表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ポンコツ海賊令嬢と人魚姫のドタバタ航海記――この恋、沈没寸前です!――  作者: 明石竜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/13

Voyage 10 沈んだ時計塔と人魚姫の秘密

 鏡海に入ったのは、翌朝だった。

 海の色が変わった。青でも藍でもない、鏡のような灰色だ。波がない。風が吹いても、表面が揺れない。帆は風を掴んでいるのに、海面だけが静止している。水面に空が映って、シーラビット号が雲の上を進んでいるように見えた。

「不思議な海ですね」

ミルフィナがそう言うと、

「鏡海よ。この辺りは海流が特殊で、表面が凪ぐ」

リヴィアがこう伝えた。

「下はどうですか」

「下は普通に動いてる。上だけが止まってる」

「……底の方から、何か感じます」

「何が?」

「大きなものが、確かにいます。動いていないけれど、確かにある」

「時計塔かもしれない」

「もっと生き物に近い感じです。でも生き物ではない。石か、金属か、あるいは……」

「魔法がかかったもの?」

「かもしれません」

 ネリネが地図と照らし合わせた。

「料理人が言っていた岩礁は、この先二時間ほどです。近づいたら、船を止めて、水中に入ることになります」

「水中の装備は?」

リヴィアが尋ねた。

「ありません」

ネリネがすぐに答える。

「ないのね」

「水中で活動することを想定した装備は、うちの船にはありません」

「どうするの?」

ピピが尋ねた。

「ミルフィナの魔法に頼る。水中でも息ができるようにしてもらえる?」

「できます。ただし、時間に制限があります。一人なら一時間ほど。二人同時だと、三十分程度です。それ以上は、私の力が続きません」

「全員は無理?」

「全員同時は難しいです。二人か、多くても三人が限界です」

「じゃあ、わたしとミルフィナで行く」

「私も行けますか」

「ネリネは船の管理をしてほしい。たこまると三人で残って」

「承知しました」

「ピピとベルも船で待機。何かあったら合図を出して」

「はーい」

「……分かった」

「姫さんの力に頼る形になる。無理をさせるな」

「分かってる」

「三十分で切り上げること。何か見つからなくても、三十分で戻ってこい」

「見つかりかけてたら?」

「戻ってきて、体力を回復してから、また入ればいい。一回で全部やろうとするな」

「……分かった」

「リヴィア」

「何」

「無茶をするな」

「するつもりはない」

「するつもりがなくても、する時がおまえはある」

「……気をつける」

 たこまるが、ふんと言って視線を外した。

 岩礁が見えてきた。大きな岩が海面から突き出していて、その周囲に小さな岩が並んでいる。シーラビット号を岩礁の外側に停めた。

「深さはどのくらい?」

リヴィアが尋ねた。

「この辺りは二十メートルほどです。ただし、時計塔がある場所はさらに深い可能性があります」

 ネリネが伝える。

「ミルフィナ、潜れる?」

「深さは問題ありません。人魚の体で行けます。ただ、リヴィアさんを連れていく速度に合わせるので、私一人で行くより時間がかかります」

「それは仕方ない。じゃあ、行く前に準備を教えて」

「手を握っていてください。私の歌が届く範囲でないと、魔法が続きません。離れると、水中で息ができなくなります」

「手を離さなければいい?」

「はい。どんな時も」

「分かった」

 ミルフィナが甲板の端に立った。コートを脱いで、ネリネに渡した。水の中に入る準備をした。人間の姿から、人魚の姿に変わる。尾びれが現れた。

「準備ができたら、一緒に入ってください」

「分かった」

 リヴィアはたこまるを見た。

「行ってくる」

「行ってこい。ただし」

「分かってる。三十分」

「無茶をするな」

「三回目ね」

「三回言うくらい心配してる」

 リヴィアは少し笑った。

「戻ってくる」

「当然だ」

 ミルフィナが歌い始めた。低く穏やかな歌で、リヴィアの周囲に何かが広がるような感覚があった。

