表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
21/22

野次と意地

第21話


相手のサーブを葉月がレシーブする順番だった。


相手はいつものように、ネットギリギリに軽く打ち、コート前方に落とすようなサーブを打った。


それを読んだ葉月は、前に大きく一歩足を出してネット際で打ち返した。


しかし、打ち終わった後、葉月は、右の手首を押さえてネット前で立ち止まっていた。


相手もそれを見て、大きく空いた葉月の後ろのスペースに打ち返した。


有栖は、「届く!」と思い、シャトルを追った。


だが、足がもつれてしまい、前のめりに倒れてしまった。


ポトッ


シャトルはそのまま誰もいないところへ落ちた。


「はぁ、はぁ・・疲れが出るのはまだ早いはず・・。もしかして・・!?」


右手のリストバンドを触ってみた。


ロゴのところにあるメモリの感触がいつもと違っていた。


「電源が切れたわけじゃない、これは、壊れてる・・」


さっき葉月をかばって倒れた際に、メモリが破損してしまったようだ。


「なんで・・。こんな時に壊れるなんて・・」


有栖は絶望した。


ずっと頼りにしてきただけに、あまりにもショックが大きかった。


しかも、葉月は強がってはいたが、手首のケガは予想以上にひどい状態の可能性がある。


全ては自分の一瞬の油断が招いたことだった。


「有栖さん、大丈夫!?」


先生が声を掛けた。


「だ、大丈夫です・・」


有栖は、全てを台無しにし、ペアの葉月にケガを負わせたことに対し、自分を責めた。


葉月も強がりを続け、問題がないことをアピールしたため、試合は続けられた。


相手のサーブを今度は有栖が受け、なんとか返した。


こういった勝負事では、アクシデントであろうと、ケガなど弱っている方を攻めるのが勝つために重要なことである。


相手も、ケガをしている方を攻めることに迷いはあったが、葉月の方を攻めることを話し合って決めていた。


有栖が返した返球に対して、葉月の方を攻めるつもりでいたが、葉月の気迫はもの凄いものがあった。


その気迫は、「私のところに打って来い」と言っている気さえした。


その気迫を感じ取った相手は、有栖の方へ打ち返した。


気迫にやられた返球は、普通ならスマッシュを打ってくださいと言っているくらいの絶好球だった。


有栖は、ほとんど動かずにスマッシュを打てる位置で構え、タイミングを合わせてラケットを振り抜いた。


カンッ


シャトルはラケットのフレームにあたり、結果的にスマッシュに備えて後ろに下がっていた相手の意表をついてネット際に落ちた。


「やるねぇ!」


葉月は気丈に有栖に声をかけた。


しかし、葉月を含め、相手チームや先生、チームメイト、その他の会場の観客達も有栖の異変に感づいていた。


有栖のフォームが崩れていたのだ。


それはまるで初心者のようだった。


目の肥えていない人間でも、さっきまで惚れ惚れするようなプレーをずっと見てきていたのだから、そのプレイヤーがいきなり初心者のようになったのだから、気づくのが普通である。


「やっぱりさっきのでケガでもしたのかな?」


「うーん、でもどっか痛そうにしてるようにも見えないけどな・・」


「ペアの子をケガさせちゃってショック受けたとか?」


観客もざわつき始めた。


その中でもプレーは続行された。


有栖がサーブを打つ番だった。


「リストバンドも無い・・。葉月さんはケガしてる。皆も私が運動できないやつだって気づき始めてる・・。もうダメだ・・」

有栖は、自分を責め続けながら、下からサーブを打った。


このサーブは比較的初心者が行うサーブだが、経験者通しの試合でも行われることがあるので、それ自体は珍しくない。


しかし、有栖のサーブは明らかに様子が違った。


このサーブこそ、まさに初心者のサーブだった。


相手はこのレシーブにスマッシュを決めて得点したが、観客はこの有栖のプレーに対し怒った。


「そんなのスマッシュ打ってくださいって言ってるようなもんじゃねーか!」


「試合放棄かー!」


「最後までちゃんとやれよー!そんなの見たくねーよ!今まで戦った選手に失礼だろー!やる気ねーなら棄権しろー!!」


野次が飛んだ。


有栖は集中的に責められ、一気に会場中の敵となってしまった。


「やっぱり、私は来ちゃいけない場所だったんだ・・。真剣にやってる人達に、リストバンドなんか使って、ズルしてたからバチがあたったんだよね・・」


「有栖さん、こんな野次、気にしちゃダメだよ!!・・つーか、自分たちが試合してるわけじゃないのにひどくない?むかついてきた」

葉月は、有栖に対し罵声を浴びせる観客に言い返そうとした。


その時


「陽葵!まだ負けてないよ!あんたはまだやれるよ!」


観客席からおばあちゃんの声が聞こえてきた。


「そうだよ!あんなに練習したんだからきっと大丈夫だよ!」


東雲の声も続いた。


「おばあちゃん・・。東雲くん・・」


二人が有栖を力を信じた声は、有栖に届いた。


「東雲くん・・。やっぱり二人とも仲良かったんだね!隣にいるのはおばあちゃん?」


「葉月さん・・」


「なに?」


「コートの端にいて!」


「え・・?」


「私が全部返すから、葉月は休んでて!」


「え、私は大丈夫だから・・」


「いいから!!!」


「あ、は、はい・・」


葉月は有栖の気迫に押された。


一瞬の油断で自分が招いた出来事を、有栖は全て受け入れた上で、自分の力で勝負をつける覚悟を決めた。


次の相手のサーブは、葉月が受ける番だったが、このサーブは見送った。


このプレーに、観客の罵声はさらにヒートアップした。


しかし、有栖の耳にはその声は届いていなかった。


有栖は、「ふーっ!」と息を吐き出し、相手のサーブに対して構えた。


相手がサーブを打ち、ネットを超えた瞬間。


キュッ


パシッ!


コトン


シーン・・・


会場は静かになった。


が、次の瞬間。


「な、なんだよ今の!?」


「すごい速さだったぞ!!」


「今まで一番速かったんじゃないか!?」


有栖のプレーに、今度は騒然とし始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