加減
第15話
「どう?まだ痛む?」
「うん・・結構強く打ったからね、まだ痛むけど、でももう大丈夫」
「そっか、それならいいけど・・。ごめんね。私が手伝ってなんて言ったから・・」
「ううん、僕ももし有栖さんと同じように、あんなことができたらいいなって思ったし、手伝えてよかったよ」
「そう言ってくれると嬉しいけど・・」
「だから、これからも何かあれば言って!力になれることがあれば何だって手伝うからさ」
「ありがとう・・」
「うん!でも、なんだかすく疲れたなぁ・・。あのリストバンドを使ったからか、どっと疲れがきたよ・・」
「私も、最初にユニフォーム着た後すごい疲れた!今も、少しは慣れたけどけっこう疲れがきて眠くなってきちゃった・・」
「早いけど、今日はこのくらいにしようか。有栖さんも昨日遅くまで作業して疲れてるでしょ」
「うん、そうしよっか。今日はごめんね。でも本当にありがとう!」
「学校が終わった後にでもまた一緒に続きやろう!じゃあ、また明日学校で!」
「うん、またね!」
疲れには勝てず、早々に切り上げることになった。
有栖も、その後の作業はせずに寝ることにした。
次の日
どうやら二人とも筋肉痛になったようで、足取りが重かったが、無事に学校には来ていた。
重症具合で言えば有栖の方がひどそうだったが、学校を休むほどではなかったようだ。
「へへっ」
二人とも学校ではほとんど会話はしないが、目が合るとお互いに「そっちも筋肉痛?」というような表情で笑った。
「頭は怪我してない?」と有栖がジャスチャーで送ると、「頭?あぁ、全然大丈夫!」と東雲は返した。
クラスメイトの話が聞こえてきた。
この日は体育の授業があり、バドミントンをやる予定となっているらしい。
クラスメイトの話題の中心は、葉月がバドミントンをまた始めた、ということのようだ。
葉月は、中学時代に手首を痛めたためにバドミントンから離れていたが、熱心なリハビリのおかげでまた始めることができるようになったようで、陸上部でも有望株の葉月が部を離れることにかなり惜しまれ、引き止められたが、意を決してバドミントン部に転籍したそうだ。
しかも、元々かなりの成績を残していたらしく、クラスメイトは体育の授業でそのプレーが見られることが楽しみなようだ。
「へぇ、葉月さん、バドミントン部に戻るんだぁ」
有栖は、50m走の時に助けてもらってから、葉月を密かに尊敬し、憧れていた。
「私も見てみたいなぁ」
有栖も体育の授業が楽しみになってきた。
午前中の授業が終わり、昼休みも終わるとそれぞれ着替え、体育館に向かった。
授業が始まる頃にはすでに葉月がネットを張り終えていた。
先生と一緒に準備運動をして、各自がラケットを持って順番に打ち合った。
交代で葉月の番になると、みんなが手を止め、葉月を見ていた。
パシッ
パシッ
パシッ
鋭くて、早くて、かっこいい姿に、男子も女子も見惚れた。
どの競技でもそうだが、本格的に打ち込んできた者のプレーというのは、普段素人同士の遊びでしかやったことがない者からするとってもかっこ良く見える。
それでも、葉月のプレーはただかっこいいだけではなく、思わずずっと見ていたくなるものだった。
「ちょっと、恥ずかしいんだけど・・」
葉月も、全員の視線が自分に集まっていることに気づいた。
「やっぱりうまいなぁ」
葉月の言葉のあと、周りが自分たちの練習に戻る中、惚れたような眼差しでまだ見ていた。
「有栖、今日は普通に授業に出られるんだな!」
「あ、は、はい!」
先生に声を掛けられ、現実に戻った。
「この前までずっと学校休んでただろう。先生心配してたんだけど、もう大丈夫なのか?
