
「すっきりした。頭が軽い」
「よかったです」
アオイはすぐにライナスに報告しに行った。
城に着くと、ライナスは別の来客の対応中だったが、セドルが話を聞いてくれた。
全部話すと、セドルはメモを取りながら言った。
「水晶の中に人が封じ込められているとすると、縮封術の可能性があります」
「縮封術というのは」
「体ごと縮めて物体の中に封じ込める禁術です。ヴェラン家の没落が二十年前。それ以前からそういった研究をしていた可能性があります」
「水晶の中の人は、助けられますか」
「非常に難しいと思います。ただ…」
セドルはアオイを見た。
「腐敗魔法で封印魔法を解除できるなら、縮封術の解除にも使えるかもしれません」
「…またやったことのないことをやるんですね」
「そうなります」
「わかりました。ライナス様に伝えてください。動くかどうかはお任せします」
還り家に戻ると、レノが待っていた。
「報告してきました」とアオイは言った。
「どうなりますか」
「ライナス様が判断します。私は必要なら現地での調査をするだけです」
「現地って、ヴェラン家の屋敷に行くということですか」
「もしライナス様がそう判断すれば」
レノは少し黙った。
「怖くないんですか」
「怖いかどうかはまだわかりません。行ってみないと」
「普通は怖いと思うんですが」
「禁術の研究がどんなものか興味があるので」とアオイは言った。
「興味が怖さに勝つんですか」
「今のところ」
レノはしばらくアオイを見た。
「……アオイさんと一緒に行けば、なんとかなる気がしてきた」
「なんとかなるかどうかはわかりませんが」
「…そこは頷いてくれていいんですよ」
「嘘は言えません」
レノは苦笑した。
「クルトさんとフェンさんも一緒なら大丈夫ですかね」
「大丈夫だと思います。あの二人は頼りになるので」
三日後、ライナスから使いが来た。
封書を開けると、内容は短かった。
——ヴェラン家への調査を頼みたい。クルトとフェンに調査へ同行してもらい、レノにも来てもらう。詳細は明後日、城で話す——
「ヴェラン家へ調査に行くことになりました」とアオイはゴルドに夕方に伝えた。
「そうか」
ゴルドはお茶を飲んで、しばらく黙った。
「……留守の間、還り家は俺が見ておく」
「ありがとうございます」
「礼はいい」
「無事に帰ってこい」
「……はい」
ゴルドはため息をついて、お茶をもう一口飲んだ。それ以上は何も言わなかった




