第十五話「城へ行く」
アオイは薬の入った籠を抱えて城へ向かった。
籠の中身は胃腸薬が三本、頭痛薬が二本、傷薬が四本、軟膏が二個。ベアに確認したら「多すぎる」と言われたが、アオイは持っていくことにした。
城門の前に着くと、衛兵が二人立っていた。
「還り家のアオイです。辺境伯様にお呼びいただいて」
「聞いています。通ってください」
あっさり通れた。
城の中は思っていたより簡素だった。他の城がどんなものか見たことはないが、廊下に余計な装飾がなく、使い勝手を重視した造りをしている。働いている人間も少ない。辺境の城らしいとアオイは思った。
案内された部屋は小さめの応接室で、ライナスがすでに待っていた。
「来たか」とライナスは言った。
「お招きいただきありがとうございます。薬を持ってきました」
アオイは籠を机の上に置いた。
「随分多いな」
「何が必要かわからなくて、一通り持ってきました」
ライナスは籠の中を確認した。一つ一つ手に取って、中身を確認している。
「これは全部あんたが作ったのか」
「そうです。腐敗魔法で成分を調整してます」
「腐敗魔法で薬を」ライナスは少し考えるような顔をした。
「街の評判は聞いているが、実際に見ると不思議だな」
「不思議ですか…」
「忌み魔法と呼ばれているものが、こういう形で役立つとは思っていなかった」
「腐敗と発酵は紙一重なんですよ」
ライナスは少し口元を動かした。笑ったのかもしれない。一瞬すぎてよくわからなかった。
「遺跡の件だが」とライナスは言った。
「はい」
「よくやった」
「クルトさんとフェンさんのおかげです。私は魔法陣を止めただけで」
「その魔法陣を止められたのはあんただけだ」
ライナスは机の上に地図を広げた。
「実は一つ聞きたいことがある」
地図にはグラウン周辺の地形が描かれていた。街から東に遺跡、北に山脈、南に川、西に農地が広がっている。
「遺跡の周辺、他にも同じような魔法陣がある可能性はあると思うか?」
アオイは地図を眺めた。
「それは…わかりません。ただ、研究施設なら、複数の建物があるかもしれません」
「そうなると他の場所でも作物への影響が出るかもしれない」
「今回の魔法陣が止まったので、菌が戻ってくれば周辺への影響は広がらないと思います」
「確認にいってもらえないか…」
「私一人では——」
「クルトとフェンにまた頼む。費用は城が持つ」
ライナスはアオイを見た。
「あんたに追加の依頼をしたい。遺跡周辺の調査を続けてもらえるか」
アオイは少し考えた。
「調査の途中で菌の採取をしてもいいですか…」
ライナスが少し間を置いた。
「……邪魔にならない範囲だったらいいだろう。どうやら前回も採取したらしいな」
「……少し」
「だが、依頼を優先してくれ」
「はい。で、報酬は」
「金貨二枚だ」
「受けます!!」
「即答だな」
「金貨二枚は大きいので」
ライナスはため息をついた。
帰り際、廊下を歩きながら、ふと窓の外を見た。
城壁に苔が生えている。
「どうした?」
振り返るとライナスが立っていた。
「城壁に生えている苔が気になったので、見ていました」
「苔がそんなに珍しいのか」
「もう少し近くで確認しないとわかりませんが、珍しい種類のような気がします。薬に使えるかもしれません」
「薬に」ライナスは城壁の苔を眺めた。
「採取していいぞ」
「本当ですか」
「城壁の苔なら惜しくない」
「ありがとうございます」
「ただし城の業務の邪魔をしない範囲にしてくれ」
「わかりました」
「本当にわかっているか不安だが」
「わかっています。苔の採取で業務は邪魔しません」
ライナスはアオイをしばらく見た。何か言いたそうだったが、結局言わなかった。
「帰っていいぞ」
アオイは軽く頭を下げて廊下を歩き始めた。
還り家に戻ると、ゴルドが来ていた。
「城はどうだった」
「薬を納めて、追加の依頼を受けました」
「何の依頼だ」
「また遺跡の調査です。金貨二枚もらえるので」
「無茶はするなよ」
「しません。あと城壁の苔を採取する許可も取りました」
ゴルドは少し間を置いた。
「……城に行って、薬を納めて、依頼を受けて、苔の採取許可まで取ったのか……」
ゴルドはお茶を一口飲んで、遠い目をした。




