体験入部
第17話
二人の勝負は、クラスメイトの練習に大いに効果があった。
二人のプレーは良い発奮材料となり、真似をする者や、うまくいかなくてもラリーを続けようと努力する者などそれぞれだったが、サボる者はいなかった。
有栖は、体力の消耗が激しかった為、先生に許可をもらって体育館の隅で休んでいた。
「お前のおかげで皆まじめに授業を受けてくれてるよ。ありがとな」
自分のおかげと言ってくれたことが嬉しかった。
50m走を走った後も同じように休んだが、あの時とは全く違う気分だった。
有栖が休んでいる間、葉月は何人かの女子からショットの打ち方などを聞かれ、丁寧に教えていた。
「葉月さん、凄いなぁ。試合した後なのに、普通にしてる。私、体力無いなぁ・・」
自分の実力以上の力を出して戦っていたのだから、仕方が無いと言えば仕方が無い。
それでも、最後にレベル5にあげ、1球しかまともに打ち返せず体力が限界を超えてしまったことが悔しかった。
「せめて、あと1歩もてば・・」
しっかりと打ち返せていればもしかしたら、と独り言を言った。
「有栖さん、今日バド部の見学に来ない?」
「ひぇっ」
急に声をかけられ、思わず変な声を出してしまった。
聞かれたかも、とドキドキした。
「今日、何か用事ある?」
「あっ、いや、その・・(聞かれなかったかな・・)。行けたら、行きます・・」
「そっか!じゃあ待ってるね!」
「う、うん」
有栖はバド部の見学に行きたかったが、たぶん行けないだろうと思っていた。
「たぶん、明日また筋肉痛になるんだろうな・・」
案の定、体育の授業が終わった後、今日最後の授業はなんとか受けたが、猛烈な眠気と疲れが襲ってきた。
葉月も、有栖を見て異変を感じ、そのまま帰った方がいいと言ってくれた。
東雲も異変には気づいており、地元の駅で待ち合わせをしてそこから一緒に帰ろうとLINEを送った。
東雲も経験したからわかるが、リストバンドを使うと疲れがどっとくるのだ。
LINEで送った通り、地元の駅で待ち合わせをして、なんとか無事に有栖は家に着いた。
次の日
「えー、有栖さんは、筋肉痛のため数日お休みするそうです」
先生がクラスメイトに伝えた。
「あらー、やっぱりかぁ」
「昨日凄かったもんね」
「ねぇ、有栖さんって、スポーツ得意なのかな、苦手なのかな」
以前のような意外な反応は無く、クラスメイトはすっかり慣れた様子で、有栖の筋肉痛休みを受け入れた。
さらに次の日、今までの経験上3日くらい休むと思っていた有栖は、予想以上に回復が早かった。
とはいえ、体中がガタガタでよろけながら歩くような状態だったが、休む日数は極力減らしたい気持ちが強く、なんとか登校した。
ガタガタでも休まずに登校ができるようになったのだから、かなり成長した方である。
この日、放課後はバドミントン部の見学に行こうと思っていた。
二日前に葉月との約束を果たせなかった分、早い内に約束を果たしたいと思ったからだ。
葉月に、「今日は見学に行く」と伝えると、「楽しみにしてるよ」と言ってくれた。
放課後になると、有栖と葉月が一緒にバドミントン部に顔を出しに行くことになった。
いきなり部室に連れて行っても緊張させるだけと思い、一旦有栖は体育館の外で待たせ、着替えた後に迎えに行った。
葉月が迎えに来た頃には、何人かの部員が着替え終わり、部室から出てきていた。
その中からキャプテンらしき人を呼び、挨拶をした。
「あなたが有栖さん?私、バド部のキャプテンの一ノ瀬 結衣です。今日はよろしくね!」
「あ、わ、私は有栖 陽葵です。よろしくお願いし、し、しまっくす!」
「え・・?し、しまっくす・・?」
「わわわっ!す、すいません!!くしゃみが出ちゃって・・」
「あ、あぁ・・!くしゃみね!そう!よ、よろしくね!」
「は、はい!」
「有栖さん、つかみはバッチリだったね・・」
「もう!笑わないでよー!」
有栖は、くしゃみと葉月のいじりで緊張が和らいだのか、二人はだんだんと打ち解け合ってきていた。
見学だけで最後まで練習に付き合わせるのは悪いということで、この日は一時間だけ見学してもらうことにし、その間の練習の説明などのフォローは顧問の先生が行うことになった。
