目覚まし時計
二軍のグラウンドに、一人の投手が遅刻してきた。
練習開始は二時間も前だ。
コーチはその投手に、遅刻した理由を尋ねる。
「鳴っている目覚まし時計に、寝ぼけて野球のボールをぶつけてしまい・・・・・・」
それで目覚まし時計が停止した。そのまま眠ってしまった、と主張する投手。
「うそつけっ!」
コーチは怒った。
この投手はコントロールが悪いのだ。
寝ぼけて目覚まし時計にボールを当てた? そんなコントロールがあるなら、一軍の監督に推薦している。
ボールの速さや、ボールの力強さでは、一軍の投手たちを含めても、トップクラスなのだ。この投手、もっとコントロールが良ければ・・・・・・。
遅刻したこと、そして、うそをついた罰として、グラウンドの外側を十周走ってくるよう指示した。
で、翌日になる。
その投手、今日は遅刻しなかった。
コーチに朝の挨拶をすると、ある物を見せてくる。
へこんだ目覚まし時計だ。時計の文字盤が深くめり込んでいる。豪速球でも当たらないと、こういうことには・・・・・・。
コーチはハッとする。そうか。そうだったのか。
「疑ってすまなかった。俺の方が間違っていたみたいだ」
昨日のことをわびると、コーチは自分への罰としてグラウンドの外周を走り始めた。
コーチに向かって、投手が叫ぶ。
「三周でいいですよ!」
「ありがとう!」
コーチは走りながら思った。
若者の成長は早い。コントロールが良くなっているなら、そろそろ一軍に推薦しよう。
あの投手が一軍の試合で活躍する、そんな姿を思い浮かべて笑顔になった。
次回は「始球式」のお話です。