「は、はい。すいませんでした。もう大丈夫です」
「そうか。ん?リストバンドなんかして、本格的だな!」
「あ、こ、これは、また前みたいにならないように、怪我の予防というか・・」
先生にリストバンドのことに気づかれ、ドキッとした。
「そうか!そういう準備も大事だな。楽しみにしてるぞ!でも無理するなよ!」
「は、はい」
先生は、50m走の時以来、有栖のことを気にかけていたようだ。
リストバンドについてはそれ以上何も言われなかった。
「有栖さん、私たちもいこ」
有栖の順番になったらしく、練習相手の女子に声を掛けられ、コートに向かった。
「筋肉痛は治ってないけど、ちょうどバドミントンの授業だし、私も葉月さんみたいに打てるように少し練習してみよう」
そう言って、コートに向かう途中で腕につけていたリストバンドを3回回した。
「じゃあいくよー。えいっ」
相手の女子が下打ちでシャトルをポーンとあげた。
ちょうど有栖の頭上にあがり、タイミングを計って打ち返した。
パシッ
「きゃっ!」
ポーン
パスッ
加減して打ち返したつもりが、なかなか強烈なスマッシュとなり、相手が咄嗟に出したラケットに偶然当たって返ってきたシャトルがネットかかって落ちた。
シーン
・・・
「えっ?」
周囲の視線が有栖に集まった。
「や、やばい・・!」
慌ててリスバンドを反時計回りに2回回した。
しかし、時すでに遅しだった。
「えー!有栖さんすごくなーい!?今のなに!?超速かったんだけどー!!!」
「有栖って経験者!?ねぇねぇ!今のもう一回やって!!」
「もぅ~!経験者なら言ってよ~!本当にびっくりしたー!」
たった一回のショットでも、本当に加減をして打っていた葉月と、加減をしたつもりでも加減の仕方を知らない有栖では、その質は大きく違った。
それは、素人目に見てもはっきりとわかるものだった。
「あー・・・やっちゃったよ・・・」
一人、事情を知っている東雲は、遠くから頭を抱えるように見ていた。
「今の見た!?まじすごくね!?」
「おれ見てなかったんだけど!何?何したの?」
「超速いの打ったんだよ!あんなの来たらまじびびるし!」
男子の方もざわついていた。
(やってしまったぁ・・)
有栖は心の中で叫んだ。
「てか、有栖さんと葉月さんの試合見てみたくない?」
その一言で、視線は一斉に葉月に向けられた。
「うっ・・」
その視線には怪しい光が宿っており、「試合しろ 試合しろ 試合しろ」と言っているようだった。
「まぁまぁまぁまぁ!みんな落ち着けー!そんなに葉月にプレッシャーかけるなぁ!体育の授業なんだから、気楽にやろうぜ!」
「先生が気楽にとか言っていいんですかー」
「そこっ!揚げ足を取るな!葉月はこれから大会があるんだから、体育の授業は少し力抜くくらいでいいんだよ!それより皆が体動かせ!」
(そ、そうだそうだ!)
有栖は心の中で抵抗した。
「でも、せっかくだったら二人が試合しているとこ見てみたいよな~」
「なぁ~」
生徒側もすぐには引かず、少々ごねるように抵抗した。
(やりたくないよぉ。てか葉月さんが私のこと相手にするわけないよぉ・・)
有栖は心の中で愚痴を言った。
「んなこと言ってもなぁ・・。葉月はどうだ?」
「私は、構わないですけど」
「やった!!!」
生徒達は喜んだ。
「えーーー!?」
有栖は声に出して言った。
「有栖はやりたくないのか?」
「あっ、い、いやいやいや、やりたくないとか、じゃないです!」
(葉月さんがOKしてくれた!?)
さっきまでやりたくないと思っていたが、葉月がやっても良いと言ってくれたことが嬉しくて、やる気がでてきた。
「私も、やりたい、です・・」
「よっしゃーーー!」
「まじ!?超テンションあがるんだけど!!」
クラスメイト全員が歓喜した。
有栖のショットを見ていなかった者も、周囲の反応を見て面白そうだと考え、一緒に喜んでいる。
「しょうがない・・じゃあ1ゲームだけやってもらうか。いいか!終わったらちゃんと自分たちの練習もするんだぞ!」
「はーい」
こうして有栖と葉月の試合が決定した。




