お見舞い②
第8話
東雲の方から有栖へ声をかけた。
「や、やぁ。こんにちは」
「こ、こんにちは」
二人とも緊張している。
女子の部屋に来たことが無い男子と、自分の部屋に男子が来たことが無い二人なら当然のことだ。
「突然来ちゃってごめんね」
「ううん、ビックリしたけど、お見舞いにきてくれるなんて思ってなかったから。ありがとう」
「体、だいぶ良くなったみたいだね」
「うん、ずっと熱出て寝てたから、だいぶ良くなった」
学校ではクラスメイトが心配しているなど、当たり障りのない会話をしていたが、しばらく話をするとすぐに何を話していいのかわからない状態になった。
沈黙が続いたが、東雲は気になっていたことを切り出した。
「あの、聞いていいのかわかんないんだけどさ」
「え…なに?」
「いや、その、筋肉痛って、ほんと…?」
「え、それは…うん」
「ほんとは体がどっか悪くて休んでるとかじゃなくて…?」
「え、う、うん。体が悪いって病気ってことかな?そういうんじゃなくて…あ!もしかして東雲くんは私が本当は病気なのに筋肉痛って言ってると思ってたんだ!そうだよね、普通筋肉痛で学校休む人なんていないもんね。その、ほんとに筋肉痛…です」
「ほ、ほんとに筋肉痛…なんだ」
「う、うん。変に気を使わせちゃったね。ごめんね。私、すんごい運動音痴だから、恥ずかしくてずっと体育とかも休んでたし…」
「そう、なんだ。じゃあ、病気とか、そういうのじゃないんだね?」
「うん、そういうのは全然平気だよ。気を使わせちゃって、ごめんなさい」
「いや、いやいや!病気じゃないなら、よかったよ!こっちこそ、変な聞き方してごめん」
東雲が一番気になっていたことが解決したようだ。
そうとわかった途端、心の隅に置いていた疑問が浮かんできた。
「なんで…筋肉痛になったの?」
「え!?えっと、それは…」
「前は、体育で50m走ったあと休んでたもんね。でも、今回は特に体育があったわけじゃなかったから、みんな事故に遭ったんじゃないかとか心配しててさ」
「あぁうん、えっとね…(本当のこと言っても、きっと信じてもらえないよね)、50mも走れないのが恥ずかしかったから、家で、ちょっと自分で運動始めようかな~って思って、ちょっと頑張って走っちゃったんだよね!(嘘ついちゃった)」
「あぁ、そうなんだ!恥ずかしかったって、でもあの時は有栖さんのことみんな応援してたよ!最初は僕もビックリしたけど、ゴールした時なんかは、やった!って心の中で思ったし!」
「ありがとう…。応援してくれてたんだ。思い出すと恥ずかしいけど、でも頑張ってよかったかな」
「うん!みんな応援してたよ!ほとんどの女子が手を抜いて走ってるから、一生懸命走ってるの見て感動しちゃったよ」
「そんな、東雲くんってけっこう大げさだね」
「え、そ、そんなことないよ!」
有栖は研究室での出来事は隠したが、それでも二人とも本音を話し合えて、お互いに距離が近づいた感じがした。
「ねぇ、東雲君は、スポーツってよく見る?」
「スポーツ?まぁ、そんなに見るってほどじゃないけど、この前のオリンピックとか、ああいうのは見るかな」
「そうなんだ。録画したりした?」
「僕は録画はしてないけど、親が何個か録画してたと思うよ。どうかした?」
「ううん、私、全然見たりしなかったから、ちょっと勉強の為に見てみようかなって思って。あったら貸してもらえないかな…?」
「そうなんだ。いいよ!あ、でもテレビって確か著作権とかなかったかな?とりあえず親に聞いてみるよ!」
「あの、オリンピックって、バドミントンってあった?」
「バドミントン?あったよ!しかも金メダル取ったんだよ!」
「え、そうなの!?」
「そうなのって、知らなかったの!?本当にスポーツ見ないんだね…。バドミントンの金メダルは日本初って言って、テレビでもすごい盛り上がってたんだよ!」
「う、うん。そうなんだ。もしバドミントンも録画してたら、借りていいかな?」
「うん、聞いてみるよ」
「うん、ありがとう」
その後も、改めてクラスメイトが心配していた話や、生田がわざわざ自分も心配していたと言ってくれと言っていたことなど、最近の学校での話をして盛り上がった。
途中、おばあちゃんがりんごとバナナを切って持ってきた時には、二人が打ち解けている様子に何やら期待をしているような、見守るような表情をしていた。
外が暗くなり始めた頃、あんまり長居してはと思い、盛り上がっていた話に区切りをつけ、東雲は帰ることにした。
「もうすぐ学校に来れるんだよね」
「うん、次の月曜くらいから行けると思う」
「そっか、みんなにはそう伝えておくよ。じゃあ、また学校でね」
「うん。本当に今日はありがとう」
有栖は布団から出られず、そのまま見送り、玄関ではおばあちゃんが見送りをした。
東雲が帰ったあと、有栖はおばあちゃんに茶化されるようにどんな話をしたのかとか、いい子じゃないかなど言われて恥ずかしがっていた。
おばあちゃんは、東雲がお見舞いに来てくれたことがよっぽど嬉しかったようだ。




