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忌み魔法と呼ばれても気にしない魔法使いの、辺境ぐらし  作者: メイコノノ


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第十三話「魔法陣の解除」

 遺跡は思っていたより大きかった。


 馬で半日走ると、木々の間に石造りの建物が見えてきた。蔦に覆われていて、壁の一部が崩れている。入口らしき場所には錆びた鉄扉があって、片方が外れて斜めに傾いていた。


「廃墟だ」とアオイは言った。


「当たり前だ、百年前の遺跡だからな」とフェンが言った。


「思ったより大きい。これは調査しがいがある」


 アオイは目を輝かせた。


「依頼の目的を忘れるなよ」とクルトが釘を刺した。


「わかってます。作物が枯れる原因の調査ですね」


「そうだ」


「でも菌の採取も並行して……」


「まず依頼だ」


「…はい」


 三人は馬を木に繋いで、遺跡に近づいた。


 近くまで来ると、アオイはすぐに気づいた。


 腐敗魔法で地面を感じ取ると、土の中の菌の気配が明らかにおかしい。種類が極端に少ない。まるで何かが菌を駆逐しているような状態だ。


「わかりました」とアオイは言った。


「早いな。まだ何もしてないだろ」とフェンが言った。


「土を感じ取っただけです。この周辺の土、菌がほとんどいない」


「それが原因なのか」


「植物は土壌菌と共生してるので、菌がいなくなると根から弱ります。それが枯れる原因だと思います。でも……」


「でも?」とクルトが聞いた。


「自然にここまで菌がいなくなることはないです。何かが菌を消している。遺跡の中に原因がありそうです」


「入るか」とクルトが言った。


「入りましょう」



 遺跡の中は薄暗かった。


 崩れた天井から光が差し込んでいて、床には瓦礫が散らばっている。壁には古い文様が刻まれていて、一部がまだ薄く光っていた。


「この魔法陣、まだ生きてる」とクルトが言った。


「百年前のが?」とフェンが言った。


「しぶといな」


「この魔法陣というのは何ですか」とアオイが聞いた。


「魔力を込めた文様で、特定の効果を発動し続けるものだ」とクルトが説明した。


「魔法陣は術者がいなくなっても魔力が残っている限り動き続ける。ただし普通は徐々に弱くなっていく。これだけ長く動いているということは、逆に魔力が溜まってきている可能性がある」