「準備ができました。入ってください」

 リヴィアは海に入った。

 冷たかった。でも、息ができた。

 水の中で、普通に息ができた。肺の中に空気が入ってくる。魔法の力だ。

「大丈夫ですか?」

ミルフィナが尋ねた。水の中でも声が聞こえる。

「大丈夫。ちゃんと息ができてる」

「では、行きましょう」

 ミルフィナがリヴィアの手を取った。引かれるように、下へ向かった。

 水の中は、別の世界だった。

 上から差し込む光が、細い筋になって届いている。光の中を、小さな魚が泳いでいる。海草が揺れている。岩礁の壁に、色とりどりの珊瑚がついている。

「綺麗」

「海の中はいつもこうです」

「あなたには当たり前の景色なのね」

「当たり前ですが、好きです」

 深くなるにつれて、光が薄くなった。暗くなった。ミルフィナの尾びれが、暗闇の中で少し光っていた。道標のような光だった。

「怖くないですか」

「正直、怖い。でも大丈夫」

「同じことを言いましたね。陸の上で私が言ったことと」

「そうね。同じね」

「では、私が大丈夫だったように、リヴィアさんも大丈夫です」

「根拠がない励ましね」

「でも、効きますか」

「……少し効く」

 さらに深く降りた。光がほとんど消えた。ミルフィナの体の光だけが頼りになった。

 そのとき、見えた。

 大きな構造物が、海底に沈んでいた。

 時計塔だった。傾いていた。長い年月で少し倒れかけていて、上の方が岩礁に寄りかかっている。塔の表面は珊瑚と海草に覆われていたが、形はまだ残っていた。一番上に、文字盤があった。針は止まっていた。

「これが時計塔です」

「いつ沈んだんだろう」

「古いです。珊瑚の付き方を見ると、数百年は経っています」

「中に入れる?」

「扉があります。開くかどうか」

 扉は海草で塞がれていた。ミルフィナが歌うと、海草が少し退いた。扉を押した。重かった。リヴィアも一緒に押した。軋む音がして、開いた。

 中は暗かった。でも、壁に何かが光っていた。

 石に刻まれた文字だった。文字の溝に、発光する苔が入り込んでいて、それが灯りになっていた。

「字が読める?」

「読めます。古い文字ですが、クラゲの島で見た文字と同じです」

 ミルフィナが壁を読み始めた。

 広い部屋ではなかった。机と椅子の痕跡があった。崩れていたが、形が残っている。棚があった。棚の上に、石板があった。

「これが記録です」

ミルフィナが石板に近づいた。

 リヴィアも近づいた。手を握ったまま、隣に並んだ。

「何が書いてある?」

「星潮の冠について、です――人間と人魚の航海者が共に作った場所、と書いてあります。この時計塔は、二つの世界の境界に建てられたものだったようです」

「境界に?」

「海と陸の間の、中間の場所として。人魚も人間も来られる場所として、作られた」

「今は誰も来ない」

「はい。沈んでから、来る人はいなかったと書いてあります」

「なんで沈んだの?」

 ミルフィナが石板を読み続けた。少し間があった。

「……誰かが沈めたと書いてあります」

「意図的に?」

「はい。この場所を、消したかった者がいたと。誰かは書いていません。ただ、その者は星潮の冠を手に入れようとしていた。しかし手に入れられなかった。代わりに、この場所を壊した」

「冠は手に入らなかった?」

「冠は、手に入れようとした者が特定の思想を持っていると、働かないようになっていると書いてあります」

「特定の思想?」

「海と陸を分断しようとする者は、冠を使えない。冠はそういう性質を持って作られた、と」

 リヴィアは石板を見た。光る苔が文字を照らしている。

「じゃあ、オルカは冠を使えない?」

「冠の側がそれを判断するなら、使えないかもしれません。でも」

「でも?」

「壊すことはできます。冠を壊して、その力を別の形で使おうとする可能性があります」

「壊したら?」

「分かりません。記録には書いていません」

 リヴィアは考えた。使えないなら壊す。壊して、力を取り出す。その結果何が起きるかは分からない。でも、オルカが求めているのが海と陸の分断なら、壊すことでその力を引き出そうとするかもしれない。

