第十六話「二回目の遺跡調査」
追加依頼の調査は、三日後に出発することになった。
前日の夜、アオイは準備をしながらノートに持ち物を書き出した。
採取用の瓶、ベアの解毒薬、携帯食、あと記録調査をまとめたノート
「結構多いな」と呟いた。
でも足りないよりはいい。
翌朝、広場でクルトとフェンが待っていた。
「おはようございます」
「今回は依頼最優先だからな」とクルトが言った。
「菌の採取は終わってから」とフェンが釘を刺した。
「今回は遺跡の周辺を広く調査する。前回の建物の東側に別の棟があるらしい」
「地図で見ましたね」
「魔法陣があるかもしれないし、ないかもしれない。状況次第で判断する」
「わかりました」
「よし」
今回もフェンと一緒の馬に乗せてもらい、遺跡へ向かった。
遺跡に着くと、前回と様子が少し違った。
建物の周囲の地面に、うっすらと緑が戻っていた。苔や草が芽吹き始めている。
「菌が戻ってきてます」
アオイは地面に手を当てながら言った。
「まだ少ないですが、確実に増えてる」
「短期間でここまで戻るのか」とクルトが言った。
「土壌菌は条件が整えば早いです」
「農家たちが喜ぶな」
三人は前回の建物を通り過ぎて、東側へ向かった。木々の間に石造りの建物が見えてくる。前回の棟より小さいが、壁の状態は比較的いい。
「こっちの方が保存状態がいいですね」とアオイは言った。
「嫌な予感がする」とフェンが言った。
「なんでですか」
「保存状態がいいということは、中の魔法陣も生きてる可能性が高い」
「…確かに」アオイは納得した。
「魔物もいるかもしれない。気を抜くな」とクルトが言った。
建物の中に入ると、薄暗いのは前回と同じだが、壁に魔法陣が複数あって、全部うっすら光っている。
「多い」とアオイは呟いた。
「いくつある」
「見えている四つと、あと腐敗魔法で感じると……全部で六つです」
「六つか」
アオイは一つ一つの魔法陣に手を当てて確認した。菌を消す感覚は前回と同じだ。ただ強さが違う。前回より弱い魔法陣と、前回より強い魔法陣が混在している。
「これ、多分設計した人が違いますね」とアオイは言った。
「どうしてわかる」とクルトが聞いた。
「魔法陣から出てくる感覚が、それぞれ微妙に違います。同じ目的でも、人によって魔法の癖みたいなものが違うんじゃないかと思って」
「魔法師の癖か」
クルトは少し興味深そうな顔をした。
「腐敗魔法で感じ取れるだけで、魔法の専門知識はないですが…」
その瞬間、奥からガーディアンが現れた。
「来た」
フェンが剣を抜いた。
今回は四体だった。大きいものが一体混じっている。
「アオイさん、あっちの隅に」とクルトが言った。
「わかりました」
アオイは隅に移動した。
「あ、でもあの大きい魔物、前回と鱗の色が違います。腐敗魔法で感じると成分も——」
「後にしてくれ!」とフェンが叫んだ。
「…すみません」
今回の戦闘は前回より少し長かった。大きいガーディアンが手強いらしく、クルトとフェンが連携して対応していた。アオイは隅で見ていた。途中で採取用の瓶を取り出しかけて、やめた。
十分ほどで四体とも倒れた。
「お疲れ様でした」とアオイは言った。
「怪我はないか」とフェンが肩を押さえながら言った。
「大丈夫です。フェンさんは...」
「少し切れた。大したことはない」
「見せてください」
「いい、自分で——」
「見せてください」
フェンはアオイの顔を見て、諦めて肩を見せた。上着が切れていて、その下に浅い傷がある。
アオイは傷に手を当てた。腐敗魔法で傷口を確認する。浅い傷だが、ガーディアンの鱗で切れた傷なので、念のため確認した方がいい。
「傷口から少し菌が入ってるので、消しておきます」
「助かる」
クルトが横で見ていた。
「アオイさん、それも腐敗魔法でできるのか」
「傷の治療ですか。できます」
「冒険者にとっては重要な能力だな」
クルトは少し考えるような顔をした。
「ギルドに紹介してもいいか」
「ギルドに?」
「冒険者向けに傷の治療をしてもらえると、助かる人間が多い。もちろん報酬は払う」
「還り家に来てもらえるなら」
「グラウンに来る冒険者は多くないが、いないわけじゃない」
クルトは頷いた。
「話を通しておく」
「ありがとうございます」
アオイは少し考えた。
「……大きい魔物の鱗、採取してもいいですか」
「……依頼中だぞ。後にしろって」とフェンが言った。
「すぐに済みます」
フェンとクルトはため息をついた。
「...少しだけだぞ」
「ありがとうございます」
魔法陣の処置は一時間かかった。
六つあるうち、四つは前回と同じ要領で止められた。残り二つが少し手強かった。核の構造が複雑で、下手に崩すと連鎖する可能性があった。
「少し時間がかかりそうです。」
「どのくらいだ」とクルトが聞いた。
「三十分くらいかかりそうです。今回も建物が揺れるかもしれません」
「わかった。気を付けて処理してくれ」
結果的に、アオイの予想通り三十分ほどで魔法陣は止まった。光りはしなかったが、建物が少しだけ揺れた。
「終わりました」とアオイは振り返った。
「今回は派手に揺れなかったな」とクルトが言った。
帰り道、珍しい菌と、見慣れない苔を採取した。
「前より増えたな」とフェンが言った。
「色々とお気遣いありがとうございます」
「配慮じゃなくて呆れてるんだよ」
「それでもありがたいです」
クルトが前を向いたまま言った。
「今回も助かった。次の依頼があったらまた声をかける」
「ぜひ。菌の採取ができる場所だと特にいいです」
「そこか」とフェンが言った。
「もちろん、依頼も真剣にやりますよ」
「わかってるよ」
夕暮れの中、三人はグラウンへ向かって馬を走らせた。