有栖にとって、部活の練習風景は良い意味で異様な光景だった。
さっきまでジャージを着たいつものクラスメイトや部員達が、全く違う顔つきでいるのだ。
声出し一つでも堂々としているし、動きはキビキビしていて、体育の授業とは雲泥の差である。
何より、当たり前のことなのだが、皆バドミントンがうまい。
上から目線の感想のように思うかもしれないが、レベルの差が開きすぎると、うまい選手のプレーというのはどの程度凄いことかがわからなくなることがある。
しかし、ウォーミングアップや遊びで行うプレーなど、真剣なプレーと比べるとやや手を抜いた状態のプレーというのは、レベルの差が埋まり、その人の実力がいかに素晴らしいかを認識しやすくなる。
バドミントン部の部員の実力は、今の有栖とはかなりの大きな差がある、ということになる。
最も、部員達がうまい、ということがわかるようになったのも、有栖の実力だ。
練習メニューは、ランニング、ストレッチのあと、素振り、フットワーク、シャトルダッシュ、サーブ、基礎打ちまで来たところで一時間が過ぎ、顧問とキャプテンに挨拶をして帰った。
有栖は、終始衝撃を受けていた。
ストレッチって、あんなに体曲げるの?素振りって本当にやるの?あんなに走るの?そんなにいろんな種類の打ち方練習するの?などなど。
とにかく有栖にとっては未知の世界だった。
家に着いて少しすると、葉月からLINEが来た。
「部活どうだった?すぐ決めなくていいから、また見に来てね♪」
有栖は「誘ってくれてありがとう。また見に行きます」と、簡単に返信した。
有栖は、あれだけの練習を毎日やる自身が持てなかったが、心の中ではバド部に入りたい気持ちがだんだんと膨らんできた。
次の日、学校へ行くと、葉月にそのことを告げた。
葉月は思ったよりも早い回答に驚いていたが、とても嬉しそうだった。
顧問とキャプテンにそのことを連絡すると、体験入部という形でまずは体験してもらうことになった。
有栖にとって、練習は想像を絶する過酷さだった。
ストレッチをしようとしても体が曲がらず、立ったまま体を前に倒しても90度の角度から曲がらない。
素振りは素人そのもの。
走っても体育館の端から端まで走っただけで息切れをしていた。
部員達は唖然としていた。
運動神経が悪いというレベルの話ではなかったし、葉月と体育の授業で良い勝負をしたという話を、皆聞いていたからだ。
葉月は、バド部の中でも即団体戦メンバーになれる実力があった。
それだけに口には出さないでいたが、”驚異の新人”というイメージでいただけに、何かの間違い、人違い、夢、嘘・・・など、現実を受け入れるのに戸惑っているようだった。
葉月は、50m走のことを忘れていたわけではないが、そっちの方が何かの間違いだったんだろうと思うようにしていたため、特に部員にそのことは言っていなかった。
「今日は、体調わるい・・のかな?」
一ノ瀬が声をかけた。
「はぁ・・はぁ・・。いえ、大丈夫です。試合が始まれば・・ちゃんと・・出来・・ます」
「試合?」
「あ、えっと、キャプテン、まだ有栖さんにルールもちゃんと教えてなくて・・」
葉月が慌てて間に入った。
「いいわ。試合をしましょう。私がやるわ」
「キャ、キャプテン・・!!」
「今度決勝トーナメントがあるんですよ!キャプテンは集中して練習しないと・・!」
「有栖さんは、葉月さんといい勝負したんでしょ?もしかしたら良い練習になるかもしれないじゃない。それに、二人とも今年の予選には出られないし、次の世代に今のうちに何か残しておかなくちゃね」
インターハイ予選の受付は、個人戦、団体戦ともに4月中に締め切られていたため、二人は予選に出場することは出来ないのだ。
「で、でも、あの子じゃ良い練習なんて無理ですよ・・」
「やってみないとわからないじゃない。コートに入ると人が変わるかもしれないし」
「そんな漫画みたいな・・」
「有栖さん、私と試合してくれる?」
「は、はい、お願いします」
こうして有栖は葉月と試合をすることになった。