「もっと読める?」

「もう少しあります」

 ミルフィナが石板を続きから読んだ。

「星潮の冠は、三つの鍵によって守られています、と。三つの鍵は、海と陸と、その境界を知る者の中に宿っている」

「三つの鍵?」

「詳しくは書いていません。ただ、鍵は物ではなく、存在に宿るものだと」

「存在に宿る?」

「人か、生き物か。何かの中に鍵がある、ということだと思います」

「たこまるが守護獣、と壁画に書いてあった。たこまるが鍵のひとつ?」

「……可能性があります。それと」

 ミルフィナが石板から手を離した。

「私の一族のことが、書いてあります」

 穏やかな声だった。

「ルーンシェル家は、冠の守護を任された人魚の家系だと書いてあります。代々、冠の在処を守る役目を持っていた」

「ミルフィナの家が、冠を守っていた?」

「そうです。でも、今の王宮では、そのことは伝わっていません。伝わっていないか、隠されているかです」

「どっちだと思う?」

「隠されている可能性が高いです。オルカが知っているなら、王国の誰かが知っているはずです。そしてオルカが冠を求めているなら、その守護の役目を妨害しようとしているということになります」

「つまり、あなたが冠の守護者かもしれない?」

「……そうかもしれません」

 ミルフィナの声は穏やかだった。

「知らなかったの?」

「知りませんでした。でも、知った今は」

「今は?」

「逃げたくないです」

 リヴィアは手を握ったまま、ミルフィナを見た。

「王宮から逃げて、ここまで来て、守護者だと分かって、逃げたくないって言える?」

「逃げてきたわけではないと、最初から言っています」

「外を見に来た」

「はい。見ました。知りました。だから、逃げません」

 リヴィアは少し黙った。

 そのとき、塔が揺れた。

 小さな揺れだった。でも、崩れかけている塔には大きな影響だった。天井から石が落ちてきた。

「出ます!」

「はい!」

 二人で扉に向かった。石板を持って行きたかったが、重くて無理だった。ミルフィナが文字を覚えているか、ネリネが書き写すか、あとで考えるしかない。

 扉まで来た時、また揺れた。

 今度は大きかった。塔全体が傾いた。扉が歪んだ。開いていたはずの扉が、塔の傾きで押されて、狭くなった。

「通れる?」

「私は通れます。リヴィアさんは」

「狭い。肩が引っかかる」

「押します。体を横にしてください」

 リヴィアが体を横に向けた。ミルフィナが後ろから押した。人魚の力は思ったより強かった。リヴィアが扉を抜けた。

 ミルフィナが続いた。

 抜けた瞬間、塔がさらに傾いた。扉のあった場所が崩れた。一秒遅ければ、挟まれていた。

 二人は塔の外に出た。上に向かった。

 上に向かう途中、リヴィアが遅かった。水中では速く動けない。ミルフィナの方が速い。

 ミルフィナが引いた。でも、リヴィアが重い。

 そのとき、ミルフィナがリヴィアの前に回った。正面から抱えるような形で、両腕で支えた。

「掴まってください」

「でも、それだとあなたが――」

「掴まってください」

 リヴィアがミルフィナの背に腕を回した。ミルフィナが上へ向かった。今度は速かった。人魚の本来の速度で、真っすぐ上に向かった。

 光が近づいてきた。表面の光だ。

 水面を突き抜けた。

 空気が来た。

 二人で同時に息を吸った。大きく、深く。

「大丈夫か!」

たこまるが叫んだ。甲板から見ていたらしい。

「大丈夫!」

リヴィアが叫んだ。

「怪我は!」

「ない!」

「ミルフィナ!」

「無事です!」

ミルフィナが叫んだ。

 ロープが降りてきた。ピピが降ろしていた。二人でロープを掴んで、甲板に引き上げてもらった。

 甲板に上がった瞬間、リヴィアは膝をついた。水中での疲れが一気に来た。

「船長!」

