鬼コーチ東雲
第19話
インターハイ予選が終わった次の日から、早速チームは新体制としてスタートした。
1,2年生が最初に目指すのは新人戦である。
ダブルス、シングルス、団体戦の順に大会が行われ、団体戦では東東京、西東京に分かれ、それぞれで優勝したチームが全国大会に進める。
一番早いダブルスは、約3ヶ月後に行われる。
有栖は、自分がどれに出場するのか、そもそもしていいのかなど、さっぱりわからなかった。
しかし、葉月が有栖とダブルスを組みたいと希望した。
有栖は驚いた。
しかし、それ以上に自分と組みたいと言ってくれることが嬉しかった。
とはいえ、ダブルスは二人の息を合わせることが何より需要だ。
バドミントンを始めたばかりの有栖に、そんな器用なことが果てしてできるのだろうか。
ましてや有栖には、体力を大幅にアップをさせないといけないという課題がある。
葉月は、そこも考えての提案だった。
体力アップのみに集中し、技術練習などに力が入らなくなってしまっては勿体ない、ダブルスを組むことで技術練習もカバーできると考えたようだ。
実際にダブルス組んで練習をしてみると、案の定呼吸は合わず、ぶつかってしまったりお互いにシャトルを見送ってしまったりした。
有栖は、せっかく自分と組んでくれた葉月のためにも、自分が成長しないといけないと強く感じた。
練習が休みの日、有栖は久しぶりに東雲に練習に付き合ってほしいと連絡した。
東雲は喜んで引き受け、学校帰りに有栖の家に向かった。
「やぁ、なんか久しぶりだね!」
「学校で会ってるけど、こうして合うのは久しぶりだね!ごめんね、急にお願いして・・」
「ううん、頼ってくれて嬉しいよ!最近部活頑張ってるみたいだね。僕に手伝えること、何かあるのかな?」
「うん、東雲君にしかお願いできないことがあって」
有栖はこれまでの経緯を説明した。
東雲は、それを聞いて自分が呼ばれた理由を大体理解した。
「わかった。僕にできることなら何でもするよ!」
「ありがとう・・。実は、私のリストバンドと同じじゃないんだけど、作ってみたんだ。もしかしたら東雲くんが使うとまた暴走しちゃうかもしれないんだけど・・」
有栖は前置きをした。
しかし、東雲は話の途中で有栖が持っていた新しいリストバンドを取り、腕にはめて時計回りに回した。
「え!?東雲くん!まだ説明してない・・」
「大丈夫だよ。有栖さんの役に立つなら、全然怖くないよ。説明を聞いたあとでも、僕は同じようにこれをつけると思う」
「東雲くん・・」
そう言うと、東雲の様子がだんだんと変わっていった。
「・・おいおいおいおい!そんなところで何してる!?まさかサボってんじゃねーだろうな!?さっさと練習始めやがれ!!」
「は、はいっ!」
「なめた練習してんじゃねーぞ!ボロクソになるまで動きやがれ!オラオラオラオラ!!!」
有栖が用意した新しいリストバンドは、鬼コーチになるためのものだったようだ。
「はぁはぁはぁ・・。き、きつい・・。でもこれくらいやらないと、新人戦には間に合わない・・」
前後左右の、なんとかギリギリ届くところにシャトルを打ち込まれ、思い切り走らされた。
「オラオラオラ!!動け動け!ハッハッハッハー!!!」
「はぁはぁはぁ・・思った以上にきつい・・。モードを変えなきゃ・・」
鬼東雲の隙をつき、東雲のリストバンドを時計回りに回した。
「な、お前、なにを・・」
「はぁはぁ・・。これで、少し休めるといいんだけど・・」
「わーお!あなた、ボロボロですねぇ!大丈夫ですかぁ!?一体どんな練習をすればそんな風になるんでしょう。少し休んだ方がいいですよ~」
「は、はい・・。(助かった)」
「・・は~い、休憩終わりでぇす!」
「えぇ!!??」
「見たところ、体力作りをしているみたいですね~。でも他の練習もしっかりやらないといけませんよぉ。オーバー、サイド、アンダーをフォア、バックハンドそれぞれで1,000回ずつ素振りしてくださ~い」
「そ、そんなに!?」
「このくらい朝飯前にできないと~。朝飯が終わったらもう1セットですよ~」
「今は夕方です」
そう言ってリストバンドをまたくるっと1回回した。
「あ!あなた!なにをする~・・」
「今度はどうかな・・」
「・・・うぅ・・大変すぎる・・。こんな無茶苦茶な練習させられて、ぼ、僕見てられないよ・・。うぅ・・」
「東雲くん・・。そ、そんな、大丈夫だよっ!」
パシッ
ポトッ
「・・え?」
「ひゃーハハハ!!!1点取ったぜ!こいつバカだ!騙されてやんの!ひゃはははは!!」
「(怒)」
くるっ
「ひゃは・・じょ、冗談・・。あなた!かわいい顔してるわねぇ。いじめるなんてかわいそう!お兄さんが優しくしてあ・げ・・・」
くるっ
「あちょっと~・・。ふっ、そんな君も美しい・・」
くるっ
「がっはっはっはっは!!そんなんじゃ体力つかないぞ!!ほら、いっぱい食いなっ!!!がっはっはっは!!!」
スポッ
見かねてリストバンドを外した。
「もう!変なのばっかりじゃない!」
「作ったの・・自分じゃ・・ない・・か」
パタッ
そんなこんなで有栖は、鬼(?)コーチとなった東雲と共に時々練習をしていくことになった。
3ヶ月におよぶ猛練習は、有栖の体力、技術力、精神力全てを鍛え、いよいよ新人戦本番を迎えた。
新人戦の参加チーム数は、男子が約800チーム、女子においては約1,000チームにもなる。
「有栖さん、大丈夫?」
「え、、そ、そんなに出るの・・!?緊張してきた・・。そんなにいっぱいの人、会場に入るのかな・・」
「会場は別れてるからそんなに人入らないよ!そっか、大会出るの初めてだもんね。でも大丈夫!いっぱい練習してきたじゃん!いつものプレーすれば大丈夫だよ!」
有栖と葉月のペアは、なんと練習試合で全勝していた。
ペアを組んで日が浅いため、今回の大会でシードというわけにはいかなかったが、二人の噂は他校にも広がり、密かに注目されていた。
今回、有栖達は駒沢オリンピック公園体育館で試合が組まれていた。
予選では、まず1グループ120チームずつにわかれ、準々決勝までの5試合を戦う。
準決勝と決勝は別の日に行われ、そこで優勝すると決勝トーナメントに進出できる。
決勝トーナメントもまた別の日に行われ、グループ優勝チーム8チームと、全日本ジュニア大会東京都予選ベスト8の8チーム、計16チームの中から勝ち残ったチームが、今回の新人戦の優勝チームとなる。
先の長さを当日になって初めて知った有栖は、「なんてところに足を踏み入れたんだ」という顔をしているが、もうやるしかないのだ。
自分たちが試合をするコート近くで待機するための移動中、有栖は人にぶつかったり、バッグを踏んだりして「すいません、すいません」と謝りながら会場を進んだ。
初めて感じる会場の熱、雰囲気におどおどしていたが、前の試合が終わり、有栖達の順番がやってきた。
「じゃあ、行きますか!」
「ひ、ひゃい!」
「・・試合始まったらしっかり頼むよ!」
「う、うん」
頼りなさそうな返事をし、有栖はリストバンドを回しながらコートに入っていった。




