第十二話「冒険者ギルドの人」
行商人のダリオが来てから五日後、還り家に見慣れない二人組が訪ねてきた。
午前中、アオイが床の掃除をしていると、扉が勢いよく開いた。
「またか」とアオイは呟いた。蝶番が心配だ。
入ってきたのは若い男が二人。二十代前半くらいで、揃いの青い上着を着ている。腰に剣を帯びていて、姿勢がいい。
「ここが還り家か」と背の高い方が言った。
「そうです。何か御用ですか?」
二人は顔を見合わせた。背の高い方がクルト、金髪の方がフェンと名乗った。
「冒険者ギルドからの依頼だ」とクルトは言った。
「ギルドというのは」
「冒険者ギルドだ。知らないのか」クルトが少し驚いた顔をした。
「知りません…いろいろ事情があって」
フェンがクルトに耳打ちした。たぶん「深く聞くな」という内容だろうとアオイは思った。
依頼の内容はこうだった。
グラウンから馬で半日ほど東に行ったところに古い遺跡がある。最近その周辺で作物が枯れる被害が出ていて、枯れ方が根から腐っていくような症状だという。
「腐敗魔法の使いなら原因がわかるかもしれないと思って来た」とクルトは言った。
「根から腐っていく」アオイは少し考えた。
「土壌の異常か、何か別の原因か……どちらにしても調べてみたいです」
「受けてくれるか」
「報酬はいくらもらえますか」
「金貨一枚だ」
「受けます」
「即答だな」とフェンが言った。
「金貨一枚は大きいので。あと純粋に原因が気になって」
「危険があるかもしれないぞ」
「どのくらい危険ですか」
「魔物が出る可能性がある。そこは俺たちが対応する」とフェンが言った。
「あんたは戦えるか」
「戦えないです」
「だろうな」
「一つ聞いていいですか」とアオイは言った。
「なんだ」
「遺跡の中に珍しい菌がいたら採取してもいいですか」
クルトとフェンが同時に固まった。
「……依頼中にか」とクルトが言った。
「邪魔にならない範囲で」
「採取に夢中になって魔物に食われても知らないぞ」とフェンが言った。
「気をつけます」
二人が帰った後、アオイはゴルドに依頼について話した。ゴルドは眉を寄せた。
「遺跡か。あそこは昔から評判が悪い」
「何かあるんですか」
「百年ほど前に廃棄された魔法師の研究施設だという話だ。近づくなと言われている」
「魔法師の研究施設」アオイの目が少し輝いた。
「何か嬉しそうだぞ」
「研究施設という言葉に反応してしまって」
「あんたは本当に……」
ゴルドはため息をついた。
「危ないと思ったら戻ってこい。金貨一枚のために死ぬことはない」
「死ぬつもりはないです。でも珍しい菌がいたら——」
「菌より命が大事だ」
「それはそうです」
「本当にそう思ってるか不安だな」
「思っています。死んだら研究できなくなるので」
ゴルドは何か言いかけてやめた。
夕方、準備をしていると、ベアが来た。
「遺跡に行くと聞いた」とベアは言った。
「耳が早いですね」
「狭い街だ」
ベアは小さな瓶を渡した。
「これを持っていけ」
「何ですか」
「解毒薬だ。遺跡周辺には毒を持つ植物や魔物がいることがある」
「ありがとうございます」
アオイは瓶をじっと見た。
「これ、何の薬草を使ってますか……成分が気になって」
「調べるのは帰ってきてからにしろ」
ベアは鋭い目でアオイを見た。
「無茶をするな。あんたはこの街に必要な人間だ」
アオイは少し驚いた。
「……はい。気をつけます」
ベアは杖をついて帰っていった。
翌朝、夜明け前に還り家を出て、広場へ向かうとクルトとフェンが待っていた。馬が三頭いる。
「馬に乗ったことはある?」とフェンが聞いた。
「ないです」
「じゃあ俺の後ろに乗って。手綱は触らなくていいから」
「ありがとうございます。落ちたりしませんか」
「しがみついてれば大丈夫」
「どこに」
「俺の腰に」
「わかりました」
アオイは素直にしがみついた。
「腐敗魔法の使い手と組むのは初めてだ」とクルトが言った。
「そうなんですか」
「正直、不安だった。忌み魔法だという評判があるから」
「今も不安ですか」
「昨日、街の人間に話を聞いたらあんたを褒めてたから、不安は半分になった」
「半分残ってますね」
「残りの半分は実際に見てから判断する」
フェンが口を挟んだ。
「なあアオイさん、本当に菌の採取をするつもりか」
「できれば」
「依頼中だぞ」
「邪魔にならない範囲でいいので」
「魔物が出たらどうする」
「フェンさんたちが対応してくれるんですよね?」
「……クルト、この人大丈夫か」
「わからん」
三人は朝靄の中を、遺跡へ向かって進んでいった。