ピピが駆け寄った。

「大丈夫。ちょっと疲れただけ」

「怪我はないですか、本当に」

「ない。ただ疲れた」

 たこまるがリヴィアの前に来た。小さい体で、正面から見ていた。

「無茶をしたか」

「してない。塔が崩れただけ」

「崩れた場所にいたのが無茶だ」

「それは結果論よ」

「崩れかけの建物に入るのが無茶だと最初から言え」

「崩れかけとは思わなかった」

「崩れかけでなければ、数百年前に沈んだ塔とは言わない」

「……そうね。そうかもしれない」

「謝らなくていい。次から気をつけろ」

 ミルフィナが隣でゆっくりと息を整えていた。リヴィアが気づいた。

「消耗した?」

「少し。でも、大丈夫です」

「大丈夫じゃない顔してる」

「……少し疲れました」

「休んで」

「でも、記録のことを――」

「あとで話す。今は休んで」

「でも……」

「ミルフィナ」

 リヴィアが呼んだ。いつもと同じ呼び方だったが、少し違う声だった。

「休んで」

「……はい」

 ミルフィナはリヴィアの目を見て、ゆっくりと頷いた。


 ネリネが毛布を持ってきて、ミルフィナの肩にかけた。

「ありがとうございます」

「よく戻ってきました」

「ネリネさんが待っていてくれました」

「待つのが私の仕事です。今回は、少し長く感じました」

「心配させましたか」

「……少し」

 ミルフィナが船室に引っ込んだあと、甲板にリヴィアとたこまるが残った。ネリネが記録のためにリヴィアから話を聞き始めた。

 三つの鍵。ルーンシェル家の守護。冠の性質。

 ネリネが手帳に書き留めた。

「整理すると、星潮の冠は、分断を望む者には使えない。ただし、壊すことで力を取り出せる可能性がある。そしてオルカは、その方法を探しているかもしれない」

「そうなる」

「三つの鍵の一つが、たこまるさん」

「たこまる本人にも、はっきりとは分からないけど、可能性がある」

「残り二つは」

「分からない」

「ミルフィナさんが一つかもしれません。守護者の家系なら」

 ネリネが伝える。

「その可能性がある」

「では、残り一つが分かれば」

「冠に近づける。でも、残り一つが何かは、石板には書いてなかった」

「海と陸と、その境界を知る者、ということですね」

「境界を知る者。人魚でも人間でもなく、その間を知る者か」

「誰がそれに当たるの?」

「分からない。ただ」

 たこまるが海を見た。

「おれは守護獣の末裔らしい。姫さんは守護者の家系らしい。もう一つも、何か理由がある者のはずだ」

「理由がある者」

「偶然じゃない。この旅に引き寄せられた者の中にいるかもしれない」

 リヴィアは自分の手を見た。塔の扉を押した手だ。岩礁の中で舵を握った手だ。嵐の海に落ちた手だ。

「……わたしは、ただの海賊よ」

「ただの海賊が、なぜここにいる」

「宝を探してるから」

「なぜ宝を探している」

「世界一の航海者として認められたいから」

「なぜそれを望む」

「……シルヴェイル家の娘として、自分の航路を行きたいから」

「それが答えかもしれないし、まだ先があるかもしれない」

「どういう意味?」

「分からない。ただ、おまえがここにいることは、偶然ではない気がする。おれの勘だ。外れるかもしれない」

 リヴィアは空を見た。鏡海の上の空は、どこまでも高かった。

「……考えすぎても仕方ない。とりあえず、今日分かったことをもとに次を考える」

「それでいい」

「次は、深海図書館の話を聞いたことがある。古代海図や禁書があるって。もっと詳しい記録があるかもしれない」

「どこにある」

「クジラの背に建っているって聞いた。移動するから、居場所が決まっていない」

「見つけ方は」

「探す」

「どうやって」

「……まず、港町で情報を集める。ローザも探しているなら、情報が交差するかもしれない」

