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暴走

第5話


私が運動音痴だから、これを着て頑張れとでも言いたかったの?


せっかく最後まで着たのだから、疑問に思ったことはやってみようと、鏡を探そうと一歩踏み出した瞬間…


「きゃっ!!!」


体が大きく飛んで壁にぶち当たった。


ぶち当たった衝撃のあと、着地した両足はさらに体を高く飛ばした。


「きゃーーー!!!」


体は天井まで飛んだ。


頭を強く打ち付けるはずが、頭より先に両手が天井につき、しなやかな動きで衝撃を吸収した。


そのまま地面に叩きつけられるように勢いよく落ちたが、今度はまたも両足が着地の衝撃を受け止め、体が横にはねた。


「きゃーーー!!!何、何ーーー!!!???」


壁にある本棚めがけて体が飛び、左手で支えると本棚、機材を収納している棚、その横の棚へと体をゴロゴロとさせた。


「きゃーーー!!!誰か、止め…うっ、うっ」


ゴロゴロと体が回転している為、声がうまく出なくなった。


体自体は腕が支え、衝撃を吸収しているが、強い衝撃を受けた本棚はそうはいかなかった。


ぐらつき、ゆっくりと倒れ始めている。


重力に逆らえず、ここまで来たらあとはもう倒れるのを待つだけだというところまで傾いた。


本棚から横へ横へと体を移動させていた陽葵は、突然バッ!と棚を離れ、足を踏ん張るようにし、本棚の方へ飛んだ。


一歩、二歩と、まるでチーターが獲物を狙って走るように、幅広く、力強い踏み出しで、一瞬のうちに地面と本棚の間に体を割って入れた。


すでに体を中腰にしないといけないほど傾いていた為に、棚に置いてあった本はバッサバッサと落ちた。


本が落ちたとはいえ、棚の重量は女の子一人で支えきれるような重さではない。


しかし、陽葵が支えてからはピクリとも地面の方には傾かなかった。


それどころか、棚を少しずつ壁の方に傾け、ソーッと、優しく元の位置に戻した。


ようやく動きが止んだ、と思ったが、さっき体が激しく回転した時に目が回っており、体がふらつき、地面が上にあるのか下にあるのかわからなくなっていた。


完全に平行感覚を失い、地面に倒れたが、両手が支え、衝撃を吸収した。


時間にするとほんの数秒のことだった。


理解できないことが続き、その上目も回って何かを考えられる状態ではなかった。


ただ、今できることは目が回っている状態が治るまで、そのままじっとしていることだけだった。


少しでも動いたら何が起こるかわからない。


じっとしているしかなかった。


しばらくしてようやく視界がハッキリし、思考も戻ってきた。


どうしたらこの状況を打開できるのか、元に戻れるのかを考えた。


間違いなく、こんなことになった原因はユニフォームにある。


脱げばいい話だが、脱ぐ為に少しでも動けば、またさっきと同じ状況になりかねない。


しかし脱がなければ解決しない、そうして考えた結果、最も簡単に脱げるのはリストバンドであることに気がついた。


きっと素早く動けばリストバンドくらいなら取ることができるはず。


そう信じてタイミングを伺い、さっ!とリストバンドに手をかけようとしたが、動かした腕が地面を蹴るようにして体を起き上がらせた。


つられるように足も動き、机の上を飛び始めた。


「きゃーーー!!!なんでーーー!!!で、でも、せめてリストバンドだけでも…」


目まぐるしく勝手に動く体を無視し、両手にだけ集中した。


体がピョンピョンと跳ねる中、ようやくリストバンドに手をかけ、力一杯に外した。


すると、体を右に左にクルックルッと、靴をキュッキュッと鳴らし、まるでバスケのディフェンスをしているかのような動きの最中に、元の自分の体に戻ったように突然動きを止めた。


戻った!と実感したが、体は右に左にとクルクルと激しく動いている途中だった為、体を支えきれず一方の方向に回転し、またも目が回った。


「もういや…」


と呟き、何の抵抗もなく地面にパタン、と力なく倒れた。


しばらくすると、目が回っていたのは治ったが、体はボロボロだった。


もう帰ろう、と言って着替えることを無く、ユニフォーム姿のまま家に戻った。


バドミントンのユニフォームを着て、ボロボロになっている有栖見て、当然おばあちゃんはビックリした。


「え、あんた、なにその格好!ちょっと、ボロボロじゃない!一体地下室で何してたの!?」


「わかんない…もう寝る…」


「わかんないって、陽葵、ちょっと!」


おばあちゃんの声は聞こえていたが、答える力は残っておらず、フラフラの足取りで自分の部屋に戻り、そのまま布団の上に倒れた。


今日は何が起きたんだろう。


地下の扉を開ける方法を思いついて、やっとの想いで開けて、中に入って、そして…


自分の身に何が起こったのか、思い返そうとしている間に眠ってしまった。


そして次の月曜日、学校では朝のホームルームで先生が皆に報告をしていた。


「えー、有栖は、筋肉痛がひどいため、一週間ほど休むそうだ」


クラスメイト全員で


「えーーーーー!!!!!」


と驚いた。


どうやら昨日の激しい動きは、そのまま有栖の体にダメージを与えていたようだ。


クラスメイトからしたら、何の前触れもなく筋肉痛になって休むと言っているのだから、そりゃ驚くというものだ。


家では、有栖が今まで経験したことの無いくらいの激痛と高熱に襲われ、布団の中でうなされていた。

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