「なぜ溜まるんですか」とアオイは聞いた。


「設計の問題だ」とクルトは言った。


「余分な魔力を排出する仕組みがない魔法陣がある。百年前の魔法師が作ったものだとすれば、設計が雑だったのかもしれない」


「魔力が溜まると影響範囲が広がるんですか」とアオイは聞いた。


「そうだ。百年前は遺跡の中だけに影響していたものが、最近になって外まで広がってきたとすれば、作物への被害が出始めた理由の説明がつく」


「なるほど」アオイは魔法陣に手を当てた。


「腐敗魔法で確認してみます」


 アオイは床に手を当てて、腐敗魔法で探る。


「この建物の中、菌が全然いない。ゼロです」


「ゼロ?」


「石の中にも、空気中にも。完全に無菌状態です」


 アオイは光る魔法陣を見た。


「腐敗魔法で感じると、この魔法陣から何かが出ていて、菌に触れると消えていく感じがします」


「菌を消す魔法陣か」とクルトが言った。


「浄化系の魔法陣だな。有害なものを除去する効果がある」


「有害も無害も全部消してるんですね」


「そういう大雑把な設定もある。精度が低い魔法陣だと区別できない」クルトは魔法陣を眺めた。


「これを止めれば土壌菌が戻って作物も回復するはずです」


「止められるか」


「やってみます。腐敗魔法でこの魔法陣の効果を感じ取れるので、逆方向から崩せると思います」


「逆方向から…それで止まるのか」とフェンが言った。


「たぶん」


「たぶん、か」フェンはクルトを見た。


 クルトは無言だった。


 アオイが魔法陣に手を当てようとした瞬間、奥から何かが現れた。


「!!!」


 クルトとフェンが剣を抜いた。


 奥から現れたのは犬くらいの大きさの魔物で全身が灰色の鱗で覆われていた。


「ガーディアンだ」とクルトが言った。


「古い遺跡や洞窟に住み着く魔物だ。鱗で切られると傷が炎症するから、気をつけろ」


「三体いるな。アオイさんは下がってろ」


「わかりました」


 アオイは後ろに下がった。


 クルトとフェンが魔物に向かった。二人の動きは速くて、アオイには何が起きているかよくわからなかった。剣が光って、魔物が鳴いて、気づいたら三体とも倒れていた。


「…すごい」


「当たり前だ、これでも冒険者だ。怪我はないか」とフェンが息を整えながら言った。


「私はないです。お二人は大丈夫ですか」


「ああ、大丈夫だ」


「よかった。それであの…魔物の鱗なんですが…」


「どうした?」とフェンが言う。


「採取してもいいですか」


 フェンはため息をつき、クルトは呆れた顔をした。


「……少しだけだぞ」


 アオイは倒れた魔物に近づいて鱗を一枚採取した。


「この魔物の鱗、腐敗魔法で感じると特殊な菌が付着しています。傷口から入り込むと炎症を起こすやつですね。採取して、還り家で研究します」


「呑気だな...」とクルトが言った。


「危なかったんだぞ」とフェンが言った。


「フェンさんとクルトさんが守ってくれたので大丈夫でした」


「それはそうだが…」フェンは何か言いたそうだったがやめた。


 魔法陣の前に戻って、アオイは改めて手を当てた。


 腐敗魔法で魔法陣の構造を探る。菌を消す命令が延々とループしているのが感じ取れる。腐敗魔法で菌の気配を辿るのと逆方向に力を流せば、干渉できるはずだ。


「止め方はわかるか」とクルトが言った。


「たぶん。核になってる部分を崩せばいいと思います。ただ百年分の魔力が溜まってるので、一気に解放しないほうがいいかもしれませんね」


「爆発とかしないか」とフェンが聞いた。


「多分爆発はないと思います」


「思います、か」


「八割方ないと思います」


「二割あるのか…クルト、俺たちに遺言はあるか」とフェンが言った。


「フェン、笑えない冗談はやめろ」


「アオイさん、とりかかってくれ」


「わかりました」


 クルトとフェンが距離を取り見守った。アオイは魔法陣の核に腐敗魔法を集中させ、百年分の魔力の固まりに触れる。少しずつ、丁寧に、逆方向から力を流していく。


 十分ほど流し続けると、核が崩れた。


 魔法陣が白く光り、建物全体が一瞬震えた。それから静かになった。


「終わりました」


「爆発しなくて良かったな」とフェンが言った。


「これで時間が経てば土壌菌が戻ってきます。徐々に作物も回復するはずです」


「確かか」とクルトが言った。


「確かです。これは自信があります」


「そうか…じゃあ、依頼はこれで終わりだな」




 帰り道、馬に揺られながらフェンが言った。


「アオイさん、冒険者には向いてないな」


「そうですね」


「でも調査系の依頼ならできるかもしれない」


「菌の採取ができるなら」


「……依頼優先だ」


「今回は助かった。腐敗魔法を見直したよ」とクルトが言った。


「ありがとうございます。半分残っていた不安はどうなりましたか」


「……なくなった」


「よかったです」


 フェンがぼそりと言った。


「でも八割発言はちょっと心臓に悪かった」


「すみません…」


 三人はグラウンへ向けて戻っていった。アオイの荷物には、遺跡で採取した鱗と、帰り道で見つけた珍しい菌のサンプルが入っていた。


 依頼は成功だった。


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