「ローザを頼るのか」

「頼るというより、情報を共有する約束をした。使える」

「おまえらしい判断だ」

たこまるが珍しく、批評ではなかった。


 夕方になった。

 ミルフィナが船室から出てきた。少し顔色が戻っていた。

「休めた?」

リヴィアが尋ねた。

「はい。ありがとうございました」

「もう大丈夫?」

「はい」

「無理してない?」

「していません」

「本当に?」

「……少し疲れは残っていますが、大丈夫です」

「正直に言ってくれてありがとう」

 ミルフィナが少し驚いた顔をした。

「何がですか」

「少し疲れが残ってる、って言えたこと。前なら言わなかったでしょ」

「……そうですね」

「言えるようになった」

「ここでは言えます」

「ならいい」

 二人で並んで、夕日を見た。

「リヴィアさん」

「何」

「今日、私が塔の外に連れ出しました」

「そうね。助けてもらった」

「いつもはリヴィアさんが助ける方です」

「今日は逆だった」

「私は、今日、リヴィアさんを守れましたか」

 リヴィアは少し考えた。

「守られた。確かに」

「よかったです」

「なんで嬉しそうなの」

「ずっと、守られてばかりだったので」

「人魚姫だから?」

「人魚姫だから、という理由で、守られてばかりでした。今日は、自分で守れた。それが嬉しいです」

 リヴィアは、ミルフィナの横顔を見た。夕日の色を受けて、銀青色の髪が橙になっていた。

「守られてばかりでも、あなたは役に立ってたわよ。今まで何度も」

「でも、今日は少し違いました」

「どう違うの?」

「リヴィアさんが、本当に必要としてくれました。技術として必要にしてくれたのではなく、その場で、本当に」

「……」

「抱えて上がってきた時、重くはなかったです。あなたが怖くないようにしていたから」

「怖かったわよ」

「でも、落ち着いていました。だから私も落ち着いて動けました」

「……あなたが冷静だったから、わたしも落ち着けた。どっちかよ」

「では、お互いに」

「そうね。お互いに」

 波のない鏡海が、夕日を映していた。シーラビット号が、その上に静かに浮かんでいた。

「飯にするぞ。今日のリヴィアは、疲れてる。早めに食って寝ろ」

「たこまるが心配してる」

 リヴィアが突っ込んだ。

「心配してない。食事の時間管理だ」

「同じよ」

「違う」

「同じよ」

「……好きなように思え」

 ミルフィナが小さく笑った。

「たこまるさんは、やさしいです」

「やさしくない」

「やさしいです」

「やさしくないと言っている」

「でも、やさしいです」

「……飯ができたら呼ぶ。甲板で待ってろ」

 たこまるが厨房に向かった。その背中を、ミルフィナが見ていた。

「やさしいですね」

「そうね」

「リヴィアさんも」

「わたしは強がりよ」

「強がりでも、やさしいです」

「どっちよ」

「両方です」


「整理します」

 ネリネが濡れた手帳を乾かしながら言った。

「今日分かったことは、三つあります」

「三つもあるの」

「あります。まず、星潮の冠は、海と陸を分断しようとする者には使えない。次に、三つの鍵は物ではなく、存在に宿る。そして、ルーンシェル家は、冠の守護者だった」

「……多いわね」

「多いです」

 リヴィアはミルフィナを見た。

 ミルフィナは黙っていた。自分の家の名前が、伝説の中に刻まれていた。その重さを、まだ受け止めきれていない顔だった。

「でも、分かったことがあるなら進める。分からないまま怖がるより、ずっといい」

 リヴィアはっきりと言った。


 シーラビット号は、鏡海の夕日の中に、静かに浮かんでいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