有栖の才能
第3話
研究所は2階建てで、地下にも研究室があった。
1階と2階には大きなテーブルの上には、ビーカーや試験管、電子顕微鏡など、理科の実験室が本格的な仕様になったような部屋があった。
有栖も、鍵を使ってここには入ることが出来た。しかし、地下の部屋に入ることは出来なかった。
小さい頃、何度もこの部屋に入ってみようと試みたが、部屋の入り口の扉が開かなかった。
持っている鍵で開かなければ、どこかに鍵があるのではと家中のありとあらゆる所を探したが見つからず、では扉の回りにスイッチらしいものはないかと、壁や床を這いつくばりながら探したがそれでも見つからなかった。
扉を押したり引いたり、上に持ち上げようとしたり横にスライドさせようとしたり、思い付く限りのことを全てやってみたが、何をしても開かず諦めていた。
もちろん、小さい頃にいくら扉を開けようとしても開けられなかったことは覚えているが、それでも「この先に何かある」という予感がし、根拠は無いがなぜか「出来る」という確信が有栖の中にはあった。
「もう一度、くまなく探してみよう」と思い、扉や壁、床や天井までもを穴が空くほど見渡した。
しかし、結果は昔と同じくスイッチらしきものは何も見つからなかった。
だが有栖は諦めた顔はしていなかった。
むしろ何も見つからないことを確認していたようだった。
一度家に戻った。
リビングの椅子に座り、何かを考え始めた。
「おやおや、その様子だとやっぱり開かなかったんだねぇ」
おばあちゃんが声をかけた。
「うん。どこを探しても鍵をいれるようなところもないし、何しても開かなかった。」
「そうかい。でも、あんた諦めたような顔してないね。」
「うん、絶対開ける方法はある。」
「珍しいね、あんたがそんなに一生懸命になるなんて」
「ねえおばあちゃん」
「なんだい」
「研究室って、私が使ってもいいかな」
「研究室?開けられたら使ってもいいんじゃないかい?」
「地下のじゃなくて、1階と2階!研究室のものとかパソコンとか使いたいんだけど、いいかな!?」
「研究室のものかい?今は誰も使ってないし、いいんじゃないかい?でも研究室のものを使って扉を開けられるのかい?」
「わかんないけど、試してみたいことがあるの!ありがとう!」
そう言って有栖は研究室へと急ぎ足で向かった。
研究室へ入ると、必要なものを探した。
改めて研究室を見てみると、1階はいわゆる理科室のようなものが多く、2階は比較的パソコンが多く並べられ、部品を組み立てるような機材なども置かれていた。
有栖は2階に向かった。
パソコンが動くことを確認し、周囲に置かれている細かな部品などを見て
「よし。これならいけるかも」
と一言言った。
有栖はそれぞれの部品を集めて組み立てを始め、組み立てた部品をパソコンに繋ぎ、打ち込みを始めた。
数時間は経っただろうか、外はすっかり暗くなっていた。
しかし、ようやく目的のものは完成した。
「できた!これでもし研究室の扉が、何かの電波が鍵になっているとしたら、特定できるかもしれない!」
なんと、有栖は電波感知器を作ってしまったのだ。
「うまくいけば、これでやっと扉を開けられる…!」
そう言って、今度は地下に急ぎ足で向かった。
扉の前に来て、有栖は祈るような仕草をした。
目をつむり、少し唇をかみ締め、お願いしますと強く念じた。
自分で作った電波感知器の電源を入れ、測定を開始した。
感知器の画面には、周波数帯を感知したり、様々な通信規格の名前が表れ、どれに当てはまるのかを探すことが出来るようになっていた。
数秒ほど経った後、画面には測定の結果を待つよう指示する画面が出た。
その指示の画面が出てさらに数十秒ほどすると、その画面は消え、真っ暗になってしまった。
「ダメだったか…」
感知器の精度が悪かったのか、それとも自分の考えが間違っていたのか。
また1からやり直しかとため息をつくと、画面に文字が表れた。
”対応形式ではないため認証できませんでした”
「えっ!?」
画面にはエラーメッセージが表れている。
「対応形式ではないため認証できませんでしたってことは…、近くに通信してるものがあるってことだ!!!やった!!!あはは!!!」
なんと、感知器は電波をしっかりとキャッチしていたのだ。
このエラーメッセージは、”電波はキャッチしましたが、接続には失敗しました”という意味だったのだ。
しかも、このエラーメッセージから読み取れるのはこれだけではなかった。
「認証できませんでしたってことは、何かしらの通信規格を使っているということ。私がこのエラーメッセージが出るように設定したのは…近距離通信の場合!近距離通信といっても何種類かあるから、種類を特定しないと。でもこの距離で感知するってことは、おそらくRFIDか。でもそれだと扉を開けるにはまた別の認証方法が…」
RFIDとは
数十センチから数メートルの距離で通信を行うことができ、少々離れた場所でも情報を読み取ることができるものだ。
例えば、RFIDの機能がついたICチップをつけた人がゲートを通ると”誰が””いつ”そこを通過したのかを計測できたりする。
マラソン大会では主にRFID付きICチップが使用されたり、身近なものだと、おサイフケータイなどの電子マネーもRFIDの一種である。
電子マネーは10センチ以下の距離で通信する必要がある為、鍵の代わりとして使用される例も多々あるが、数メートルも離れては鍵としての役割を果たすのは難しい。
つまり、近距離通信をしているが、数メートル離れても通信しているので、鍵は別に必要だ、と有栖は言っているのだ。
「この辺から通信してるのか」
どうやら通信の出所がわかったようだ。
「通信してるってのはわかったけど、なんでRFIDなんだろう。もしかしたら、RFIDに書き込まれている情報を読み取れば何かヒントがあるのかも。よし!読み取り機を作ろう!」
有栖はまたも急ぎ足で研究室へ向かった。
有栖がこんな特技を持っているとは驚きだった。
しかし、小さい頃から何をやってもヒントすら掴めなかった有栖にとって、今日の出来事は大収穫だった。




